お待たせっ!宇chu♡人

怜 一

地球侵略だっ!


 20XX年────

 突如、宇宙から飛来した空を覆うほどの巨大なUFOから、一人の少女が地上に降り立った。

 その少女は見事なガ○ナ立ちを決め、高らかに宣言した。


 「美しい地球を汚す愚かな人間共、よく聞け!銀河系を統一する我等、最高位存在ギャラクシアンが、今から地球を征服するっ!」



+



 ホームルームを告げるチャイムが鳴る。

 教壇に立った佐藤先生は、クラス名簿を開き、生徒の出席を取り始めた。一番右端の前の席から後ろへ順に名前が呼ばれ、ついに私の番が回ってくる。


 「宇宙野」

 「はい」


 次は、私の後ろの席の子が呼ばれるが、そこに誰も座っていなかった。


 「フェリセット。…フェリセットは、また遅刻「間に合ったー!」」


 いきなり、私の背後の空間が裂け、その狭間からバク転しながら飛び出してきた女の子は、見事に机の上へ着地を決めた。


 「ふぅ。やびかったー。よいしょ…っと」


 女の子は何事もなかったかのように席に座った。

 普通では考えられない超常現象が起こったはずなのだが、このクラスにいる人間は毎日のように見ているため、今更、驚くこともなかった。


 「フェリセットは、遅刻と」

 「なんでだよっ!」


 先生が下した無慈悲な判決に、女の子は身を乗り出した。


 「なんでもなにも。ホームルームのチャイムが鳴った時点で席に着いていなければ遅刻だと、何回言ったらわかるんだ?」

 「銀河系では、名前を呼ばれるまでセーフ!こんな初歩的な常識も知らぬとは、この愚か者めっ!」

 「そんな常識、地球では通用しないぞ」

 「ハンッ!銀河系で最も優れた存在であるギャラクシアンを束ねる王族の次期当主候補筆頭と言われている、このアタシっ!フェリセット・ラ・アポロヌス13が、そんな地球特有のローカルルールなぞに従うものかっ!!」


 よくわかんないことを言っている女の子────アポロは、どうだ参ったかと言わんばかりに満足げな表情をしていた。


 「鈴木」

 「はい」

 「無視するなー!!」



+



 「〜で、あるからして」


 数学の時間は、いつも眠たくなる。

 難しい公式を解説がお経のように聞こえてくる。しかし、次の期末試験で赤点を取るのは免れたい。なんとか、集中しなくては…。


 トントンと、私の背中を誰かが叩いた。

 振り返ると、間抜け面をしたアポロの力なく開いた口から、言葉が漏れた。


 「暇」


 私は、何も言わず黒板に向き直る。

 バカに付き合う必要は、ない。

 再び、アポロが私の背中を叩く。

 今度はなんだと、仕方なく振り返った。

 アポロは、椅子に立てた右足を指していた。


 「ここ、膝」


 私は無意識に、アポロの右頬を叩いていた。



+



 放課後。

 さまざまな人で賑わうファストフード店、ナクドラルド。その店内の一角に座っているアポロは、ムスッとした顔でストローを加えていた。


 「かなたさ〜。なにもビンタすることなくない?ちょっとギャラクシージョーク言っただけなのにさ〜。あと、わかってる?余、王族ぞ?余が寛大でなければ、今頃、銀河系外へ島流しされてたぞ。感謝しろよ?お?」


 クッソ。コイツ、調子に乗りやがって。というか、あのつまんないギャグのどこにギャラクシー要素あったんだよ。


 「ナクド奢ってるんだから、いいでしょ。それ以上文句言うなら、そのポテト貰うからね」

 「ハァ?それやったら、島流しじゃ済まんからな。極刑だぞ、極刑。一族郎党皆殺しじゃ」


 アポロは悪そうな笑みを浮かべ、楽しそうにポテトを頬張った。

 この、一見バカな女子高生にしか見えないアポロの言っていることは、決して冗談ではなかった。

 あの日、巨大なUFOから舞い降りたアポロは、その百六十センチにも満たない小さな身体で、ビルを壊し、戦車を貫き、銃弾の雨を躱して、弾道ミサイルを握りつぶした。


 そんなアポロが、学校に通い、授業を受け、放課後のナクドで私と駄弁っているのには、理由があった。


 「ポテトもーらい」


 私はアポロの隙を見て、ポテトを一本、口に咥えた。

 突然、テーブルに置いておいた私のスマホの画面にwarningの文字が表示された。

 私とアポロは顔を見合わせ、店を出る。


 空を見上げると、銀色の肌をした成人男性くらいの人型が浮いていた。その人型は、この世の言語ではない言葉を喋り、私達に手をかざす。すると、その掌から紫色のビームが放たれた。


 「かなた!危ないっ!」


 即座に反応したアポロは、私を抱き抱え、高速でその場から離れた。ビームが着弾した道路は、粉々に砕かれおり、大きな砂煙が舞う。

 銀色の人型は、どうやら私達を見失ったらしく、キョロキョロと辺りを見渡していた。

 あまりに一瞬の出来事すぎて、ポテトを咥えたままの私は、アポロにお礼を言う。

 

 「ふぁ、ふぁりあお」

 「後で、もう一つポテト奢ってもらうからな。それより、かなた。準備はできてるか?」


 私は、頷く。

 アポロは、ニヤリと笑った。


 「そのポテト、アタシんだろ?」


 アポロは、私の咥えてるポテトを口に含み、そのまま、私とアポロはキスをした。

 砂煙が晴れ、私を見つけた銀色の人型は、私に狙いを定める。キュインキュインという異音と共に、掌に溜められた紫色のエネルギーは大きくなっていく。そして、エネルギーが放たれようとした瞬間────。


 銀色の人型がかざしていた腕が真っ二つになり、宙に舞った。


 「雑魚が」


 いつの間にか、銀色の人型の背後に移動していたアポロは、右手にトマホークを握り、不敵な笑みを浮かべていた。

 アポロは、制服姿から、白と黒を基調にしたハイレグのようなものに身を包み、その上から黒い短パンを履いた姿に変わっていた。


 お互いに動かず、相手の様子をジッと伺う。

 束の間の沈黙。

 敵とアポロの間に吹いた風が、アポロの首から巻かれた純白のマントをたなびかせた。

 銀色の人型は残った左手をアポロに向けようとする。しかし、アポロは見過ごさなかった。人型の左腕より素早く動いたトマホークは、最後の腕を、呆気なく、真っ二つに切断した。


 「どうした?そんな実力で、私が狙ってる地球をかすめ取ろうとしたのか?」


 敵わないことを悟った銀色の人型は、必死に逃げようと上昇するも、アポロの左手が、がっしりと銀色の人型の片足を掴んでいた。

 アポロの顔がおちゃらけた表情から、殺気に満ちたものへと変わる。


 「オマエ…。よくも、アタシのかなたを殺そうとしたな。タダじゃおかねぇぞ」


 アポロは、銀色の人型を力任せに振り回す。


 「銀河の果てまでぶっ飛ばしてやるよッ!」


 その勢いを保ったまま、銀色の人型を上空へ吹っ飛した。


 「宇宙の塵になりなッッッ!!」


 トマホークを両手で持ち、右側へ構える。

 一閃。

 吹っ飛ばした銀色の人型を超える速度で、切り抜けた。


 「第三宇宙速度斬り」


 アポロがトマホークを肩に乗せた瞬間、銀色の人型の動体は二つに割れ、爆発した。



+


 帰宅後。

 お風呂に浸かりながら、私は、自分自身が持っているチカラのことについて考えていた。

 ギャラクシアンとキスをすることにより、ギャラクシアンが秘めているチカラを増幅させることができる、特殊な人間────。

 最初、アポロから説明された時は訳が分からなかったが、既に、三回もその現象を見せられてしまった。


 「なんでこんなことになったんだろう」


 満月のように丸く光った照明を見上げる。

 ふと、アポロにチカラを分け与えた時のことを思い出す。


 「バッ、バカッ!」


 湯船に顔をつけ、膝を抱えた。

 あれは、チカラを与えるために必要なこと。特別な意味なんて、ない。ない、はずなのに。

 なんで、私、意識しちゃってるんだろ。


 お風呂から上がり、自室へ戻る。

 扉を開けると、地面に敷いた布団に大の字になって熟睡しているアポロが目に入った。


 「…バカらしい。もう、寝よ」


 壁際のシングルベッドに潜り、眼を閉じる。


 「おやすみ。アポロ」


 私の意識は、遠く、暗い世界へ、飛んでいった。



end

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