第8話 彼女がもたらした一つの結末

 一般に魔眼使いはこう思われている。

 魔物をおびき寄せると。

 だからよくある話だと思う。そう思いたい。

 魔眼使いの生まれた村が滅ぶという話が。

 私の村はそうだった。

 私がとても小さかったころの話だ。とても体の弱い子供で、よく臥せていた覚えがある。そんな私を父、母、兄が面倒を見てくれた。

 その日はたまたま体調が良い日だった。私は久しぶりに外に出て日向でボーっとしていた。当然家の仕事など何も手伝わせてくれるはずもなかった。

 家族が私のことを気遣ってくれていたことはわかってたが、その頃の私は窮屈に感じていた。そこから連れ出してくれたのは兄だった。

 早めに畑仕事の手伝いから上がって来た兄に手を引かれ近くの森を散策した。

 今の私にはできない表情で舞い上がっていたと思う。自身の体が弱いことすら忘れて、遊んでいた。

 だがその途中で私は当然の如く体調を崩した。

 急に胸が苦しくなり意識が遠のいていく中で考えていたのは、私を連れ出したことで兄が叱られてしまうことだった。


 その日の夜は酷かった。体調を崩すとき、軽度ならだるい程度、重くても風邪より少し重い症状が出るくらいだったのに、全身が燃えているように熱かった。

 だがぼんやりと全体が熱いわけではなく、体の中に線が張り巡らされそれが発熱しているような熱さだった。

 それが次第に眼に集中していった。全身のそれが眼に集まるとそれはもう焼けているようで、母が布をかませてくれなければ舌を嚙みちぎっていたかもしれない。

 この地獄からいつ解放されるのだろうと考え始めて何時間たったのか。はたまた数分しかたってないのか、痛みを我慢することで精一杯な私には判別付かなかった。

 それは唐突に終わった。

 やっと終わったと思った次の瞬間、背中に激痛が走った。

 布を噛んだままでよかった。

 そんなことを考える暇もなく私は失神していた。


 翌日の朝、目を覚ました。いつもに比べて格段に調子がいい。朝はだるくて体を起こせないほどなのに、むしろ今は体を動かしたくてたまらない。

 今のほうで誰かが話していた。誰だろうと思って扉に耳を近づけると、聞きなれた薬師の声が聞こえた。


「やはりバーモルは?」

「ええ、、、魔眼使いに目覚めたと考えるのが妥当でしょう」


 このころの私は魔眼使いのことなど少しも知らなかった。


「辛いことを言いますが娘さんは村から放逐したほうがよろしいかと」

「え!?魔眼使いの例の話は百年以上も前に」

「いえ、ほかの村で魔眼使いが生まれた場合、滅びていました。その話はデマかと、、、」

「そんなバカな。発表したのはあの人だというのに?」

「真実は自身の目で確かめるしかない。しばらくそのままにしてみたらいい。ここはすぐに魔物が寄り付く危険な場所に様変わりしますぞ」

「そんな、、、」


 私は話の内容に十数秒間、ボーっとしていた。

 だがこちらの部屋に近づいてくる足音で意識が戻る。

 私は床に戻り寝たふりをした。


「どうすればいいんだ、、、」


 そういう父と母のつぶやきを聞きながら。




 父と母はその話を信じたわけではなかった。証拠にいつもと変わらず接してくれた。

 だが月日が過ぎるとその話が信憑性を帯びてきた。

 私たちの村は定期的に冒険者を雇って危険な魔物がいないか周囲を探索してもらうのだが、今まで一度も問題のないその探索に初めて問題が起きた。

 いかに田舎とはいえ人が住める程度の場所だ。現れる魔物など村人が追い返せる程度のものでしかなかったのだが、討伐依頼をギルドに出さなければならないほどの大物が現れた。

 最初は一か月に一回だったがそれがどんどん頻度を増していった。

 私はあの話は本当だったのだと確信し、村を出る覚悟をした。

 覚悟したその日の夜に私は村を出た。

 私は当てもなく歩いた。

 ある程度知っているところを過ぎてしまえばあとはもうわからない。

 適当に歩いた。何日経ったのかは覚えてない。歩き続けた末に王都にたどり着いた。

 ちょうど夜で都合のいいことに検問をしている兵士が寝ていたのもあって簡単に潜り込めた。

 それから私は傭兵を始めた。

 冒険者は自分の能力を登録しないといけないらし。魔眼の露呈を恐れた私は冒険者を目指すのをやめた。

 それに比べて傭兵は楽だ。身分の保証はないが、好きなように依頼人を取れる。町の外に出るときは依頼人に頼れば簡単に出ることができた。

 そうした傭兵稼業を続けて、自身の力を認めるものが増えてきて大分生活が楽になり、ようやく街での生活を保障するための証明書を発行できた。

 それからは街を出入りするのは自由になった。私が最初にしたのは故郷に一度帰ることだ。もう一度住むことはできずとも、せめて家族の姿を一目見たかった。

 だが村近辺に行っても全然見つからなかった。昔と背丈も変わって距離を間違えたかと思い、周囲の地形情報を頼りに探した。

 だけど無かった。いや、正確に言えば

 遅かった、手遅れだったのだ。私が出るのをためらっていたからこうなったのだ。

 そう、考えるほかなかった。

 


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