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カミノ栞

河川敷デート

 カレンダーでは三月初旬だというのに、気温はまるで初夏のようだった。あたたかな風が頬を撫でる。川に沿うように土手の上に並んでいるソメイヨシノの枝には、はやくも薄赤いのつぼみがついていた。地球温暖化のせいか、桜の開花が年々早まっているように感じる。充血したように色付いているそれは、いまにも皮をむいて中身をあらわにしようとしていた。

 私は夫と週末の河川敷を歩いていた。夕方になって人は減ったもののまだジョギングする人や家族連れの姿が見える。

 私が夫の腕にしがみついていたのは、甘えていたからではなく、体が崩れ落ちてしまわないように耐えていたためだった。夫は、身長が180センチほどあり、定期的にジムで体を鍛えているだけあって体格もよかった。それにくらべて、私は150センチちょっとの小柄だったから、傍からみれば大人の腕に子供がぶら下がっているようにみえたかもしれない。

 いま私の性器には玩具おもちゃが挿入されている。

 その玩具は、平仮名の「つ」のような形にカーブしていて、長い方は膣に挿入され、短い方は陰核にぴったりと密着していた。

 そして夫の右手には小さなリモコンがあった。夫がリモコンのスイッチを押すと、膣内のバイブレーターの振動が子宮口を刺激し、陰核はポッポッポッと一定の間隔で吸引された。

「う……」思わず声が漏れる。バイブレーターの振動が子宮にまで響く。吸われた陰核は充血して肥大し、包まれていた皮を脱いで、中身を剥き出しにした。二ヶ所を同時に、かつリズミカルに、愛撫される。

 私は足を止めた。一人では立っていられない。必死に夫の腕に掴まり、自分の体重を支えなければならなかった。

 小さな愛玩犬を散歩させていた老婦人とすれ違いざまに目が合った。老婦人の怪訝そうな視線が痛い。

 立っているのもやっとだというのに、夫は私を引きずるようにして、強引に歩き出した。私は、便意を我慢しているかのような、不自然な歩き方になった。

「カナ、そんな歩き方してるとにバイブが入ってるのがバレちゃうよ。普通にして」

 夫はわざと冷淡な声色をつくって、そう言った。

 私は夫の理不尽さを非難するように、夫を睨みつけた。

(普通になんか歩けるはずがない!)

 私の無言の抗議に対して、夫は意地悪な微笑を浮かべるだけだった。

 私は夫の笑顔が好きだった。


 太陽は地平線の下に落ち、空を茜色に染めた。あたりはすっかり薄暗くなって、もうジョギングをする人も家族連れもいなくなった。

 夫は私を橋梁の下に連れてきた。人気ひとけがなくなったとはいえ一応人目を避けるため、私と夫は巨大な橋脚の影に隠れた。頭の上を貨物列車が走り抜け、轟音を響かせる。

 私は仁王立ちの夫の前に、剣道の蹲踞そんきょのような姿勢で、しゃがんだ。その姿勢になるとバイブレーターがより奥まで入ってきて、先端が子宮口を圧迫した。私はその快感にイキそうになる。それを察した夫が、

「まだイっちゃだめだよ」

と私が勝手に絶頂に達しようとしたことを咎めた。

 夫はズボンのジッパーを下ろし、中に手を突っ込むと、ペニスを引っ張り出して、私の顔の前にぼろんと出した。勃起度は50%というところ。私はそれを右の掌の上に載せた。まだ柔らかいがずしっとした重量感がある。見ると、ペニスの先端から透明な液体がこぼれ出ていた。私は我慢できず、その透明な液体を舌先で拭った。すこし塩辛い味がした。

 すると、見る見るうちにペニスが膨張していき、同時に硬さも増していった。

「食べていい?」

 頭上にある夫の顔を見上げて、私は強請ねだった。

 夫は喉仏を動かし、ごくりと唾を呑んだ。夫も興奮しているのがわかる。

「スケベだな」

 舌をすこし出し、口を大きく開けて、ペニスの先端とゆっくりと包みこむ。そして舌でペニスを味わいながら、テンポのゆるいヘッドバンギングのような頭部の前後運動をはじめる。

「ああ、気持ちいい。カナ、おいしい?」

「…おい…ひい」ペニスを頬張りながら、上目遣いに答える。

「何がおいしいの? ちゃんと言って」

「…おひんひん…おいひい」

 自分の唾液で口のまわりがびちょびちょに濡れている。

 人通りもなくなり、橋脚の影に隠れているとはいえ、屋外でこんなことをして誰かに見られたりしたら……。近所の河川敷だ。知り合いが来ないとも限らない──そんなことを考えると、私は興奮した。

「もうだめ、イっちゃう。イっていい?」ペニスをいったん口から抜いて、私は懇願した。

「いいよ」

 夫の許可がでた。私は一気に自分を解放する。

「!!!」

 呼吸を止めて歯を食いしばり、声を噛み殺して絶頂に達する。体がビクビクと痙攣して、全身に快感が走り抜ける。しばらくして、私は溺れかけた人が息を吹き返すように、呼吸を再開させた。

「はあはあはあはあ」

 心臓がばくばくと飛び跳ねている。

 しかし快感の余韻に浸る間もなく、私の口の中に再びペニスがねじ込まれた。喉奥まで激しくピストンされる。息苦しいし、涙も出てきた。よだれが地面に堕ちる。

 突然、どろっとした液体を口の中いっぱいに出された。熱い。びゅっ、びゅっ、と何度も発射された。

 そしてすべてを出し切ると、ゆっくりとペニスが引き抜かれた。舌の上がピリピリと痺れる感覚がある。鼻に抜ける匂いが生臭い。

 見上げると、そこに夫の恍惚とした顔があった。いやらしくて愛おしい顔。

 口の中が精液でいっぱいだ。しかし私は、一滴もこぼすことなく、それを全部飲み込んだ。

 それを見た夫が、私の頭を優しく撫でてくれた。

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