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第8話 事件・上

　天ぷら海鮮の店のランチである海鮮定食を食べて、三人は曽根崎警察署に戻ってくる。気前よく櫻子が二人の分も奢ってくれた。鍵を使い中に入ると、櫻子は自分の席にゆったりと座った。

「じゃあ、笹部君。お願い」

　笹部と篠原が席に着くと、笹部は二人にパソコンを開けるように指示する。自分もパソコンの電源を入れて、話し始める。

「先ず、二週間前――僕たちがここに集まる前ですね。北エリアの新地？のキャバクラ『レジェンド』で、接客嬢の篠木彩（しのぎあや）二十四歳がアナフィラキシーショックで亡くなりました。これは偶然かもしれませんが、店の黒服が心肺蘇生して一時は蘇生しましたが、数時間後病院で亡くなってしまったので、一応カウントしました」

　新地の土地勘がないようで、笹部は僅かに首を傾げた。笹部が話し出すと、パソコンの画面に店の外観の写真と女性の写真が映し出された。どうやら彼のパソコンで、櫻子達のパソコン画面にリンクさせて表示させたようだ。

「東京でいう銀座エリアみたいなところよ。アレルギーね、何のアレルギーだったの？」

「蕎麦だったらしく、客が近くの蕎麦屋店に出前して貰ったうどんを食べたようです。蕎麦と一緒の鍋で加熱していたようで、泥酔してしまって本人の危機管理が散漫になっていたようです」

「店側もそれ把握しておかないといけないんじゃないの？ショック死するほどなんて、重度なんでしょ？怖いわね」

　櫻子は眉を寄せてぼやくと、「私、アレルギーはないから」と軽く手を振った。

「そして、一週間前」

　続いて、パソコンにマンションと女性の写真、クラブの外観の写真が映し出される。

「ミナミの道頓堀のガールズバー『セシリア』の店員、亀井まどか二十一歳が自宅マンションで天ぷら火災により焼死体として発見されました」

「火災？」

　火災では、二度以上死んでいない。櫻子が怪訝そうな表情を浮かべた。

「ろくに家事をしない彼女が天ぷらなんてするはずない、と両親と同僚たちから申し立てがあった様です。確かに鍋は真新しいものだったようだし、天ぷらをする準備のものが何もなかったそうです。『ただ鍋に油を注いで、火をかけたまま放置した』状態だったみたいですね」

「あれ、この子……」

　篠原が写真をじっと見ていて、驚いたような顔になる。

「知り合いかしら？」

「いえ、自分が以前いた道頓堀駐在所で、よく声かけてた子です……客引きの注意をしていたんですが」

　篠原が記憶するまどかは今風の子で明るく快活だったが、「部屋、汚部屋でヤバい」と言っていた。確かに、家庭的な感じはなかった。強引な客引きをする彼女が、追いかける自分から楽し気に逃げる姿を思い出す…親しかった訳ではないが、何故か悲しくなる。

「体の表面は七十六パーセント焼けていたので外見所見は分かりません。ですが検死解剖の結果、舌骨や甲状軟骨が骨折していました。また、肋骨も火災とは関係なく左の肋骨を骨折していたようです。肺や喉から、火災の煙を吸った跡もありません。ミナミで、殺人放火事件として捜査本部が作られているようです」

　遺体の状況から、今回と同じ心肺蘇生された上殺された可能性がある。

「そう……最初の事件は何とも言えないけれど、この二件は調べてみる価値ありそうね」

　櫻子は腕を組んで、篠原に視線を向けた。

「明日、ミナミに行きましょうか。篠原君、よろしくね」

「え？一条課長が行かれるんですか？――その、笹部さんは……？」

　篠原は驚いて、パソコン画面に向かったままの笹部に視線を移した。

「僕、現場苦手なんです。ここで報告お待ちしますね」

「篠原君の相棒は、私よ。頑張りましょうね」

　櫻子の笑顔に、篠原はゴクリと喉を鳴らして頷いた。――警視と相棒とは、ここに来るまで想像もしなかった。