「少年×少女×大陸」〜合同短編集「つづりぐさ」収録【11/22文学フリマ東京 サンプル】

ワニとカエル社

イタリア編

正直、ちょっと浮かれていた。

うちの高校には姉妹校が国内外にたくさんあって、修学旅行の際にはその姉妹校を拠点として回るのが定例となっている。

今回は生徒会の提案で、イタリアとイギリスの姉妹校を回ることになった。

生徒の自主性を重んじるという学校の意向で、管理運営は生徒会に任され、現地管理の為に副会長の先輩が特別引率として参加している。

希望が無事通って、あたしはイタリアに行くことができた。

部活の先輩たちから町並みがとても綺麗だと聞いていたから、すごく楽しみだったし。

…誰にも言ってないけれど、ヒロトと一緒のメンバーになれたから嬉しくて。

 

なのに、あいつはまたいなくなった。

 

「もー!どこに行ったのよっ!」

ヒロトがいないと気付いたのは、昼食後。班の集合時間を過ぎても現れない。

元々自由気ままで団体行動に向いていない気性だけれど、今回は海外。班長としてもさすがに探さないわけにはいかなかった。

というか、いつの間にかヒロトを探すのはいつもあたしの役目。

先生までもヒロトがいないのをあたしに報告してくる。まぁ幽霊部員ではあるけど、一応同じ水泳部だし…。

ただ、クラスの女子から聞くと、ヒロトは赤毛で長身なのも手伝って、睨まれるとかなり怖い…らしい。男子からも一目置かれている。というか怖がられている。まぁ運動神経は良いからイジメとかはされてないみたいだけれど、気軽に声をかけられないみたい。

私にとっては普通の男子と大差ないから、怖いなんて思ったことはない。

だから周りからヒロトのことで頼られると、なんだか特別感があって勝手に嬉しい。

それにしても油断した。

いつもならだいたいの目星をつけて探しに行くのだけれど、知らない土地。細い小道に入ったらすっかり迷ってしまった。地図を持ってなかったのも迂闊なところだった。

「あれ、ここの食堂で集合のはず…?」

次の集合場所の食堂に行ったはずだけど、もしかして違うのか。綴りを暗記してきたわけではないから、もしかして違うのかもしれない。そして海外では携帯も使えない。

やっぱり、慣れない場所を歩き回ったのがいけなかったみたい。

「もうっ!あたしが迷子になっちゃったじゃないのよっ、ヒロトのバカッ」

八つ当たりだ。遺跡や寺院が隣接する観光場所から離れ、人通りの少ない裏町に入ってしまった。人に聞こうとしても、まず言葉が分からない。完全にお手上げ。

この異国でたった一人な気がした。


ふと上を見ると、海側を向いた高台があった。

「あの高台に行けば通りがわかるかも…」

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