後編

男から逃げるよう足早になった春斗、二分ぐらい経っていた。

後ろを頻繁に振り向きいていたが男の姿は無く、人の気配は感なかったので春斗は一呼吸置いてゆっくり歩き始めた。

(人形を拾っただけなのにあんなに怒るなんて)

春斗は、感情むき出しに向かってきた男の事を忌避した。


更に数分家に帰る道の途中にある大きな交差点で信号機に引っ掛かった。

(くぅ、こんな日に限ってこの交差点で止まるなんて)

日頃、この交差点の赤と青の入れ替わりが遅く、待つときは大体二分ぐらいは動けなくなる。

いち早く帰りたい春斗、不潔感な男に追い付かれたくないという焦りもあり、春斗は足踏みし始めた。


(まだか、まだか)

そう思いっていると、反対の信号機が赤信号になった、春斗はその光景を見てまもなくいけると思い更に足踏みが早くなった。

車道の、信号も赤になった瞬間の最後の車が目の前を通りすぎた。

すると、横断歩道をわたった先の歩道に先程見たような人形が一個だけ置かれていた。

「えっ……」

春斗は思わずその光景を見てつい声が出てしまったと同時に後ろを振り向いた。

だが、しかし先程の男は見当たらなかった。

春斗は、再度進行歩行を向いたが、やはり人形が置かれていた。

恐る恐る、横断歩道を渡り人形に近づいた。


人形は、先程とは違い、学生服がボロボロになっており、なぜか赤い染みができていた。

春斗は、それを手に持った。

全く、関係ないし、自分が拾う義務もないが、しかしなぜか、この人形は拾わないといけないという気がしてる春斗。

(あれ?)

手に持ったとき、人形は中身がすかすかだと気づいた、他に、なにかないかと人形をぐるぐると回しながら見ていたら、制服であろう人形の服の胸ポケットに名前が書かれていた。

(さっき、持ったときこんなのあったか?)

疑問を、持つも先程は軽く手に持っただけだったので気付かなかっただけだろうとそこを凝視すると、文字が見えてきた。

その瞬間、春斗は青ざめた。

青ざめた春斗はその人形を投げ捨て全力で走り出した。

春斗が、走り出すのは当然だった、そこに書かれていた名前は『会田春斗』そう書かれていた。


(どうして俺の名前が……)

そう思いながらも走り続ける春斗。

一心不乱、そう形容しても間違いないだろう、春斗は地面を向いて全力で走っている。

(帰りたい、帰りたい)

幽霊とか、お化けとかは信じてなかった春斗は今回の件で信じてしまうようなことを体験していた。

帰って、暖かい家族、暖かい布団に入って寝て忘れたい。

そんな気持ちが、よぎった瞬間。

「春斗!」

そう声がした、呼ばれた、よく知る声が、自分の耳に入ってきた。

(母さん!)

母の声だった、ようやくこんな体験から抜け出せるとそう思った。

春斗は、母を探すため足を止めた。

「どこ、母さん、どこ!?」

そう大声で探すと、回りにいた人間が一斉にこちらを見てきたのを感じた。

「あの子大丈夫?」「変じゃないあの子」

そう声が、小声で言っていた。

「母さん、母さん!」

しかし、春斗はお構い無しに母親を探していた。


そうキョロキョロしていると、ものすごい大声で「あぶない!!」と声がした。

その瞬間、春斗の耳にクラクション音が聞こえた、そして、春斗は音で正気を戻し自分のいる場所に気がついた。

だが、既に遅く、迫ってくるトラックに反応ができず、そのまま、空中に浮き10メートルは飛んだ。





春斗は、ゆっくりと意識を取り戻した。

生きていた。

しかし、体は上手く動かすことができなかった。

「おい新入り」

すると、隣から声が聞こえたので隣に振り向いたら、なんとそこには人形がいた。

「やっと、気がついたか」

声だけは、聞こえる一体どこからという風に思いながら人形だけを見つめていたら、

「その反応、さては自分がどうなってるのかわかってないな、俺がしゃべってるんだ警官服の人形の俺がな」

そう言われて、理解した、自分が狂っているなと、

「ごめんなさい、僕、車に引かれたので頭がおかしくなっているようです、もう少し時間をください」

そう伝えたら、警官服の人形が、

「そうかいそうかい、いやスポーツ刈りの学生さんは礼儀正しいね」

と言われた、春斗はなぜ自分が学生だとわかったのかと思った。

「どうしてかって、顔をしてるな、もうひとつ名前もわかるぜ、君の名前、会田春斗って言うんだろ」

春斗は、そう言われた瞬間。

「春斗君」

後ろから、そのような声が聞こえたので春斗はそのまま後ろを振り向いた。

そして、そこにいたのは、不潔な男がそこにいた。


春斗は、驚愕した、その男物凄くでかくなっていた。

春斗は、逃げようと振り向いて、全力で走ろうとしたが、足が思わないように動かなかった。

「諦めろよ、自分がどういう格好になっているのかみたらどうだ」

警官服の男がそう言われた瞬間、春斗の体は宙に浮いた、いや持たされていた。


「ようこそ家へ春斗くん」

男は鏡の前でそう言ったが、春斗はその声は聞こえてなかった。

なぜなら、春斗は鏡に写る自分が交差点で拾った、男の子の人形をしていたからだった。




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人形好きの男 クラットス @schrott

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