Mission02: スクランブル

 真っ先に駆け出したゼルゲイドは、一番にゲルゼリアのAdvancerアドヴァンサー格納庫へと到着していた。


「シュヴァルリト・グラン……。出番だ、応えてくれ!」


 シュヴァルリト・グランと呼ばれた全高32mの巨大な人型兵器は、何も答えない。代わりに胸部装甲を展開させ、おのが主を受け入れんとする。

 と、アドレーネが追い付いた。


「ゼルゲイド様、速いですわ……!」

「アドレーネ様!」


 アドレーネはやや息が上がった状態で、ゼルゲイドの元まで歩み寄る。そしてゼルゲイドよりも先にシュヴァルリト・グランに搭乗すると、後部座席に着席した。


 ゼルゲイドは自らも前方の座席に着席し、携行していたキーをセットする。すぐさま胸部装甲が閉じ、一拍遅れて、咆哮ほうこうの如き音がシュヴァルリト・グラン周辺の空間に響きだした。


「キーのセット完了、エンジン1番、2番、3番、始動確認」


 続けて、ゼルゲイドとアドレーネの正面にあるモニターが一瞬白く光ってから、“Schwarrit_Gran”と文字が浮かび上がった。

 順次機体や武装の状態が記録され、モニターに表示される。


「プログラム起動確認。機体コンディション、オールグリーン。武装、オールグリーン」


 咆哮はさらに強くなる。

 シュヴァルリト・グランのカメラアイが、オレンジ色に輝きだす。


「エンジン出力、規定値突破……」


 モニターに、カメラアイが映している光景が投影された。起動が完了した証拠である。


「おはよう、シュヴァルリト・グラン!」


 漆黒の巨人が目覚め、足を踏み出す。足取りは見る間に軽いものになっていき、そしてカタパルトの上に両足を乗せた。

 カタパルトはシュヴァルリト・グランの両足を固定し、射出準備を整える。シュヴァルリト・グランもまた、自らの背面に装備したブースターを噴射させて応える。


 発艦のカウントダウンが聞こえる中、ゼルゲイドは両手で操縦桿を握っていた。

 ゼロを告げると同時に、最大まで前に傾ける。


「……ぐっ!」


 これまで何度も発艦してきたゼルゲイドでさえも、いまだこの感覚は慣れない。強烈な荷重が体全体を押し潰さんとしてくるのだ。

 ともあれ、カタパルトと最大推力でもって自らの愛機を空へ打ち上げることに成功したのである。ゼルゲイドは早速、ゲルゼリアや僚機りょうきに向けて無線を発した。


「こちらエクスカリバー、発艦に成功した。やることを教えてくれ」

『こちらM。エクスカリバー、無線発信箇所の座標を送ります。プロメテウス隊と合流しだい、最大速度で急行を』

「了解だ、M」


 “エクスカリバー”とは、ゼルゲイドとアドレーネの搭乗するシュヴァルリト・グランに与えられたコールサインだ。

 ゼルゲイドはシュヴァルリト・グランを、空中で静止状態にした上で待機させる。

 数秒のち、ゲルゼリアから4機のAdvancerアドヴァンサーが発艦した。


 白を基調に、赤と金で飾った機体だ。ゲルゼリアと同様の色を持ち、炎の如き塗装を施されたこれらの機体は、しかし1機だけ角の如きブレードアンテナが頭頂部に付いていた。

 その1機を指揮官機グリンドリン、他3機をリクシアスと呼ぶ。


『こちらプロメテウス1ワン。発艦成功、エクスカリバーと合流した』

『了解した、プロメテウス1ワン。5機で編隊を組み、指定した座標に向かえ』

『了解。各機、行くぞ』


 プロメテウス1ワンと呼ばれた壮年の男は、他の4機を率いてV字型の編隊を組む。

 そして一斉に炎を噴射しながら、音速の何倍もの速度で飛翔した。


 そのわずか20秒後、プロメテウス1ワンが空での異変を見つける。


『こちらプロメテウス1ワン。輸送機とその護衛機、ついでに敵のリクシアスを発見した。無線にあったポートダックだろう』


 プロメテウス1ワンの搭乗しているグリンドリンは元より、編隊を組んだリクシアス3機とシュヴァルリト・グランもまた、カメラアイに同じ様子を捉えていた。


『了解だ。交戦を許可する、輸送機と護衛機を救出せよ』

『了解。各機、彼らを助けるぞ!』


 その号令に合わせ、編隊が2機、2機、1機と分散する。

 真っ先に敵である灰色のリクシアスたちへと突撃したのは、シュヴァルリト・グランだ。




「うおおおおおっ!」

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