第25話 僕の学年末テスト

 時は流れて3月末。3年生は卒業し、唯一の知り合いの御幸先輩は卒業していった。が、瑞樹の家のSPとして就職したそうで、見守り隊の活動を今でも実施している。

 バレンタインのお返しも苦労したが無難にハンカチを選んだ。二人共一応喜んでくれたが、本心かどうかは分からないので、気にしないことにしている。僕のセンスでは問題ありそうだったので店員さんに選んで貰ったので、多分大丈夫だろう。


 そして、明日から3日間、学年末テストが実施される。普通の学生は僕の様に追い込まれて勉強しているはずだ。ちなみに僕は2年目ということもあるが、成績の悪い方ではない。常に30位くらいには入っているので、この学校の中では良い方だとは思っている。

 しかし、天才と言うものは居る所には居るらしい。奈菜は今日に至るまで勉強をしている所を見たことがない。しかし、この天才美少女は先月の中間テストでは堂々の学年1位を記録したのだ。それにより、学内での名声をさらに広める結果になった。

 授業中には居眠りをし、宿題は提出しない。服装はギャルよろしく、スカートを短くし、シャツは出している。教師からの評判はすこぶる悪かった。しかし、中間テスト以降、教師陣は奈菜に何も言わなくなった。何故なら只の1位ではなく、全教科満点をたたき出したのである。これには教師陣も参ったらしい。素行は悪くても、成績が良いのであれば、文句は言えないという事だろう。


 普通人の僕は23時を回ったがまだ勉強を続けている。あまり遅くまで勉強すると逆に思考力が低下し、明日のテストにも悪影響が出そうだが、あと1時間ほどは頑張る予定だ。

 なぜなら、今週始めからになるが、夜10時になると奈菜がせっせと夜食を作り始めるのだ。夜食だけ食べて勉強を止めると言うのも作ってくれた奈菜に悪く、作るなとも言えないため仕方なく勉強している。

 受験の時ですら、こんなに勉強していなかったというのに、今週の勉強時間は自分史上最大になっている。これは明日からのテストの結果もかなりの順位になる予感がする。

 そして、僕と一緒に明日テストである奈菜だが、一緒に夜食を食べ、後ろのベッドで寝ている。そう僕のベッドで寝ているのだ。これが僕の集中力を大きく削ぐ。

 頼むから寝るのだったら自分の部屋で寝てくれ。僕だって男なんだ。先程から寝返りをうつ度に、そのモコモコの部屋着からあふれ出しそうになっている双丘にダイレクトアタックしてしまいそうになるのを数学の問題を解いて静めているのだ。

 この一週間、よく耐えたと思う。本当に。

 もう、認めてしまった方がいいかもしれない。僕は奈菜の事が気になっているのだ。決して愛している訳では無い。だが、異性として好きなのは間違いないだろう。

 今まで好きな人というのがいた事がないので分からないが、奈菜がバイトでいない時そわそわしたり、奈菜の出ている雑誌を購入したり、彼女の目を直視できない今の状況を客観的に考えるとそういう事だろう。

 しかし、如何に僕が奈菜の事を想ったとしても、それが叶う事は無いだろう。だったらこの気持ちを悟られたら駄目だ。これは誰にも気付かれない様に墓場まで持っていくつもりだ。

 それに公式的には僕たちは従弟だし、僕には瑞樹という恋人がいることになっている。これはバレてはいけない感情なのだ。

 幸い僕は感情を隠すのには長けていると思う。小さい頃から母さん達に心配させない為に感情を顔に出さない様にしてきた。だから少々の事ではバレないと思う。

 奈菜や瑞樹には何故か顔に出してはいないのに見抜かれることもしばしばあるのだが、それは女の勘的なものだろうか。だとすると不味いかもしれない。特に瑞樹にバレた時は血をみる事になるかもしれない。

 今後、瑞樹の前では特に気をつけないといけない。


 ふと、カーテンの隙間から外を覗くと、瑞樹の部屋に灯りが付いているのが見える。瑞樹も勉強を頑張っている様子だ。瑞樹は来年度は3年になり受験生だ。2年の学年末テストの成績は進路を決めるうえで重要になるのだろう。

 瑞樹は瑞樹で変わった子だと思う。脅しから始まった交際で、いろいろと我儘を言われたり、無理難題を吹っかけられると思っていたのだが、全くそんな事は無く、むしろ部室の件の様に僕を助けてくれる。まあ、稀にだが毒の様な料理を食べさせられたり、家に住まわせろといった困った行為をすることもあるが、まあ稀にだ。思っていた程、瑞樹の彼氏役は大変ではなかった。見守り隊の人達もいるので、危険もちょっとしかなかったし。

 別に高い物を買わされるでもなく、我儘を言われるわけでもない。では一体どうして瑞樹は僕に彼氏役を強要してきたのであろうか。僕を彼氏にしても瑞樹には何の得もないと思うのだが……。そしていつまで続ける必要があるのだろうか。瑞樹が飽きるまでであろうか。

 別に嫌なわけではない。例え彼氏役でも周りから見れば彼氏なのだ。こんな経験は僕の障害では二度と得られないのだから、貴重な体験をさせて貰っていると思って、要らないと言われるまでは、務めるつもりだ。


 二人とも、僕には勿体ない女性達だ。あの事故がなければ勿論接点は無かっただろう。特に奈菜の方は。瑞樹はクラスメイトだったが、奈菜は病室で出会うまで、見ず知らずだった。

 あの事故で僕は大きな怪我を負った。奈菜は大事な人を失った。マイナスしか無い様にも思える。しかしあの事故のおかげで奈菜と出会え、一緒に住むようになったし、マッサージもして貰える。そして偽物だが瑞樹という学校一の美少女彼女もできた。

 トータルで考えると僕個人はすごくプラスだと思う。

 逆に奈菜はすごくマイナスな気がする。親は亡くなるし、僕みたいな陰キャの世話をしないといけない。奈菜ばかりが苦労しているのが申し訳なく思ってしまう。

 しかし、食事作りで固定的な収入源を得たいま、奈菜が僕と暮らす必要性は無いように思える。奈菜は僕の怪我の事を気に病んでいるはずだから、僕が元気にさえなれば、奈菜は安心して元の生活に戻れるだろう。


「早く元の体に戻して、開放してあげないとな」

 奈菜は僕なんかに構わなければ、もっと大きな事を成すような傑物だ。こんな所で燻っているのは勿体ない。芸能界に入っても十二分に通用するだろうし、勉強の方も優秀だから他の道でも確実に成功するだろう。

「夏までに何とかしよう」

 夏までに右手のリハビリを何とかする。そう決意し、勉強を再開した。


 そして試験の結果が返却された。

 奈菜は中間テストに引き続き満点の学年1位。流石である。

 対して僕は大きく順位を落とし50位以下。恥ずかしくて順位は言えない。あんなに勉強したのに盲点があった。字が汚すぎた。自分では読めるのだ、採点する教師には読めなかった様だ。抗議しようとも思ったが、奈菜に見せても読めないと言われれば、僕のせいだろう。まあ、今の時点での順位なんて別にどうでもいいので、今回は納得しておく。次回までに綺麗な字をかけるようにするだけだ。


 さて、これで1年での行事は全て終わった。今日からはリハビリ再開だ。テストの事もあるし、奈菜の事もあるので、本気で頑張るぞ。

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