第4話冴子の読書感想

 そのまま2週間がすぎた。

 あれから、次回作の小説の考案をしていたが、なかなか思い浮かばない。


 うーん、今9月だろ?なら、よくて原稿用紙300ページぐらいの長編作だよな?

 何がいいだろうと、思案を巡らせていると、夕方クロスから冴子の連絡がきた。


「なになに?読破完了。明日会えませんか。感想たくさん言いたいです( ´ ▽ ` )」

 僕も返事をする。


『了解(^^)じゃあ、ファミレスで待つか?ほら、体育館のある通りのファミレス』

 速攻で返事が返ってきた。


『はい。あれですね。『ブルーバード』あそこで待っています。時間は何時ごろがいいですか?』


『12時にそこのファミレス前で待ち合わせだ』

『了解^o^』


 そして、時間が経って明日、の昼。

 ブルーバードの前で待っていると冴子がやってきた。

「お待たせー」

 冴子は梅の笑みを見せた。

「うん。今日の服装もかわいいね」

 黒のブラウスに濃い茶色のフレアスカートを履いていて金のチョーカーと真珠のイヤリングもとてもいい感じだった。

「カッコいいね」

 セクシーだね、と言おうとして、言葉を飲み込んだ。ブラウスの胸元から見える爆乳が本当にセクシーだったからだ。しかし、それをいうとなんかセクハラなような気がした。

 それに冴子は笑みを深くする。

「これ?秋だから秋っぽくちょっとシックにしました。あなたもベージュのチェックのシャツも似合っていますよ」

「ああ、これね」

 僕は自分の服装を見渡す。ベージュのチェックのネルシャツに、黒のロングパンツを履いている。


「僕も秋っぽい服装にしてみた」

 冴子は猫の目をする。

「慎吾くん。もしかして、そのトップスの服、『フォレストウルフ』ですか?」


「ええ、そうですよ。アメリカのブランドものなのに、よくわかりましたね?」

 それに冴子は穴蔵に潜ったプレーリードッグの表情をした。


「わかるもわからないも。それ有名なブランドものだよ?どこで、それを?」


「大手、通販サイトで服装を検索したら、カッコ良かったんで買ってみました」

 冴子は朝顔の表情をする。


「カッコいい」

「え!?そこですか!?」

 冴子は怪訝(けげん)な表情をした。


「はい。おしゃれに着こなす男性ってかっこいいですよ?」

 僕は被り(かぶり)を振った。

「オシャレがかっこいいのか。よくわからん世界だ」


 それに冴子は泡吹(あわぶき)の笑みで笑った。


「ま、入ろう。積もる話もあるだろうし」

「はい」

 そして、僕らは店内に入った。




「それでそれで、最後あのシーンでめっちゃ泣いてしまって!もう、レバントイケメンすぎ!もう、泣いて泣いて本当に面白かった!慎吾くんて、本当に天才ですね!」

「いやー、そこまで褒め(ほめ)られると悪い気はしないね」


 あれから2時間ぶっ通しで冴子は僕の本を褒め(ほめ)ちぎった。なんかここまで褒め(ほめ)られると悪い気はしないね。


「お腹は減ってない?食べたら?」

 冴子が注文したハンバーグ定食を指して僕は言った。冴子も頷く。


「確かにお腹減りましたね。食べますか。いただきます」


「いただきます」

 僕も食事の儀式をして、ステーキ定食に取りかかった。だが、視線を感じて顔を上げると、冴子が微笑んでいた。


「食べてなかったんですね」

「まあね、この間、君も食べていなかったから」


 ふふふ、と冴子は泡吹(あわぶき)の笑みをする。

「いいかげん、食べるよ。お腹ペコペコだから」


 それに冴子は紫陽花(あじさい)の笑みをした。

「はい」

 そして、ステーキを一切れさして口に運ぶ。


 めちゃくちゃ美味しい。やっぱり空腹に並ぶスパイスはないということか。


 しばらく僕たちは黙念と食事をしていた。そして、その時に冴子がいった。

「あの」

「うん?」


「慎吾くんはプロの小説家、なのですか?」

「な訳ないよ。プロだったら自分の本を貸してあげるし」

 それに冴子はナハハと笑う。


「そうですね。いや、ひょっとしたらあまり売れてないプロの方だと思って」

 僕はちょっと驚く。


「そんなに面白かったの?」

 それに冴子は大福の笑みをする。

「はい」

 また、食事を食べつつ、冴子に聞いてみた。


「冴子はよく本を読むの?」

「はい」

冴子はにっこりと笑って答える。


 本当にこの子かわいいな。いつも澄み切った安心できる笑顔をしている。こんな子をお嫁さんにしたら毎日がハッピーだよな。


 そうは思いつつ、自分の現状を考える。今、無職の自分にそんなことができるはずがない。


「どんな本を?」

「ライトノベル系を。そんなにエロくなければ、男性向けも読みます」


「ふーん。まあ、売れているやつは女性も読むからね」

「そうですね」

 逆に冴子が問い返してきた。


「慎吾くんは何を読むんですか?」

「まあ、一番好きなのはドストエフスキーかな?」

 それに冴子がおお、と感嘆(かんたん)の声を上げる。


「あと、聖書とかも好きだよ」

「すごい!聖書も読むんですか!?」

 僕は苦笑いをして言った。


「というか、西洋文学は聖書理解しないとなかなか読むのは難しいよ」


「へー。すごーい。慎吾くんはクリスチャンですか?」

「昔、信徒になろうと教会を巡っていた時があったんだけどね」


「うんうん」

「なんか、合わなかった。キリスト教とは、とにかく、聖書の教えを実践するだけじゃなくて、教会に認められ信徒にならないと、キリスト教徒になれないからね。だから、僕はクリスチャンではないよ」

 それ冴子は目が点になる。


「へー。そうなんだ」

「そうなんです」

 そして、僕らは料理を平らげた。


「ふー食ったね」

「はい」

「ピザ頼んでもいい?」

 それに冴子は萎れた(しおれた)。


「あ、あの、カロリーには気を付けていて・・・・・」

「はは、冴子は食べなくていいよ。僕が食べるから」

「そうじゃなくて、目の前でピザ食べられると、私も無性に食べたくなるというか」

 なるほど、そういうことか。食いしん坊冴子。


「じゃあ、パスするか」

 それに冴子は深々とお辞儀をした。


「はい。ありがとうございます」

「いいよ、いいよ、謝らなくて。で、これからどうする?」


「あの・・・・・」

「ん?」


「まだ感想言ってもいいですか?」

「いいよ。というか、そこまで感想言ってくれるなんて作家冥利(みょうり)に尽きるね。ドリンク、ついでこうか?」

 それにブンブンと冴子は首を横にふった。


「いえ!大先生にそこまでしてもらうなんて申し訳ないです!私が注いできます!」

「なら、おかわりお願い」

 僕はマグカップを差し出していった。


「ホットコーヒーで」

「はい!」


 いそいそと冴子は自分のと、僕のカップを持ってドリンクバーに行き、戻ってきた。


 なんかいいな。ここまで褒め(ほめ)られると悪い気はしない、他人に褒め(ほめ)られてこそ、何か本当の意味で自分の本が完成した気分になる。


「ありがとう」

 冴子は白百合の笑みをした。

「どういたしまして」


「さて、他に何か聞きたいことがあるのかな?」


「いえ、これは疑問なんですが、マイフィロソフィシリーズと他の作品では随分肌色が違うな、と思って。随分進化されたのだと思ったのですが、違いますか?」


「ああ、それね。そうだよ。最初に書き始めたのはマイフィロソフィシリーズだったよ。本当はマイフィロソフィには後二作品あったんだけどね、あまりに出来が悪いので載せていないんだ」


「やっぱり。他の作品があるのは驚きでしたが、やはり、マイフィロソフィシリーズは最初の方の作品だったのですね」


「そうだよ。本当にあの作品群は稚拙だったな。やっぱりイケメン一樹、あたりから自分の文章力がアップしたと感じたよ。それから純愛を書いて、大体自分の文章に自信がついた、と言った感じかな?」


「なるほど」

 僕は怪訝(けげん)な表情をした。

「それが気になっていたの?」

 それに冴子はネズミの笑みをした。


「いや!なんていうか、大先生でも、そう言った迷いがあったんだなー、と思って。あと、もしかして最初の作品は路上のタンポポですか?」


「ああ。そうだよ。個人的には気に入っているんだけど、ネットに載せてもなかなか人気が出なくてね」

 冴子は影の表情をした。


「そう、ですか。やっぱり伸びてないですか・・・・・・」

「やっぱり、ということは僕の作品は売れない作品だと思っているのか?」

 冴子の笑顔が引きつる。


「い、いえ!」

「怒らないから言ってごらん」


「それはあれですか?そうは言っても、本音を言ったら絶対に怒るという前振りですか?」

「君、『俺コメ』見過ぎ」


 そして、二人して笑い合う。

「じゃあ、本音を言うから怒らないでくださいよ。先生」

「ああ」

 冴子は青大将の表情をして言った。


「まあ、ざっくり言うとはやりのものではないですね」

「ああ」


「そして、今のラノベ界隈(かいわい)はとにかく流行りなものを書くのが必須(ひっす)条件なので、売ることは難しいかと」

「それなんだ」

 僕がビシッと指を刺して言うと冴子は怪訝(けげん)な表情をした。


「はい?」


「僕の小説を精査(せいさ)してみると、確かに漫画やアニメ、ライトノベルに大きな影響を及ぼされたのは確かなんだが、でも厳密に言って、僕の小説はライトノベルだけじゃないんだ」


 それに冴子は、はぁはぁと少しずつ納得していった表情になった。

「映画や純文学にも大きな影響を受けている。それで僕の小説は他ではないユニークなものになっている」

 それに冴子もうなずいた。


「そう思います」

「だから、僕は電子書籍化して、他の出版社の新人賞に応募しないんだよ。やっぱり、ライトノベルってエンターテイメントだろ?でも、僕の小説は娯楽小説ではない。もちろん、読みやすさも注意して書いているが、骨格は純文学の方に近いと思う」


 それに冴子はうなずいて、考え込むように目を閉じた。

「なるほどね」


 ホットコーヒーを啜る(すする)。苦味が人生のようにしっくりとしていた。

「確かにそうならば、私は何も言うことはありませんね」

 ふと窓を見てみる。もうすっかり夕暮れだ。なるほど、改めてスマホで時計を確認してみると、もう6時だ。そろそろ解散と言うことにしようか。


「冴子、そろそろ解散にしようか」

 それに冴子はうなずいた。


「ええ、でも、ちょっとだけ寄らせてください」

「わかった。遅いから、一緒について行くよ」


「はい。と言うか、ついてきてください。あなたに連れて行きたい場所があるんです」


 なんだろうか?と訝し(いぶかし)んだが、僕は冴子の後を追って、店から出て行き、冴子が用意したタクシーで冴子の連れて行きたい場所に案内してもらった。


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