第14話

お風呂場は僕たち二人以外はおらず、貸し切り状態でした。


「さ、それじゃあ、奏空ちゃん、ここに座って?」


と琉愛はバスチェアをたたいて僕を呼び寄せました。


「ちょっと、恥ずかしかったからって、僕を子ども扱いしないでください!」


「そっ、そんなことないし!」


「図星なんですか」


「でっ、でもさ、奏空は女の子としてまだまだ赤ちゃんなんだよ?だから、お姉ちゃんである私が世話をしないと」


「そっ、それはそうですけど……」


と渋々座りました。


「てか、そういえば、やっぱり『僕』辛くない?」


と言いながら、琉愛は僕の髪の毛をブラッシングし始めました。


「そうでしょうか?やっぱり、敬語だと、『私』のほうが多い感じはしますけど」


「そうだよねぇ、なんかボクっ娘ってボーイッシュな子がやってる感じがアニメ漫画の世界では主流だしね」


「そうですよね」


その間も琉愛は「うわ、髪綺麗すぎて、ブラッシングする意味ないんじゃ」とか「なんで、こいつ元男のくせに」などぶつくさぶつくさ言いながら、ブラッシングをしてくれました。


「それじゃあ、シャワー流すよー」


「わかりました」


シャワーは39度に設定されていて、頭皮をマッサージされながら、そして、シャワーヘッドを頭皮に当てるようにされました。


「それで、どうするの?」


「なにがですか?」


「いや、一人称よ」


「あー、そうですね」

「確かにそんなにコロコロ変えるのもあれだよね、大変だよね」


「まあ、確かにそうですね」


「あっ、シャワー終わったから、シャンプーの容器取って?」


「はい、どうぞ」


「ありがと」


そして、琉愛はシャワーを止め、脱衣所に置かれていて、取ってきたシャンプー容器を2回プッシュして、手で泡立て始めました。


「確かに一人称コロコロ変えるのはそうだけど、私的に好きなんだよね」


「さっき、ボクっ娘もいいとか言ってたじゃないですか」


「そっ、それはね、そうなんだけど」


「そうなんだけど?なんですか?」


「そうなんだけど、私的には女子女子してる奏空も好きだなぁって」


「なるほど、わかりました」


「なにがわかったの?あっ、ごめん、シャンプー頭つけるから、目つぶって」


「はーい、了解しました」


「わかりましたってことは『私』に変えるの?」


「まあ、琉愛が言うなら、変えますし、それに男性でも『私』って使う人いますからね」


「ふーん、なるほどね」


「なっ、なんですか」


「いや?別に?」


琉愛は見なくても微笑んでいるような声を出しながら、爪を立てず、後頭部から側頭部、頭頂部、前頭部の順に指の腹で頭皮をマッサージをしながら、シャンプーをしていきます。


「なんですか、なんか面白いことでもあったんですか」


「んー、奏空って私のこと好きなんだなって思ってさ」


「なっ、なんでですか」


『私』は動揺してしまった。それが琉愛に隙を見せてしまったのかもしれない。


「だってさ、恋人がこうしてくれた方がうれしいなとか恋人が好きな人しかできないでしょ」


「そ、そうですけど?何か?『私』は琉愛が大大大大好きですけど?」


そしたら、どうだろう。

お風呂場が静寂に包まれてしまった。


「ちょ、ちょっと琉愛、手止めないでください」


「えっ、あっ、うん」


琉愛は返事はしてくれたものの、手は止まったままです。

あれ、もしかして、そういうことなんですか?

それなら、ちょっといじってあげましょう


「あれれ?どうしたんですか?琉愛さん、まさか『私』の言葉に動揺しちゃってます?」


「そっ、そんにゃわけ!」


「あれ、まさか噛んじゃいました?噛んじゃうほど動揺してるんですか?」


「……」


「あれ、黙っちゃいましたね、図星だったんですね」


「っさい!」


「え?いま何t」


「うるさい!」


と『私』のシャンプーを素早く終わらし、シャワーをヘッドを頭皮に当てながら、シャンプー剤が残らないように入念に指の腹で確認しながら、髪を洗い流し、『私』の顔にお湯をかけて、私を後ろへ振り向かせました。

そこまでできるんだったら、もはやもう冷静のではと思いましたけど。


「あのね!私、奏空からそういう言葉聞いたことがなかったの」


「あれ?まじ?」


嘘っ!言ってなかったっけと思い、素に戻ってしまうぐらいの始末。


「さっきの告白の時も、結局は言ってもらえなかった」


「あっ、うん、そうだったかもしれないです……」


「ほんとだよ、まったく、謝って」


「そっ、それはごめんなさい」


「でも、だからこそなのかな、うれしかったの、言葉にしてくれたことが」


「え?」


「私さ、小さいころから奏空のこと好きだったの、そりゃあ、私、レズだけど、それって中学校からで、そのきっかけを作ったのが聖良先輩なんだけど」


せら先輩?せら、せら、ああ、聖良先輩。

「えっ、聖良先輩?!」


「そう、その聖良先輩と付き合ってレズを自覚したんだけど」


知らなかったあ。あの聖良先輩、レズだったんだ。知りませんでした。めちゃ可愛かったから、同級生でも狙ってるやつ多かったですけど。あの人たち、どうなったかなって学校復帰してから思ってたんですけど、多分全員振られてたんですね。


「それでもね、奏空はね私の中で特別だったの」


「え?」


「奏空さ、引きこもりになっちゃったじゃん?」


「うん」


「それでね、奏空が引きこもりの時には私ずっと思ってたの、私のせいだって」


「いや、そんなこt」


「いや、私のせいなの」


琉愛は遮ってきた。


「そんなことない、先輩たちから『俺』がいじめを受けてたのは全部俺の責任なんだよ」


「違う、私が奏空に一緒にいたいなんて言ったから、そうなったの」


琉愛は泣き出して、しゃがみこんでしまった。まるで、琉愛と『俺』がまだ小さい頃のように


確かに、琉愛には聞いていた、強豪に行くのか地元に行くのかどっちがいいかと。

その時琉愛は一緒にいてほしいと答えた。

惚れてた琉愛からお願い、聞かなきゃ男が廃ると思い、琉愛と一緒の中学校に入学した。

でも、それが、いじめの原因になったわけじゃない。

『俺』がその部活のキャプテンに練習内容についてちょっと助言したのだ。

それが鼻に触ったのか、いじめというものに発展してしまったのだ。

だから、別に琉愛のせいではない。


だからさ、


「だから、泣かないで?琉愛」


琉愛は顔を上げてくれた。琉愛の可愛い目は涙で赤く腫れていた。


かわいいのが台無しだよ、琉愛。


「『俺』はさ、琉愛に惚れてたから、確かに琉愛のお願いを聞いた。それはあってる。

でもな、それは全然『俺』がいじめられた原因とは全くの無関係なんだよ。

『俺』が部活内での立ち回りをよくしておけば、起きなかったことなんだよ。

だからさ、琉愛が責任に思うようなことじゃないんだよ」


「でも!」


「でもじゃないの」


と笑ってみせた。


「『私』が今うれしくないように見える?」


「ううん」


「うん、いじめのことはすべて過去なんだよ?

だからさ、すべて忘れようよ!」


「でも、それじゃあ、奏空が」


「『俺』はもういないんだよ?」


「は?」


琉愛が何言ってんだこいつみたいな顔して『私』のことを睨んできた。


「ここにいるのは『私』」


琉愛は少し考えて、わかったような、でも、訝しがるような表情を見せて、言った。


「『私』っていう男の時の奏空の記憶を持ってる女の子っていうことだということをあなたは言いたいの?奏空」


「そういうこと」


そう、過去は過去なのだ。

過去を振り返っても仕方ない。

未来を見るしかない。


「いつかは『俺』に戻るけど、今は『私』なんだよ?

だったらさ、『私』として生きてみようかなって」


「切り替え速いね」


「現状に悔やんでたって意味はないからね

現状を受け入れて、その中でどうするかだから

人生ってそういうもの繰り返しなんじゃないかな」


「何人生達観してんのよ」


と笑いながら、琉愛はツッコんでくれた。


「まあ、そうだよね、人生ってそんなもんなのかもね」


「そうそう」


と、言いながら、二人そろって空を見上げた。

星たちがきれいに輝いていた。





めっちゃ悩んで書きました。

てか、今悩んでます

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