第20話 知らないふり

んー起きなきゃでも、昨日気を張ってたからか体が辛い。意地で起き上がると部屋の外から声が聞こえてきた。


「ダメです。例え、ルイス様でも入室許可は出来ません。」

「そうですか、なら諦めてまた…アオイさん起きたんじゃないですか?」


え?なんでお城から遠い私の部屋にわざわざ王子がいるの?昨日会ったばかりだよね?頭が混乱してる中グレンさんが挨拶をしてくれた。


「おはようございます、ツキノ様。」

「おはようございます。あの、これは…ちなみに確認なんですけど今は朝ですよね?」

「はい、朝です。申し訳ございません、なぜかルイス様がいらっしゃって」


どうしよう、流石にパジャマのままで王子を迎える訳には…でも王子を部屋の外で待たせるのも…どうしようかな。悩みに悩んだ結果、簡単に服装に着替えるから。少し待ってもらうことにした。クリスタさんたちがフルスピードで支度をしてくれて、あまり待たせなくて済んだ。


「お待たせしました、おはようございます。ルイ様」

「こちらこそ、急に押しかけてしまって」

「いえいえ、大丈夫ですよ。今日は何か御用でしょうか?」


内心ドキドキしているのをどうにか隠し、理由を伺ってみる。


「昨日のお茶会で、もう少しお話をしたいなと思いまして」

「それは、嬉しいです。せっかくですし、裏庭でお茶会でも…」

「実はいつも見ているとき少し羨ましかったんです。是非お願いします」

「レーナさん、今から裏庭でお茶会をしたいんですけど大丈夫ですか?」

「はい!大丈夫ですよ。少し準備してまいります。」


急に頼んでしまったのに嫌な顔一つせずに準備をしに行ってくれた。申し訳ないな、今度なにかお礼をしよう。待っている間にルイ様と軽いお話をしている所で準備が出来たとクリスタさんから伝えられた。それにしても私大丈夫かな…王族と仲良くしてて少々不安になりながらも裏庭への道をルイ様と歩く。そんな時、いつか聞いた大勢の足音が聞こえる。もしかしてと思った予感はあたりだった。


「またお前か聖女が通るんだ、どけ。」

「申し訳ありません」


そう一言言って隅によるがそこから問題が起きた。隣にルイ様、第二王子がいるのだ。それを指摘されない訳ないと思うのが普通だった。


「なぜ、お前がルイス様と一緒に居るんだ?!」

「それは…」

「答えろ!!」


そう言われたと思ったら、強い衝撃とともにいつの間にか地面を見ていた。その時あっ、私殴られたんだと気づいた。痛い…それ以外の感情は浮かばなかった。憎いとか何故殴られたとかそんなものどうでも良かった。


「ツキノ様、大丈夫ですか?!」


そう言ってグレンさんが近くに来てくれた。その時、ルイ様は殴った相手を睨んでいた。私にはしなかったような冷たい視線を。ふと視線を戻すとグレンさんも同じような、いやそれ以上に冷たい目を向けてた。その瞬間、低い声がした。その声はルイ様だった。さっきまで私と話してたような声ではない。


「今、何をした…?」

「ルイス様の事をたぶらかしたものに罰を与えたのです!」

「私をたぶらかした?何を見て言っている」

「女がルイス様と一緒に居たのが証拠ではないですか!」

「私が、アオイさんを誘ったのだが?」

「そんなわけありません!それならば、その女ではなくこちらの聖女様でしょう!」


私のせいでこんなことになってしまった。あぁ、なんで召喚されてしまったのだろうか。星宮さん一人でよかったじゃないかと重い言葉ばかり考えてしまう。きっと私が訂正すればこの場は収まると思ってしまった時にはもう遅かった。


「申し訳ございません。たまたま、道に迷った所親切なルイス様が案内してくれると仰って頂いたのですが場所が分からないのに部屋を出るなんて浅はかでした。私はもう部屋に戻ります。せっかく案内してくださっていたのに申し訳ございません、ルイス様。失礼します」


そう言い残して、私は部屋に戻る廊下を歩き始めた。折り返すときに見えたのは聖女、星宮さんのあざ笑うかのような笑顔だった。何か言われる前に早く戻ろうとした時だった。


「あの、すみません。」


男性だったらみんな可愛いと思うような声で私は歩くのを止めてしまった。その声はもちろん星宮さんだ。


「その騎士様、少しお時間いいですか?」


その騎士様とはグレンさんの事だった。あぁ、ここでも私を大切にしてくれた人を奪っていく人がいるのか…日本でもそうだった。私の周りには誰もいなくなる。


「なんでしょうか?」


嫌そうな顔と声でグレンさんが反応する。


「お話したいんですが…?いいですか?」


あざとい媚びを売ったような声でお願いをしている。こんなの男性だったら誰だって落ちるだろうと思うほどだ。私はこの場からいち早く去りたかったので冷たいような声を出してしまった。


「いつも、私の護衛ばっかお疲れでしょうから。聖女様とお話してきたらどうですか?私は先に部屋に戻っていますからレーナさん、クラウスさん。」


なんでこんなことを言ってしまったのだろうかと後悔しながら早歩きで私はこの場を去った。

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