帰郷

早坂慧悟

全話

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『フォルトゥナの瞳』が始まる前にマサシ(正志)とは別れてしまった。去年の年末は年明けに一緒に観に行こうと言ってあんなに仲良かったのに、本当に解らないものだ。


 希(のぞみ)は他にも仕事のことや引っ越しのことなどいろいろ考えねばならぬことがあったので、一度故郷の実家に帰ってゆっくり過ごすことにした。

 あの映画は帰ってから松江で見ることにしよう。


 いつもは早い時期から飛行機を予約して帰っていたが、今回は急なので飛行機の席は全て埋まっていて取れなかった。それで今回は初めて電車で帰ることになった。


 松江駅に着いた頃には、頭はもうふらふらしていた。子供の頃、この「やくも」に乗って吐いてしまった事があり、それ以来よっぽどのことがなければ乗ることはなかったが、この特急列車は昔と変わらず乗車中大いに揺れて、希は何度も気持ち悪くなってしまった。


 松江駅から家は松江しんじ湖温泉方面なのでバスに乗って向かうのが普通だが、希は歩いて家に帰ることにした。


 松江駅から歩いて帰るとき希にはいつも決まったルートがあった。この道順だと松江のシンボルともいえる宍道湖が白潟公園からの眺望が良くて美しい全景が見えるし、橋を渡ればすぐに旧市街で、ここには駅前とは違い松江らしい上品な和菓子屋さんやレストランが数多く点在し、夕暮れ時や夜の夜景が綺麗な旧日本銀行松江支店の威厳ある伽藍が其の儘のカラコロ工房の通りも見て通ることが出来る。


途中、お城回り塩見縄手の通りも歩いた。武家屋敷や小泉八雲宅を右手に、この白と黒の色合いのみの建物と塀を何年か振りに見ると、希は故郷に帰ったことを実感した。こんなお城近くを歩くのは小学校以来だ。普段は特に用事が無いので、この辺りを歩くことはない。静かなお堀の周辺は暗くなってから歩く気はしないが、月の夜影に照らされたお堀周(まわ)りは古い屋敷に囲まれてどれほど情緒的だろうかと歩きながら独り想像した。


「おや、めずらしい。」


家に帰ると台所から母が顔を出し、希の顔を見るなり言った。


「ただいま。お風呂沸いてる?」


鞄を玄関に放り出すと、土産を母に渡しながら疲れた顔で希は訊いた。


「沸いてるけど、その前に夕食食べちゃいなさいよ。東京から帰ってきてお腹すいてるでしょう。」


希は居間の炬燵に入ると蜜柑を剥き始めた。


「トオルくん今回は一緒に来れなかったの?」


トオルと付き合っていたのはだいぶ前の話だ、希はそれを聞いてあまり家へ連絡を入れてなかった自分に気付き心がかゆくなった。


「べつにまだ紹介する程でもないからね。」


「前にメールであなた、今度帰る時は絶対連れてくるっていってたじゃない。別れたの?」


 希は頭の中でトオルをマサシに脳内変換させていた。


「うるさいな。あんな男、いいのよもう。」


「はいはい。」


母はそれ以上詮索することを避けた。母が静かに配膳を始めると、希は炬燵の前で丸くなった体のままゆっくり夕食をとった。目の前に所狭しと並べられた小皿や小鉢には様々な故郷の食材が並んでいた。(うん、うまい。)これが故郷の味、実家のご飯だ。久しぶりに食べる実家の食事に何とも言えない解放感を感じた。


  食事の後、風呂から出ると居間でぼんやりと映画のビデオを見ていたが、さすがに眠くなり希は一階の奥の和室に向かった。とうの昔に希の部屋は無くなっていて実家に帰るとこの和室が希の寝室となっていた。

母もすでに寝てるようだ、廊下に出ると家の中はシンと静まり返っている。階段の下から二階を見上げるとおじさんの部屋からうっすら明かりが漏れていた。




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 おじさんはもう40歳になる。ちょっと前まで大阪に行っていたが、地元に戻り家に帰ってきてからは何もしていない。当然結婚などしていなく、希は会う度に将来どうするのだろうと気にしていた。もし自分がおじさんの立場だったら・・・独り身で一生の終わりを迎えることを考えるととても耐え切れそうにない。死んでしまうかもしれない。しかし当の本人は気楽なもので平気な顔でいつも実家や外でプラプラしていた。


 おじさんはたまに何かの仕事で長い間家に帰って来ない時があった。家にいても二階の部屋に一日中籠っていて、殆ど会うことが無かった。おじさんの部屋はもともと先々代から伝わる家の書庫を改装したものだった、そこには古くから家に伝わる書物の他に、おじさんが古本屋などからまめに買い集めた膨大な蔵書があって、それは部屋の本段に整然と分類され置かれていた。希は学校の課題やなにか調べ物をするときは、近所の図書館に行かなくてもおじさんの書斎で大体事足りた。おじさんは家に居る時は大抵、その部屋に籠って書物を読みながら何か小説のようなものを書いていたが、それをどこかに応募したり誰かに見せる訳でもなかった。おじさんは専ら自分の楽しみのため丈にそれを書いていた。


 おじさんとは、大人になって家を出て以来顔を合わせることも話すこともなくなったが、この前帰省した折はたまたま家に居て久し振りに行った大社(おおやしろ)に就いて語っていた。


 「出雲の大社(おおやしろ)を見てしまうとね、大社と神社は違うという、いい方は悪いけど、大社の他の神社との当たり前すぎる位の違いにあらためて気づくんだよ。朱色や金色に塗りたくった装飾をあそこの建物に殆ど見かけないだろ。でもだからと言って地味なわけでは無いんだよね。大社造りの屋根の千木の形状ひとつをとっても、もうそこに単純ではない純粋にして崇高な意匠があって、古代日本の命脈に名状しがたいくらい度肝を抜かれてしまうんだよ。それはね、鳥居を朱に塗ったり、社の建物に金銀鮮やかな様々な動植物の彫り物で囲わせて、社そのものを審美的に目立たせようというものではないんだよ。まったく技巧とは真逆な、もっぱら日本人が心に描く天然一般に由来する、心の奥から沸き起こる古代からの煌びやかさへの畏敬の念から起こる感動なんだよ。

その出雲大社に行った時のことなんだけどね、ちょうど僕の前にいた若い女性がずっとお祈りしていてね、その時間のながいこと長いこと、僕が参拝を終えた後もまだ祈っているくらいなんだ。よっぽど彼女にはなにか大きな願いごとか悩みごとでもあるのかと、逆に見ているこっちが感心してしまったよ。彼女は恋人と上手く行ってないのか、将又彼女のご家族にご病気の方でもいらっしゃるのか、何か真剣なお願い事があったことには違いない。その願掛けの内容は当然自分には分からない事だけどね。その光景が印象深かったもので、いまだ鮮明に憶えているんだよ。今書いている小説の中の小噺として、神社で懸命に祈る女性像でも加えようかなと、思った程にね。」


 なんでもその後おじさんは御札も何も授からず、門前横丁で甘味も蕎麦も何も食さず、さっさとガタゴト揺れる一畑電車に乗って宍道湖を見ながら真っすぐ家に帰ってきたらしい。まったくおじさんらしい話だ。

 その参拝に長い時間を掛けていた女性は、長い黒髪をしていた化粧の薄い人だったという。おじさんもたまには女性に興味をもつことがあるらしいが、おじさんの挙げたその人の特徴というものが抽象的過ぎていて、いざその人を探すとしたならばそれはまったく当てにすることが出来ない特徴だった。

そんな前に聞いたおじさんの話を思い出すと、希は久しぶりに大社に行きたくなった。


         

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  大社(おおやしろ)に来るのは本当に久しぶりだった。前に来たのが何時(いつ)であったかは憶えていないが、高校生の頃くらいだろうか。高校の時分から幾分年を取って、希はまだ若かったが、その頃よりは大社に囲う白松の一本一本その他の木々、小さな草花に至るまで、これら植物の生命の営みが神聖な神々の息吹の象徴であることを漸く理解できてきた気がした。それほどまで、悩み深きあの東京での日々の喧騒から故郷に逃げてきた彼女に、大社に息づく自然が予想以上の癒しを与えて呉れたのだった。

 二番目の鳥居を潜り抜けた先に続いている白松の小径を通ると、周りの空気にひんやりした涼しさが増してさらに神聖な気持ちになった。この径を通る度にそれは小さい頃から変わっていない。白い砂利石を踏み分け様々な形に曲がった松の木々の植栽を通り過ぎるとようやく拝殿と本殿が見えてきた。そうして最後の鳥居を潜り抜ける。

 よく写真などで見る大きな注連縄(しめなわ)が印象的な出雲大社の拝殿だ。子供の頃はこの巨大な注連縄が怖かった覚えがある。

 本殿に着くと、一人女性が参拝していた。ずっと目を閉じて手を合わせて静かにお祈りをしている。まだ若い女性だ。希はそのすぐ後ろで待っている間、彼女がなんだかおじさんの言っていたあの女性に思えてきた。女性は髪もちょうど真っ新な黒髪で、長さも長いと言えば長い。

 彼女の右側が空いたので希は本殿の参拝所に登り、その女性の横に立つと参拝した。そのとき横目でチラっと見た。隣に薄化粧の目をつむった女性がしきりになにかを祈念していた。

 希は参拝を終えて本殿を降りるとその女性が気になって思わず振り向くと一礼した。本殿を降りてすぐ左側に社務所がある。周囲を歩く前に、希はそこで少し休むことにした。社務所で希がお札やお守りを見ていると、さっきまで長い時間を掛け祈念をしていたあのお祈りに熱心な女性も降りて来て破魔矢や鈴などを見ていた。希が破魔矢の方に手を伸ばそうとした時、ふと誰かに呼ばれた気がした。顔を上げても誰もいない、そもそもここに知り合いはいないはずだ。空耳だったか、と希は気を取り直しお札を授かろうと巫女さんの方を振り向いた。するとさっきの女性が矢を手にして希の目の前に立っていて目が合った。

 「あ、どうも」相手が通り過ぎるのに邪魔になってしまっているのかと思い、希はその女性に軽く会釈して道を開けた。女性の方は「いえ、すみません。」とだけ言って、希の横を通り過ぎるとすぐにその場を離れた。

黒髪の彼女は、真正面から近くで見ると生真面目そうであるが目鼻立ちがはっきりとした綺麗な女性だった。そして化粧は薄い。おじさんが言っていた通りだ。去り際に見えたが彼女はかわいらしいスニーカーを履いていた。


 希が周囲の末社を左回りに参拝しようとすると、さっきの女性も左回りに末社をひとつひとつ参拝していた。自然、希もその後ろを付いて歩く形になった。

10月に全国からやって来る八百万の神々の御宿舎となる十九社を参拝していた時、女性の黒い鞄からお守りの入った袋が地面に落ちるのが見えた。希はすぐ後ろにいたのですかさずそれを拾うと土を払い、女性に声をかけた。

 「ありがとうございます」

希からお守りを受けとると女性は深々と頭を下げ、落としたお守りをもとの鞄の中へ仕舞った。

 「拝殿や社務所のほうでさっきもかち合っちゃいましたね。せっかくのご参拝の折、お邪魔になったかと…」

 

 「とんでもない。わたし一人でこういう所に来るの初めてなもので、同じように一人で来てるあなたを見て勇気付けられたんです。さっきお土産屋さんで思わずあなたに話しかけようとしたんです。」

 女性はそう言うと笑った。

 社務所を無邪気にお土産屋さんなどと呼ぶこの女性に希は興味を持った。

女性は橘(タチバナ)さんといい、佐賀県からひとりで来たらしい。

九州の女性が旅とはいえ、一人で九州を離れることもあるのか。希は、昔おじさんから九州の話を聞いたことを思い出した。

なんでも九州の女性は、全般的に、九州の外へ出ることがないのだという。松田聖子や黒木瞳なんかは特別中の特別な存在で、地元ではあんな風に男まさりに活躍する女は女らしからぬものだと見るものもいるというのだ。いつか自分は、そんな健気で我慢強い九州の女性が周囲の目を気にせず九州の外へ出て活躍していく小説を書きたいおじさんは言っていた。九州の女性に関してのそんな話が本当かどうかはか解らなったが、それがおじさんの話す持論だった。


 「すみません。ちょっと聞きたいことが、あるんですけど。」

白松の長い参道の帰り径を歩き終える頃、橘さんはちょっと勿体つけて言った。

 「何でしょう?」

 「出雲ってやっぱりお蕎麦が有名なの?この辺(あたり)で食べた方が美味しいのかな。」

 なんだ、お蕎麦の話か。希は出雲そばに限らず蕎麦そのものがあまり好きではない。

 「うーん。どこも一緒ですよ、私はあんまり食べたことはないですけど。」

希は橘さんに聞かれて、思わず言った。

 「それより橘さん、結構歩いて疲れてませんか。せっかく大社の門前まで来たのだし、ここはぜんざいですよ、ぜんざい。」

 「ぜんざい?」

 橘さんは初めて聞くようにその言葉を繰り返して言った。

 「出雲も松江もぜんざいが美味しくて、お蕎麦屋さんもお蕎麦と一緒に出す店があるくらいなんですよ。」

 「へぇー。ぜんざいって、あの御餅の入ったお汁粉みたいなもの?」

 「そうです!甘くて美味しいですよ。とくに今日みたいに寒い日は、心も体も暖まりますし。」

 二人は神門通りのご縁横丁にいたので、すぐ近くの「ぜんざい餅」のお店に入った。


 店は和風の内装で凝った作りをしていた。店内の装飾や小物もかわいらしい風情が漂っていて、店内に多くいる若い女性客の雰囲気にマッチしている。

 二人は窓際の一番端の席に腰かけた。

 熱い煎茶を飲みながらメニューを選ぶと、ほどなくして二人の前にぜんざいが運ばれてきた。ぜんざいのお椀が上品な小さなお盆に載せてある。

 「すみません。何だか私が名物を食べるのに付き合わせてしまったみたいで。」

 橘さんが申し訳なさそう小さな声で言う。

 「いいえ、私も久しぶりに食べたかったとこなんです。ほら、一人じゃなかなかお店には入れないでしょ。さあ、食べて、食べて。」

 茶と桃のかわいい色合いの器の中では、赤と白の小さなお餅が小豆餡子の汁の中でちょこんと浮かんでいた。

 一口二口食べ進むにつれて橘さんの顔に笑顔が出てきた。

「これ、すごく美味しいね、紅白餅も小ちゃいのにふわっふわっしてて。見た目も本当にかわいらしい。」

「私、これが大好物で、ここに来ると何時(いつ)も食べるんです。」

 「こんな美味しいものを教えていただいてよかった。私、実はお蕎麦はそんなに好きじゃなかったの、特に蕎麦ツユが。塩辛い関東風の。」

 「やだ、私もです。ふふ。」

 希は小さな白玉餅を口に頬張りながら答えた。なんか友達といるみたいだ。

 2人とも添え物の胡瓜漬けは残して、ぜんざいを食べ終わった。


 「今日は初めて会ったのに親切にして頂いて、本当にありがとう。希さん。ええと・・」

 「高(こう)です。高い、という漢字一文字。希(のぞみ)です。」

 「わたしも名前は一文字、同じね。橘優子で読み方は長いけど。高さんは、地元の人?」

 「はい、松江です。今は東京に住んでいますが、その前は神戸に。」

 「へえー!私、九州から出たことなくて。いいねぇ。」

 東京と聞くと皆同じ顔をする。そこはちょっと離れた大きな都会だからであろうか。それともそれは神戸に対して言った言葉だったのだろうか。

 「橘さん、佐賀でしたっけ。」

 「ええ。」 

 「遠くから来られましたね。」

 九州と山陰は直線状の距離は割と近い。山口を過ぎればすぐだ。佐賀が九州のどの辺りの場所にあるか分からないが、山陰の交通事情から言ったら日本全国何処から来ても遠いといえば遠い。希はなんとなしに聞いた。


「でもとても熱心にお参りされてましたよね。」

橘さんは曖昧な笑顔を作った。

「ええ、この旅行がうまくいきますようにって。」

橘さんはそれだけ言うと黙ってしまったので希はそれ以上何も言わなかった。


 橘さんは松江のホテルに宿を取っているらしい。希は車で出雲大社まで来ていたので、このまま松江駅までお送りしましょうかと聞いたが、申し訳なさそうに断られた。

 橘さんは行きに出雲市駅からバスで来たから、帰りは念願の一畑電車に乗ってゆっくりと帰りたいのだそうだ。おじさんと同じだ。

 「私、映画が好きで、『レールウェイズ』という映画知ってますか?昔彼と見た思い出の映画なの。電車の運転手になった会社員の話なんですけど、当時の彼が会社のことで悩んでいてとても共感するんですよ、僕も故郷に帰って何かしたいって、映画見た後しきりに頷くのよ・・・たしか主演が中井貴一さんだっかナ・・・・。その映画に出てくるのがこのオレンジ色の一畑電車の車両なの。今日はそれにどうしても乗りたくて。」

 中井貴一と聞いて、希はあのおじさんの役者さんを思い出した。橘さんは中々好みが渋い。

 「へぇ、その映画は知らないです。面白そうですね。」

 その映画を今度是非見てみてと橘さんはしきりに薦めていた。

 橘さんとはそのぜんざい屋の前で別れた。去り際、希はあらためて橘さんの顔を見た。彼女は瓜実(うりざね)顔の美人さんだ。佐賀は半島や大陸が近いから渡来人の祖先も多く、彼女のようなどこか日本人離れした美貌もそのひとつの表れなのかなと希は思った。清楚で涼し気な容貌が際立つのは薄化粧の為(せい)だろうか。服装も落ち着いていて派手さがない。大人の女性といった感じだ。

多分希より年上だろう。女性の側から見ても彼女は美人だったが、彼女の場合男性の側から見ても好かれそうな美人顔をしている。黒い鞄の他に後ろの背中に可愛いリュックを背負っている。とても一人旅なんかをするような女性には見えない。すぐにでも、傍らから彼氏か誰かが出て来て仲良く一緒に歩いて行きそうな感じの人だ。しかし彼女の姿が一畑電車の駅舎に消えるまで、横を一緒に歩くような男性は現われなかった。


おじさんに言わせると島根の出雲そばは県外では通用しないそうだ。故郷を出て神戸に住んでいた自分はうどんばかり食べていたので蕎麦の事は分からないが、古本を探しに年に何回か東京などにもよく行っていたおじさんの話すことだから、強(あなが)ち間違った事は言っていないのだろう。食べ物にはそれほど執着を見せないおじさんだったが、蕎麦についてだけは日頃からよくこう言っていた。


「出雲そばのつゆは西日本の内(うち)ではまだ甘しょっぱくて蕎麦つゆとしてはいい方なんだけどね、肝心の蕎麦自体がどうも。まあここらの水や気候の影響もあるんだろうけど。丁度いい位の頻繁に食べたくなる蕎麦がないんだよ。値段も質の割に高いところが多いしね。だから今書いている小説の登場人物たちも蕎麦は食べない設定なんだ、特に出雲そばはね。代わりに甘いものが好物な設定にしたんだよ。そのほうが喫茶店のシーンとかも書き進めやすいし会話も弾むからね。それに、なにより現代らしいだろ。」

地元で蕎麦などそんなに食べていなかったおじさんの言うことだから、その真偽は分からないけど、その影響から私もいつしか蕎麦を食べなくなった。


            

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「ただいま。」

 家に帰ると真っ暗で誰も居ない。母はどこかへ出掛けている。

 希は灯りをつけるとテレビのリモコンを探した。

 誰もいないと実家の家の中は鎮まり返っていて、時計の針の刻む音だけが家の中に響いていた。心なしか家の中が冷え込んで寒い。


 今はまだ母がいるからいいものの、彼女がいなければここには誰一人居ない場所になってしまう。

 希は外套も脱がずにそのまましばらく居間でぼんやりしていたが、地方放送局特有のクセのある番組構成に馴染めず、東京とは違うテレビ番組に嫌気がさし居間をでた。

 何かおじさんの部屋にある蔵書の一冊でも暇潰しに読もうかと、おじさんの部屋に入った。


 『えっ?』

 おかしな事に部屋が変わっている。おじさんの部屋をうっかり間違えたかとドアを一端閉め、よく見た。間違いない、一番奥の和室の手前、ここは紛れもなくおじさんの部屋である。


 部屋の中は明かりも無く真っ暗な上 、色々な荷物が雑に置かれていて長い間使われていない様相を呈している。部屋のなかに書架はあるが、埃まみれの色褪せた古本が乱雑に積み上げられたまま放置されている。

 しばらく帰らない内に、おじさんは部屋を変えたのだろうか。この部屋からはしばらく使っていないカビ臭い匂いが立ちこめていた。その荒れようから部屋が閉められたのは昨日の今日の話ではない筈だ。

希は読書を諦めると静かにその部屋の前から去った。

丁度そのとき、階下で母が帰ってきた物音がした。



「しばらくはいるんでしょ」

夕食の後、母が希に言った用事は老舗の和菓子屋への遣いだった。

「もうお寺へ品物は頼んであるから、あなたはうちの分を取りに行ってほしいの、ほんの数個よ」

 なんでも近いうちにお寺でまた法事が有るらしく、希は自宅の来客用の菓子折りを取りに行くことになった。わが家の贈答品はいつも彩雲堂だ。近所のショッピングモールにもお店はあるのだが、母は駅の方にある本店にこだわっていてそこでないと駄目だという、だから注文はいつもそこだ。


「味なんて大して変わらないよ。昔と違って今は工場で作ってるんでしょ」

面倒くさそうに希は言った。


「だめようちは昔から本店で買っているのだから、仏様に怒られてしまうわ」


そんな母の言葉にいまどき菓子のひとつに怒るものが何処にいるのかと希は言いそうになった。希は結局本店まで行くことになった。


「わかったわよ。明日ね、夕方でもいい?」




次の日。

 彩雲堂での買い物の帰り、もう夕方に近かったので宍道湖の夕日でも久しぶりに見ようと白潟公園まで歩いた。辺りは少し薄暗くなっていたが、今日は晴れていたためいつもより夜の帳の時間が遅く感じられる。


 公園を宍道湖大橋の南詰めまで歩くと青柳の大灯篭が見えてきた。


 希はこの大きな石灯篭が好きだった。薄暮時になると石灯篭から明かりが漏れて、そのシルエットが湖を背にぼんやり夕焼けに浮かんだ。その姿には独特の情緒があり、希は昔、松江に住んでた頃はよくあたりが真っ暗になるまで石灯籠の前でぼんやり過ごしていた。


 だから公園を散策する時はこの石灯篭を目印にしてコースを決めていた。今日はちょうど日没前のいい時間なので美しい灯篭の姿を見られることだろう。歩くたびに夕日が落ちていき、周りは夕焼けのオレンジ色を濃く帯び始めていた。夕日が宍道湖に沈みかかるとき、夕日の光線が宍道湖の水面からふんだんに拡散され、このように松江の地上の全てをその夕焼け色のオレンジの光線で満たすのだ。


 希は歩いている足を不図止めた。見覚えのある後姿がオレンジ色に煌めく宍道湖の湖岸に佇んでいるのが見えたからだ。


 あれは、橘さんだ。ちょっと雰囲気や服装が違っているけど彼女に間違いない。


 湖に近い距離で岸に立っている。宍道湖との境には柵も無いから公園から宍道湖の湖岸にそのまま降りることが出来た。あんな岸辺の近くに佇んでいったい何をしているのだろう、辺りがさらに暗くなってきているので彼女の様子が分からなかった。


 「橘さーん!」


 思いの他、明るく大きな声が希から出る。あの日は大社のぜんざい屋の前で連絡先を互いに交換した。希はその夜、簡単なお礼を彼女に入れたが彼女から返事はとうとう今日まで返って来なかった。それから連絡も取れないままであったので、希はもう橘さんと会えることはないと思っていた。希は橘さんを見かけ、まるで顔馴染みの親戚にでも再会したかのような嬉しい気持ちが出てくるのを抑えられなかった。


 湖畔の女性は希の声に驚いて振り返った。橘さんだ。前と髪型が違い服も何か今日は地味だが間違いなかった。希はうれしさのあまり近くに駆け寄った。岸辺の淵で小石が何度か希の足に絡み転びそうになった。


      


「あの、ええと・・。」


 橘さんの様子がおかしい。とても疲れていて、全然元気がない。あの日とはまるで別人のようだ。


 「大社(おおやしろ)でお会いして、そして今日もまた。なんという偶然でしょう。まァ松江はせまい町ですからね。」


 「大社?何時のこと?」


 なんてことだろう、ついこの前会ったばかりだというのに橘さんはわたしを覚えていなかった。やっぱり別人だろうか?いや、このきれいな顔立ちと上品な物腰は橘さん本人に間違いない。別人のはずなどない。


 「そうそう、先日はぜんざいをご馳走になっちゃって、わたしが言い出したことなのにすみませんでした。これから少しお茶でもいかがですか。この先にフランス菓子のお店があるんですよ。ぜひ案内させてください。やだなーわたしの名前忘れちゃいましたか?希です。高希。」


 「・・・え、希ちゃん?」


 橘さんはとても驚いた様子で、しばらく口をあけたまま何も言わなかった


 「希ちゃんなのね、まあなんて偶然なの!」


 「橘さん!」


 希は自分を思い出してくれた橘さんに近付こうとしたが、それより先に橘さんの方が希にかけ寄って来た。

 橘さんは希の洋服の袖にしがもつくと希を見つめた。瞳には涙があふれている。まるでこの世が終わってしまったかのような表情だ。涙の粒を落としながら橘さんは言った。


 「希ちゃん。私、いまあなたに会えてとてもうれしいんだけど。いまとても悲しいの。死んだ方がマシなくらい。」


 その言葉は思いがけず希には辛辣だったが、その涙に橘さんの化粧が台無しになるんじゃないか、でも橘さんは薄化粧だから大惨事にはならずだいじょうぶか、と希はへんな心配をした。

 その後矢継ぎ早に飛び出る言葉はすべて突拍子無かった。彼女は結婚がどうとか、彼の故郷が挨拶が、など全部いっぺんに話し始めたので、希には橘さんの話す内容がまったく分からなかった。しかし彼女が失恋をしたということだけはなんとなくわかった。希は橘さんの手を取ると彼女をさすりながら宥めるように言った。


 「橘さん、何があったか分かりませんが、そんなのは全然大したことじゃないと思いますよ。そんなに泣くほどのことなんてこの世の中にないですから。ちょっと涙を拭いたら、冷静になってみましょう。それまでわたしがお話をお聞きます、側にいますから。」




 彼女は二重人格者なのかそれとも心に何か深刻な病気を持っているのだろうか。それは解らないが、橘さんの感情が深刻な状態にある事だけは間違いなかった。その後彼女をそのまま一人で公園から帰らせずに、カラコロ工房近くの喫茶店に連れて行くと一緒にお茶を飲みケーキを食べた。


あたたかいお茶と甘いケーキを摂りながら橘さんの話を聞いているうちに、徐々に彼女の様子も平静に戻ってゆき感情の高ぶりも消えていった。




 「本当にもう大丈夫ですから。久し振りにお会いしたのに、こんな姿見せちゃってごめんなさい。」


 弱りきっていた彼女だったが、これ以上の迷惑は掛けられないと許り、気を遣って一人で帰ろうとしていた。


ついちょっと前までの彼女のひどい取り乱し振りを見ていた希は、彼女が心配だった。まだ一人にさせるのは能くないと判断した。


「橘さん、わたしが前に働いていた松江料理の居酒屋がこの近くにあるんです。ちょっと行ってみませんか?」


 


「あら、希ちゃん!戻って来たの?すっかり綺麗なお姉さんになっちゃって!」


 川京に入ると、女将さんが希を見るなり昔と変わらぬ長広舌で話し掛けてきた。その質問のひとつひとつに希は丁寧に答えながら、隣にいる橘さんを紹介した。すると女将は、まあよく来てくれたと、予約もしてないのに店の奥の席に案内してくれた。


今日は、わたしの『娘』が来たから大サービスだよ。と言うと女将は希たちに次々に松江の名物料理を運んで来て呉れた。


「希ちゃん、ここで働いていたの?」


店内のメニューの短冊書を珍しそうに見ながら、橘さんは希に聞いた。


 「学生の時アルバイトですけどね、おかげでお酒に強くなりました。」


 川海老の塩焼きに、セイゴの奉書焼、鮒の糸造り、バイ貝と刺身盛り合わせと、〆は鰻雑炊が出た。橘さんはサワーを片手に料理の数に驚き大変満足していた。


「いいわねお酒は、何か元気になれた気がする。希ちゃんは日本酒も飲めるの?」


「はい。お酒に酔わない体質なんで、私サワーやビールじゃいくらでも飲めちゃうんで、日本酒にしてるんです。」 


希は松江を出て以来はじめて生酒「李白」を升酒で注文し軽く飲んだ。希が升酒を飲むたびに女将が注ぎに来て、希が飲み切ると女将は拍手する始末だった。こんな雰囲気の居酒屋で上品な橘さんは大丈夫だったかなと心配したが、思いの外彼女も楽しんで明るい酒を飲んでいた。この店に連れてきたのは大正解のようだった。いくらか朗らかなった橘さんは横の希に微笑みながら言った。


「そうよね。ひとつのことがはっきり出来たんだから。それだけでも満足しなきゃね。いつまでも落ち込んでもいられないしね。」


「そうですよ。橘さんなら、大丈夫ですよ。元気出してください。」


 「川京」で希と楽しくお酒を飲んでいる内に橘さんの様子もすっかり変わり、昨日の昼会った時のような本来の明るさを取り戻したかに見えた。




 「希さん、本当に今日はありがとう。あなたと最後に楽しい時間を過ごせてよかった。」


 別れの時、明るい笑顔で橘さんが言った。「最後」って表現が希には気になった、来たばかりなのにもう橘さん帰ってしまうということか。


 「また、松江にいられる内にもう一度くらい会いましょうよ。私いつでも大丈夫ですから。」


 「ありがとう。でも、私もう全部分かっちゃったから、ここにいても仕方ないから、もう帰るわ」


 そういうと橘さんは寂しげに微笑んだ。


「そうそう、希ちゃんにこれ返さなきゃ。」


そう言うと橘さんは鞄からちいさな袋に入った小箱を出すと希に渡した。

開けてみると綺麗な銀の指輪だった。ダイヤの輝きが見える、どこか見覚えのある指輪だった。

「指輪?」

希は思わず聞いた。


「やっぱりその持ち主は私でなかったみたい。あの人に一番近いあなたが持っていてほしいの。」

あの人?・・・・

突然のことに希は戸惑ったが、橘さんは続けた。

「縁結びなら、希ちゃんが東京に帰るときに持ってた方がよっぽどいいわ。」

橘さんはそう言うと笑った。

だいぶ落ち着いたとはいえ、さっきまであれだけ取り乱していた橘さんを知っていた希は取り敢えず黙ってそれを受けとることにした。また次回彼女が落ち着いてる時に返せばいい。そして希は手にぶら下げてたままの菓子屋の紙袋に気付くとそれを開けながら言った。


 「そうだ。橘さん、これよかったら。」


 希は家で頼まれて買った「彩雲堂」の菓子折りのひとつを橘さんに渡した。

彼女はありがとうと笑顔でそれを受け取ると、そのまま振り向きもせず暗闇の中に消えて行った。



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 それからしばらく橘さんからは音信がなかったが、数日後の朝になって連絡があった。彼女はまだ松江市内にいるらしい。


 彼女は初めての一人旅で遠く離れた土地に来たせいか、ここ数日調子が悪かったそうだ。それでも昨日はなんとか松江市内を歩いたらしい。


彼女は言った。

「希さんのお薦めの場所とかありますか?せっかく松江まで来たんで、楽しい思い出になりそうなところあったら教えてほしいんですけど」

 橘さんからそう聞かれた希は、ご案内しましょうかと訊ねた。橘さんははじめ遠慮してたが最後には「じゃあお願いしようかしら。」と答えた。


希は車で橘さんの泊まっているホテルまで迎えに行った。出発する前は、地元で有名な安来(やすき)美術館でも案内しようかと思っていたが、着いてみると橘さんは昨日から疲れていて近いところのほうがいいといった。それで近場の松江フォーゲルパークに行くことになった。橘さんは優しそうな人なので、この花と鳥の楽園に満足してくれるはずだろう。



入ってすぐにあるベゴニアの景観を見た瞬間から、花と鳥が大好きな彼女はすっかりこの楽園の虜になてしまった。特にフクロウのショーは希もフクロウが飛行するところを見るのが初めてで、目のすぐ前をフクロウが飛んでくる迫力に二人とも歳を忘れて子供のようにはしゃいで楽しんだ。


 橘さんは「数日前の夜から急に疲れが出てしまって」と言っていたが前に宍道湖公園で会った時と比べると全然元気で顔色も良かった。あの宍道湖の湖畔で泣き出した女性とは、どうしても同じに見えない。あの日は何故あんな辛気臭い格好をしていたのか、失礼だがそのときの印象は暗く地味だった。大社で会った希望に満ちた橘さんとはカラーがまるで違っていた。


 今日の彼女は、迎えに行ったホテル前で佇む姿も希望に満ちて若々しい女性であるのが見て取れ、初めて会った時に感じた魅力あふれる上品な女性、橘さんそのものだった。あの日は本当にどうしちゃったんだろうか。


 会ってすぐに先日夜遅くまで「川京」に連れ回してしまった事を詫びたが、あまり憶えていないのか彼女は不思議そうな顔をしていて反応は今一つだった。あの夜は橘さんがあんなに楽しそうでいたので気に入ってくれたものだと許り思っていたが、まあいいか。橘さんも結構飲み過ぎちゃったていたからな。そう思い希は、橘さんの反応を見ると、あの日の話は彼女の涙も含めてこれ迄にすることとした。


園内の「フローラ」で2人は休憩とともに遅い昼食をとった。すっかりフォーゲルパークが気に入った橘さんは「九州にも、こういう場所があればいいのに。」と言って、今日見てきた色々な草花や野鳥について希とデジカメや携帯の写真を見せあいながら楽しく語らっていた。


 希には橘さんにどうしても聞きたいことがあった。



 「失礼ですけど、橘さんって彼氏さんとかいるのですか?それで悩んでるとか」


 急なこの質問に橘さんは黙ってしまった。急に馴れ馴れしくプライベートの話はまずかったかなと希は反省した。


 「あの、すみません。失礼でしたね。」


 橘さんは笑うとお茶を飲み、言った。


 「いいえ、全然。高さんはいるの?」


 「わたしはいたんですけど、最近別れちゃいました。いつも長続きしないんですよね、わたしの場合。」


 橘さんは笑うと、なにか可愛いらしいものを見るような目で希を見た。


「でも、高さん親切で可愛いらしいから大丈夫よ。今度は長続きするよ。・・・・・私は・・いまは、いない。」


 橘さんはどこか遠くの方を見て暫く黙っていたが、希の顔を見ると静かに話し始めた。


「でも、彼がいないわけじゃないの。」 


彼女は慎重に言葉を選びながら話し続けた。

「その彼は今いなくなっちゃってるんだけど、私の彼はちゃんといるのよ。只いなくなっちゃっただけで・・・。」


「それって。すみません、ちょっと意味が・・・。」 


「ごめんね、でもそうとしか言えないのよ。だって急に何も言わずにいなくなったんだもの。別れ話をされた訳でもないのに。別れる予兆もなかったのよ。いなくなる前の日まで会う約束をちゃんとしていたんだから。」


「その人は失踪か何かしてしまったんですか?」 


「それがわからないんです。携帯も急に繋がらなくなってしまってそれっきり。彼がこの松江市内の出身なのは聞いていたんだけど、まだ実家にお互い行くような仲じゃなかったしね・・・。」


橘さんの顔がだんだん曇ってくる。


「彼から急な話があるからと約束して、彼が来ることになっていた前日に携帯から何からプッツリと連絡が途切れてしまったの。彼の勤め先に電話をしてみたら、もうだいぶ前に辞めてたらしいのね、社宅もすでに引き払っていて。彼は派遣社員だったから会社もやめた理由も引っ越し先も知らないの一点張りで、派遣会社の方も個人情報だからとかなんとか言って何も教えてくれないし。もう何がなんだかわからなくて…」


 悲しそうな橘さんを見て、希はなにか現実的な対処方法はないものかと考えた。


「そんな大事な人なら、いっそ興信所や調査会社を使って調べたらどうですか?」


希は煮え切らない彼女に具体的に解決策を示した。


「そうね、流石にもうその通りなの、で私も今回ようやく決心したわ。こっちに足を運んだのもその為よ。でもね、もしかしたらひょっとして松江の街角で彼と会えないかなって期待も持ってたのよ。昨日もずっと松江市内を歩いていたわ。」


 橘さんは今回の旅で、お金は少し掛かるが人探し専門の興信所を使って、彼の居場所を調べる決心をしたそうだ。ずっとこない彼からの連絡を待っていたのも、自分が彼に捨てられた現実をみたくなくていままで調べる勇気がでなかったそうだ。

 橘さんは細い手首にした腕時計を見ると、そろそろ行かなきゃ、と言った。帰り道、希は橘さんが帰る日には駅まで彼女を見送るこを彼女に約束した。





 家に帰ると郵便受けに、新聞の夕刊と葉書が数枚届いていた。その中でも綺麗な新緑の絵葉書がひときわ目を引いた。


 『護摩堂 延命寺』


 お寺さんからの葉書だ。表の宛名は安立文(アダチフミ)となっている。なくなったおばあちゃん宛てだ。


 仏壇にその絵葉書をお供えすると、残りのものは全部捨ててしまった。


 前に聞いたことがある。おばあちゃんは有名な祈祷師の血筋を受け継いでいる家系の出で、護摩信仰の関係者の間ではちょっとした有名人だったらしい。それは鞍馬山の天狗様や高尾山の山伏様のような念力者がいる所と聞いていたが当時はよく分からなかった。そのお寺、延命寺に子供の頃に厄除けで連れて行かれたことがあった。線香の匂いが漂う真っ暗な御堂の中でひたすら響く読経の声を聞きながら退屈していた思い出がある。


「あー喉乾いた。何か飲み物あるー?」


居間でたたみものをしている母に希は冷蔵庫を開けながら訊いた。


「お茶あるでしょ、ちょうどそこに作り立てのが薬缶に入って。」


忙しい母は振り向きもせずにそう言った。希は黙ってガスコンロに向かうと薬缶から冷めたお茶を自分の分と母の分とふたつ、湯呑に注いで居間に持ってきた。


「はい、どうぞ母上。」


希がちょこんと湯呑をテーブルに置いた時、母が言った。


「ところであなた、この前大社に行かなかった?春日のおばさんがね、大社のぜんざい屋に希によく似た女の子が一人でいるのを見たらしいわよ。」


橘さんと会った日以来、希は大社を訪れたこともそこでぜんざいを食べた事もなかった。おばさんの見間違いだろう。それとも橘さんと一緒にいるところをたまたま一人でいると勘違いされたのかな?


「前に話した日以外行ってないよ。」


「そう。じゃあ希に似た子だったのかねえ。川京のおかみさんも、この前あなたが一人で店に来てくれたんだと喜んでいたから、てっきり一人でブラブラしてたのかと思ったよ。昔のおじさんみたいに。」



希は自分でもこの話は腑に落ちなかった。一人で?なんだろう。おかみさんはあの日きた橘さんの素性を知らないから、気をつかって母には言わなかったのかな。




テーブルの上に「彩雲堂」の菓子折りが置かれていた。


 「また法事に誰か来たの?あれ、これうちで買ったやつじゃないね」


 台所から持ち出した煎餅の袋を開けながら、希が聞いた。


 「ああ、それ。太助(たすけ)の知り合いだった人が訪ねて来て下さってね、今し方(いましがた)帰られたのよ。それを仏様に持って来て下さったの。」


 台所で夕飯の支度をしていた母が言った。


 「ふうん、おじさんのこと能く知っている人なのね。おじさん『彩雲堂』のお菓子が大好きだったもんね。」


 菓子折りの包みを開けながら無邪気に希は言う。


 「わあ、満天のもある!私、さっそく切ってくるね。」


 「だめよ、仏様にお供えしてからよ。」


 「大丈夫よ、おじさんだもん。屹度笑って赦してくれるわ。」


 希は台所から包丁を持ち出すと、満天を切り分けそのうちの大きな一切れを摘んで食べた。


 「その人、太助が亡くなった事をつい最近まで知らなかったらしいのよ。長い間太助のことが気になって探していたらしいけど、おばあちゃんと住んでたた頃の足立の名で探していたみたいで、ここになかなか辿り着けなかったらしくて本当に苦労したみたいよ、何社か人探し専門の会社に頼んで何年もかかってようやくここがわかったんですって。そんな話をしながら遠慮して最後まで玄関先から家にも上がらず、お墓の場所を聞かれたので教えてあげたらそこに歩いて行ったわ。」


 希は話を聞きながら2つ目の青み掛かった満天を食べる。透き通るような甘味(あまみ)が口中に広がった。若草が残っていたが、希はあまり好きでないので食べなかった。希は母が出してくれたお茶を飲みながら言う。


 「あ、それでか!昨日お墓参りに行ったんよ。そしたら、おじさんのお墓に見慣れない綺麗なお花が供えられていて。地面に若草の包みが散らかっていたのはカラスに食べられちゃったからね。その人がお墓参りしてお供えしてくれたのよ。」


 「でも、その人が来たのは今日の話よ」


                6


その話を聞いて、 希は数年前のことを思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「希(のぞみ)、早く支度なさい」

家に帰ると今まで見たことのない剣幕で母親が言った。


「どうしたの?」


学校から帰ってきたばかりで制服姿の希は鞄を手にしたまま聞いた。


「数日前におじさんが大阪で事故に遭ってたらしいのよ。今朝警察から連絡がきたから、あなたも身の回りを用意したら私と一緒におじさんを迎えに行くのよ。」


わたしも行くの?と希がまだぐずぐすしていると、母は言った。


「ああもう、着替えなくていいから。制服のまま早く支度をなさい!」


「ええー、帰って来れないのー?晩ご飯どうするのよ。」


 まだ若い希には事態の深刻さが判らず、制服姿のままでいいという母の言葉から何かを読み取ることは出来なかった。




 霊安室に置かれた棺は、他の普通の遺体のように小窓から中を覗くことは出来なかった。


 電車との衝突でおじさんの体はとても正視できる状態ではないらしい。遺体の確認は母の兄である叔父がおこなったが、確認した後暫く何も話さなかった。母は棺の横でずっと泣いていた。年の離れた太助おじさんの母親みたいな存在だったから仕方ない。


 おじさんの遺体はバラバラになってしまっていて損傷がひどく、身元の照会には大分時間がかかった。身に付けていたものや持ち物でほんの少しの回収出来たものは何とか復元されたが、鞄や携帯電話などは特急電車との事故の衝撃で原型を留めていなかった。身に付けていたはずのメガネさえ発見できなかった。無傷なものは殆ど無かったが、財布だけは比較的無事だった。


 その財布に入っていた運転免許証の残骸から身元判明の糸口が掴めたことは、不幸中の幸いだったといえる。財布の中には他に何枚かの長距離鉄道切符が残されていた。行先は松江と福岡になっていた、家に帰る前にどこかに寄るつもりだったのだろうか。


 もうひとつ、奇跡的に無傷だったものがあった。おじさんが事故に遭う直前に大阪の百貨店で買った指輪で、かなり高価なものだった。




 四十九日が過ぎ、一周忌が過ぎた頃、母がそれを、まだ殆ど開けてない綺麗な包装紙のまま箱ごと希に手渡した。


 「希、これはあなたが持ってなさい。おじさんの形見だから。本当はおじさん、誰かに渡すつもりだったのかも知れないけど、今となってはどこの誰だかわからないし、そのような女の人はお葬式にも来なかったしね。」


 「おじさんの形見を、私が貰っちゃっていいの?」


 「おじさんもほかの人に貰われるより本望だろうよ。でも、太助がこれを渡そうとしてた相手ってどんな人だったろうね。来る予定だったあの人かね。どんな人か一度会ってみたかったね。みんなでご飯を食べながらその人や太助と色々なことを話して・・。」



 その指輪はまだ若い希が身に付けるには大人びた凝った造りのものだった。希が指輪をネットで調べると、それはデビアスという外国製の指輪であることが判明した。ネットの中古の売買金額をみても簡単に買えるような品物ではない。おじさんは何か決心してこの指輪を購入したのではないか。希はそれを知るとなんだか怖くなりこれをおいそれと身に付けることが出来なかった。指輪はしばらく眺められたあと、大事なものとして引き出しの中に仕舞われた、そしてそのまま2度と取り出されることはなかった。




あの日黄色い光線に包まれた宍道湖の湖畔で橘さんから指輪を受け取って以来、希は何年も引き出しにしまったままのあの指輪のことを思い出した。なんとなくあの指輪と形状が似ている。しかし今さらそれを出して競べた所でなんだというのか、それを渡すべき者も受けとるべき者ももはやこの世にいない。時の忘却のなかでとうに消え失せたあとだ。



そう、おじさんはいない。歳も取らない。40歳になるなんて、わたしの空想の中での話だ。おじさんは30半ば過ぎで亡くなった。ちょうど今日のように雪の降る寒い冬のことだった。


「おじさん、生きていたら今頃何をしていただろうね。」


 「おじさん?どこの伯父さんよ。」


 母が訊ねてくる。


 「おじさんよ、この家に居た。」


 「ああ、太助(たすけ)おじさんのこと・・。そうだね、想像つかないね。何をしてただろうね。」


 「私は、家でプラプラしてたと思うよ。会社辞めて家に戻ってきて、毎日部屋に籠って本を読んだり書き物をしたりして一日過ごしていたはずだよ。」


 「そうだねえ。」


 母は今だにおじさんが、あの時大阪駅で自ら死を選んだとは思っていなかった。母はおじさんから悩みごとなどを聞いていて何か知っていたのではないだろうか。


 「わたしも、もうこっちに帰ってきちゃって家でブラブラするかな」


希が言う。


 「希の好きにするがいいよ、あんたの人生なんだから。こっちは人が少ないから人の居場所なんていくらでもあるからね」


母は言った。


「そうね」


希はそう呟いた。


希は、大阪に行ってたおじさんが久し振りに島根に戻ってきた日のことを思い出していた。


 


ある晩、母親に希は呼ばれた。


 何でも近い内に、おじさんが女性を松江に連れてくるのだという。


 「へぇ、おじさんがねー。結婚相手かな。」


 「だから、あなたもいつまでも子供みたいな態度でおじさんに接していては駄目よ。連れてくる人の前で失礼のないようにね。」


 


 「おじさん。結婚するの?」


 母からそれを聞いて無邪気にすぐ本人に訊ねるほど、希はまだ若かった。


 「いや、まだ結婚するわけじゃないよ。家族に紹介したい人がいてね。今度一緒に帰って来るだけだよ。」


 「ええ!実家に女の人を連れてきて家族に紹介するなんて、もう近いうちに結婚するんじゃないの?おじさん、ねえその人何ていう人?名前は?そのひと美人?」


 「美人かな、どうかな。」


「へえー!」


「希ちゃん、おじさんがじきに結婚するから、寂しいんだろ。」


「あー、キモイ事言ってる。おじさん、そんな事言ったらその人にもてなくなっちゃうよ。可哀想、こんなおじさんと結婚する人なんて、あーあ。」


何だかんだ言って、結局希がおじさんをからかって、いつものように会話は明るく終わるのだった。


 しかし、それからしばらく経っても、おじさんはその人を連れて実家に帰って来ることは無かった。




 「私が、一緒に彼の故郷に行く直前になって親に他所に出ることを反対されて断ってしまったの。もしあの時わたしが一緒に松江に行っていれば、わたしは今、彼の側にいたかもしれないわ。」

 初対面の私に「今はいない彼」のこと語る彼女は、何だか希を前からよく知っているかの如く語っていた。しかし希はこの時彼女の事も彼女の正体も知らなかったので、そのことを話す橘さんの話をただ不思議な優しい感情とともに聞いてあげる事しか出来なかったのだった。

 これはつい数日前に初めて出雲大社で橘さんに会った日、再び宍道湖の公園で夕暮れ時に橘さんに会った時、優子さんが私に話してくれた話の全てである。


あれからほぼ毎日、夕暮れ時になると、希はあの日夕方、オレンジ色の宍道湖の湖畔で泣いていた橘さんにまた会えないものかと、橘さんのいた白潟公園や宍道湖の湖畔はもとより松江市内を隅々まで歩き回ってみたが、やはり、橘さんに会う機会は二度と訪れなかった。


夕日が沈んだ宍道湖の白潟公園から希が疲れて帰ってくると、おじさんはいつも家の居間にいた。家にいる時はおじさんは大抵自室にこもっていたのだが、このところ執筆している小説の話にゆき詰まってしまったらしく居間にいることが多くなった。この家に帰って来てから、おじさんがずっと執筆していた長編小説はもうすぐ終わりを迎えるようだった。しかしその小説の終わりの直前になって、今までの話に矛盾が来たしだしただという。


 


 「小説の中で、どうしても『彼女』は『その男』に会うことは出来ないんだ。それもそのはずで、その男は実は死んでしまっているんだからね、いくら探してもいないのさ。彼を探し続けていて、ある時それを知ってしまった彼女は絶望のあまり湖に飛び込んで死んでしまう。だけど思いが強すぎたんだろうね。彼女は過去の世界を永遠に彷徨うことになるんだよ。人間の情念の業の深さってやつだね。」


まったく現実世界に撞着しないおじさんのこの他人事のような独白を聞き、希は橘さんを思い出すと抑え切れなくなってしまった。


 「前におじさんが大社で会った女の人のこと覚えてる?この前、私大社でその人と会ったんだよ。彼女は橘さんっていうらしいよ。」


 おじさんはいつもの通り何の反応もしない。


 「ねぇおじさん、橘さんを知ってるんじゃないの?彼女わざわざ佐賀から松江まで人を探しに来たんだって。」


 おじさんは固まったままだ。


「覚えてない?本当に知らない?彼女かわいそうだったよ、ずっと誰かを探してるんだって。」


希は何度も聞き返したが、おじさんには聞こえないから反応はない。

希は相手に伝わらない言葉をひたすら続けた。


「おじさん、ねえおじさん!」


「・・僕は」


 抑揚のない声でおじさんは独り言を始めた。


「夢を見ていたんだ」


「夢?」


おじさんは自分がいまだ眠ってる積りでいるのだろうか、こんな独白を続けた。


「深い深い夢だよ、ぎりぎり思い出せるかどうかくらいのね。もう自分がどこにいたかなんて分からないよ。死ぬ前も死んだあとも、人間の意識なんてそんなもんなんだろうね。楽しさも苦しさもない、湖の底に沈んだような感じだよ。でも・・思い出せる大事な人間の一人もいないとすれば、自分はとうとう死んでしまっているのかもしれないね。」



おじさんとは会話が成立しない、言葉の受け答えも出来ない。無表情で青白い顔のおじさんはいつもこうやって抑揚ない口調で一方的に話しているだけだからだ。しかし、希が言うことがしばらくして伝わったのか、橘さんが帰ったある日、おじさんはこんなことを言った。


 「友達はもう帰ったのかい?」


 家に帰ってから、テーブルで本を読んでいると二階からおじさんが聞いてきた。


 「帰ったよ。」

希は本を読みながら一応返事はしたが、いつものように反応はない。


 ついさっきも同じことを聞かれた気がする。数日前に駅でたまたま希を見かけたという話を聞いたばかりだ。


 おじさんは先日、荷物を持って駅に向かう希の姿を見掛けたらしい、希が駅に向かって友達と歩いているのが見えたのだという。おじさんには彼女の記憶がないから、橘さんを希の友達くらいにしか認識できないようだ。橘さんのことを思い出すことはとうとうできなかったのだ。


「もしその友達がひどく困ってるようだったら力になってあげなさい。友達というものは元来そういうものだからね。」

・・・・・

まるで他人事のようにおじさんは橘さんへ労わりの言葉を示した。

彼女が誰なのか最後までわからずに。

 



 希は橘さんが佐賀へ帰った日のことを思い出した。


 最後に松江城と塩見縄手を橘さんに案内した後、カラコロ工房の近くでお昼を一緒に食べた。食事をしながら希は橘さんに言った。


 「じゃあ、今度松江に来るときには、もうその人の居場所はすっかり分かっているんですね。」


 希が聞くと橘さんは笑顔で小さく頷いた。

 橘さんは今回の訪問で、中国地方で有名なある大手の調査会社に調査をお願いする意思を固めていた。遅かれ早かれ、彼の居場所が判明することは時間の問題だった。


 「でも、もし今度来た時に彼に新しい彼女さんがいたらどうするんですか?」

希がちょっといじわるく言っても、もう橘さんの穏やかな顔は変わらず、彼女は不安に包まれることはなかった。


 「もういいのよ、どんな結末も受け入れるってわたし決心したんだから。彼のことはもう許してあげようと思ってる。彼の姿を見れば私も諦めがつくわ」

 

 「そうですか」

  

 「でも・・・」


 「でも?」


 「でもやっぱり、私を差し置いて彼が結婚なんかしてたりしたら・・・」


 「してたりしたら?」


 希は興味深げに聞いた。橘さんは少し黙ってから言った。


 「思いっきりひっぱたいてやるわ。」


 橘さんを感情を抑えるようにすぅーっと息を吐いた。

 

 二人は声を出して笑った。


 橘さんと2人で最後にお昼を食べながら、希は橘さんとなんでこんなに気が合うのか不思議でならなかった。一緒にいてもまるで違和感がなく、まるで親戚のように思える。いつまででも彼女と一緒にいられるのだ。だから別れの日はちょっと悲しかった。


 そしてこの日、希には是非とも橘さんに渡さなければならないものがあった。


 「あの、橘さん。これを」


 「これって。指輪・・・?」


 「そう、見ての通りの指輪なんですけど。」


 いまの橘さんは、あの指輪を持っていないはずだ。指にデビアスをしていない。


 「これ。大事に持っていてほしいんです。縁結びのお守り、彼が見つかるまでの」

 橘さんはこの指輪をはじめてみるようだった。そして受けとるのを遠慮していたが、希はそれを松江に伝わる縁結びの指輪だと嘘をついて渡した。

 

 「ありがとう希ちゃん。なんだかこれを持ってると本当に彼に会えそうな気がするわね。」

 そう言ってキラキラ輝く指輪を見つめながら橘さんは笑った。そんな彼女を見ながら希は引き出しの中にしまいこんだ古い指輪がもうすでにそこには無い事を確信した。





 希は駅からのいつものコースをひたすら歩きまわった。

 白潟公園や宍道湖に面した湖畔の道をくまなく歩いた。そしてあの日もう一人の橘さんに出会った附近で立ち止まると、その周辺を何回も通り過ぎてみた。しかしあの橘さんの姿はもうどこにも見つからなかった。


希のすぐ横の石灯籠は夕暮れの薄暮の中でとうとうと灯りを点していた。それは湖と地上の境が夜に闇のなかでまぎれ、生者と死者の境いが判らなくなる前にそれを防ごうとしている守護神のようであった。


岸辺に誰も人はいなかった。


希は疲れ果てて石灯篭の下に座り込むと、灯篭に寄りかかりじっと完全に日の暮れるのを待った。


 宍道湖をオレンジ色に染め上げて沈む夕陽を眺めていると、松江の全てが人も建物もオレンジ色に輝いている。自分もその中にいて、湖を反射するオレンジ色の光線に包まれている。


 そこには夕陽のオレンジ色があるだけだった。


 あの日会った橘さんも今頃、松江のどこかにいてあの日のように、このオレンジ色の湖を見ているのだろうか。

      


             〈おわり〉

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帰郷 早坂慧悟 @ked153

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