第7話 魔眼使いのグリージィ

「突然ひょっこり現れた男だと?怪しいにも程がある」


 バーモルの説明を聞き終わるとエドワードはそう、言葉をこぼした。


「バーモルー?何をしているんですか?」

「ひぃ!?」


 ようやくバーモルが列から外れているいことに気づいたマリクルフィアが声をかける。

 それだけでエドワードは及び腰だ。ただ列から外れずにこちらに声を掛けているようで、近づいてきてはいない。


「そ、それじゃ。またな」

「情報提供に感謝する」


 そしてそさくさと冒険者ギルドを後にした。

 変な男だ、と頭を振り切り替えてマリクルフィア達のほうへ戻る。


「バーモルさん、エドワードさんと話していたんですか?」

「あ、ああ。そうだ」

「私、あの日から姿を見たことがないのですが、、、」


 バーモルは同じ宿に宿泊していることは誰にも言ってない。今は情けない姿を見せているが、あれでも救世の英雄。怒らせたらどうなるかわかったものではない。


「老いない英雄か、、、」

「?何か言ったか、優男くん」

「いえ、なんでも。それでどんな話を?」

「まあ、お前のことだ、グリージィ」


 どうもバーモルはこの男が苦手だ。なんとなくという程度の感覚だが、気色悪い気配を感じる。


「具体的には?」

「いや、お前と出会った経緯をだな」

「僕とバーモルさんとの馴れ初めを?」

「あらあら、熱いアプローチね。ふふ」

「ば、ばかを言うな」


 こう言ったグイグイくるのも苦手だ。なぜだか知らないが、彼はバーモルに好意を抱いているらしい。そんな好意を持たれるような原因となる出来事などあっただろうか。

 記憶にはない。この記憶に残りやすい見た目をした男を覚えてないのだ。きっと彼と彼女は出会ったことはないのだろう。

 ならば昨日、バーモルに向かって言った『仲間」が関係しているのだろうか。

 確かにバーモルとグリージィは仲間だ。それは昨日のコボルト討伐依頼で証明された。



 それは私にとって衝撃的な言葉だった。


「仲間、だと?」

「ええ。貴女も魔眼使いでしょう」

「、、、確かに私は魔眼使いだ」


 それを聞いて隣にいたマリクルフィアが体をびくつかせた。私も同じ反応をしてしまった。

 その他の四人は我関せずといった感じで話を流して聞いている。


「あれ?パーティの皆さんは知っているんだよね?」

「あ、ああ。まあ知っているが」

「あまり大きい声で言うものではないですよ?」

「んなもん気にすんなって言ってんだけどなぁ?」

「だから良い仲間を持ちましたね、といったのです。魔眼使いを受け入れてくれるパーティなんて中々いませんからね」


 この世界に存在する数少ないあ差別が魔眼差別である。いうまでもなく私も昔、その差別で嫌なことがあった。


「でもバーモル以外の魔眼使いは初めて見ました」

「まあそうですね。皆さん、魔眼使いであることを隠して暮らしていらっしゃいます」

「お前以外にもいるのか?」

「ええ、もちろん。皆さん僕の保護下で安心して暮らしていますよ。魔法適正は適当に系統外魔法ででっち上げっれば案外ばれないので」

「し、知らなかった。王都にかれこれ十年近くいたというのに」

「まだ最近できたばっかなんだ。それでもすでにメンバーは20人近くもいるんだ。それでどうだい?僕たちの集いに参加する気はない?」


 相手から誘われるのはこれが人生で二回目だ。一度目はマリクルフィアにパーティに加入するように誘われた時以来だ。

 なんとなくパーティメンバーを見渡した。

 マリクルフィアはこちらを見てグッと、拳を握りガッツポーズをしている。

 他のメンバーは周りの警戒をしている。

 出会って一年以上の関係だ。本当に居心地のいい者たちと出会えたと思う。

 故に、よりこのグリージィという男から感じる謎のきな臭さが強く印象に残る。


「いや、、、そういうのは良い。私は私でやって生きていけている」

「む。そうですか、、、みなさん歓迎してくださると思うのですが……」

「魔眼使いだとしても冒険者ギルドは邪険にはしなかった。バレることはないだろう。大丈夫だ」

「分かりました」


 取り敢えずの返答はこれでいいだろう。そもそもが依頼中だ。仲間に警戒を任せっきりだし、そろそろアサシンが帰ってこないことから警戒されていてもおかしくない。


「さてと依頼再開だ」

「んじゃ行くかー。そこの男も気をつけろよ。そこらへんうじゃうじゃコボルト共がうろついてるかもしれんからなー」

「それなら僕もついていきましょうかね」

「え?」

「もちろん僕も戦いますよ」

「戦えるのですか?」


 魔眼能力は多種多様。戦闘向きではない能力だってある。


「ええ。僕の能力は<貫通の魔眼>。硬度や厚さ関係なく対象を完全に貫くことができます」

「つっよ。反則じゃん」

「ありがとうございます。バーモルさんの能力は何なのでしょう」

「直ぐにわかる。本当に付いてくるならな」

「そうですか?なら付いていきましょう」


 アサシンの襲撃を退けたが、そもそも敵のアサシンの数は不明。一匹殺したせいで寄り集まってくる可能性もある。

 より一層慎重に進み到着予定を三十分過ぎてから辿り着いた。

 そこにあるコボルトの集落はとても平穏だった。

 まさかアサシンのことを気にも留めてないのか?もしくは統率が完全に取れてないのか?

 考えても答えは出ない。どの道、私たちにとって有利な状態で始めれることには違いないのだから。


「私とマリクルフィアはリーダー格がいると思われるところに行く。残りの四人は正面から入ってくれ。頼んだ」

「りょーかい」

「僕はどうしましょうか?」

「…私に付いてきてくれ」

「わかりました」


 何となく四人に付いていかせたらダメな気がした。


「お前たちが仕掛けたら私たちも仕掛ける」


 そう言って私たちはコボルトたちに見つからないように集落を迂回して最も守りの堅い場所へと辿り着いた。 

 周りの状況を確認し攻めの手段を確認したところ、入り口のほうから悲鳴が上がった。

 もちろんコボルトの悲鳴だ。門番をしていたコボルトが矢に射抜かれて絶命したのだ。入口の門に少女の姿がぼんやりと浮かび上がる。姿はソラにそっくりだった。

 見ればわかった。あれはブランカの水属性魔法が見せる幻影だ。

 それに向かって弓兵が弓を引き矢を射かける。

 それに対して私は魔眼の力を行使する。

 すると途端に矢の勢いが失して地面に堕ちる。それは真下にいた戦士級のコボルトに突き刺さる。

 とても簡単な仕掛けだからばれたらまずい。ばれないようにサポートしなければ簡単にタネが割れる。

 彼女たちが危険な役割を担ってくれたおかげで敵の位置や数がわかった。

 そしてもちろんコボルトリーダーの位置もだ。

 群れが危機に襲われれば顔を出してくるのはわかりきっていた。

 集落の中で一番大きい建築物から出てきた。ここまでは想定通り。

 しかし想定外が一つ。

 コボルトガードナーが奴のそばいることだった。

 奴の防御を抜くのは面倒だ。さてどうするか。


「ガードナーの防御を抜くのは大変です。僕の魔眼ならいけますけど」

「まあ、そうだな」


 最善はそれだな。


「なら頼む。だがまだだ」

「どのタイミングで?」

「このあとマリクルフィアが魔法を撃ってからだ」


 まず最初にマリクルフィアに魔法を撃ってもらう。

 だがその前に敵の動きを見る必要がある。

 絶対に奴らは再度矢を射かけるだろう。

 やはりだ。

 正体がわかるまで同じ手を繰り返すのは愚かすぎる。色々な手を試して情報を引き出すほうが先決だというのに。

 ちょうどいい。このタイミングだ。


「マリクルフィア、詠唱を開始してくれ」


「〝英雄の証を示す輝きの剣″」


 マリクルフィアが詠唱を開始したと同時に励起した魔力に反応してコボルトたちが一斉にこちらを向いた。弓兵はもう一度矢を番えなおしている。


「〝穿つは魔を放つ魂魄宿る敵なり″」


 詠唱が完了する前に矢が放たれる。無意味だというのにな。

 私の魔力を励起する。その魔力をすべて眼に集める。目に密集している魔力回路が熱くなる。

 準備段階プレステージ完了。

 私はマリクルフィアに目掛けて射かけられた矢雨を視認する。

 途端に、矢は勢いをした。

 私の魔眼は<消失の魔眼>。何らかの事象を消失させることができる能力だ。

 例えば、今は矢の勢いを消失させた。

 これで敵の攻撃はすべて彼女には届かない。


「〝暁の光を以て我が存在を世界に刻む″<ダグブリーグ>」


 詠唱を完了したマリクルフィアが黄色よりは白色に寄っている魔法陣を頭上に翳した。

 そこから現れた直径五十センチ程度の光球が剣の形を取る。

 マリクルフィアが手を振り下ろした。

 剣が凄まじい勢いで射出された。狙いはもちろんリーダーだ。

 狙いがわかると同時にガードナーが動いた。


「グリージィ!」

「ええ」


 隣で自分と同質の魔力が励起するのを感じた。

 ほんの少しの魔力が励起するのを待つだけでガードナーはグリージィの魔眼に心臓を貫かれて死んだ。もう遮るものは何もない。

 剣がリーダーを貫きさせた。光属性は威力がまちまちだというがマリクルフィアは違う。

 そのまま余剰の威力で近くにいた弓兵を消失させた。

 あとはもう中にいるのを殲滅するだけだった。


「<消失の魔眼>だったんですね」

「ああ。そうだ」


 終わった後彼がそう話しかけてきた。

 肯定するとなぜか口を押えて考え込み始めた。

 だがそれが嬉しそうに見えたのは私の気のせいだったのだろうか。




 依頼中に使った力が魔眼によるものであることは疑いようがない。

 だがそれでもこいつから感じる胡散臭さは何だ?





 そのころ一方でエドワードたちは街の中を未だに歩き回っていた。

 何も先ほどの接触は意味がなかったわけではない。


「やっぱりそうだな」

「ああ。さっきので確信した。この街にはなぜかバーモルの魔力残滓がある」


 魔力残滓とは文字通り、誰かが起こした魔力の残滓である。

 街中で魔法を使うことはよくあるし、魔法具ですら発するから誰も気にはしない。

 だがある特定の残滓が街全体で感じ取れるのは異常な現象である。


「しかも街全体に均一に。どんな超級魔法を使えばこの街全体に魔力残滓を残せるんだよ」

「それともう一つ。私たちがこの街にたどり着いた時と残滓の濃度に変わりがない。つまり、今もなお、何らかの魔法が常に発動しているということだが、、、。一体何が?」

「厄介ごとの気配がするなぁー」


 街に漂う謎の魔力残滓。それが引き起こす何らかの事件を、彼らは敏感に感じ取っていた。















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