第6話

「ヒントはちゃんと渡していましたよ。ほら、このポストカードの切手。よく見てください」


 杉村先輩はテーブルに顔を近づけて、まじまじとポストカードを見る。しかし私の意図が分からなかったのか、眉を顰めて首を傾げた。


「ちゃんと63円になっている。今のはがきの値段に合っているだろう?」


 私はその答えに首を横に振る。値段も大事なのだが、それよりも大事なところに注目してほしいのだ。


「そうなんですけど……切手の絵に注目してください。何の絵が描かれています?」


「前島密とソメイヨシノ……?」


 杉村先輩の答えに、今度は満足気に頷く。――答えに辿り着くまで、あと少し。


「そうです。では、前島密をとし、ソメイヨシノをとして、アナグラムで考えてみてください」


「ケンイ……ハナ……イケンハナ……ケンハナイ……ケンはない?」


 答えはもう出ているのに、杉村先輩はまだ分からないようで首を傾げている。私は最後のヒントを彼に出した。


「さて、かぎの音読みは?」


 しばらく考えて、彼はハッとしたように私の顔を見る。


「ケン……ケンだ! つまり、鍵はないって言っているんだな!」


「その通り。とってつけたような暗号ですけど、一応ヒントは出ていたんですよ」


 したり顔で笑う私に、杉村先輩は「やられたァ」と頭を抱え込んだ。その顔に少し優越感を抱いたことは、ここだけの話である。


「これじゃあまるで、二銭銅貨だな」


 杉村先輩がそうスッキリしたような顔で言う。私は頷いて笑った。


「一回、ああいうのやってみたかったんです」



***


 これは余談になるが、私と杉村先輩の勝負がついた数日後、神矢家の宝探しは終わりを迎えた。何でも、鍵が発見されたらしい。


 鍵の在処は前当主が大事にしていた銅貨に示されていた。そう、それこそ江戸川乱歩の二銭銅貨に出てくるトリックと全く同じように――。


 私と杉村先輩はそのニュースを見て、口角を上げた。


「前当主、センスがいいですね」

「ああ。中々粋なことをしている。……まあ、それに負けず劣らず、君のクイズも中々面白かったよ。次は負けないけど」


 杉村先輩の楽しそうな笑みに、私は「望むところです」と笑って返す。私達の頭脳勝負は、まだまだ続くのであった。



 

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今日も、先輩と頭脳勝負。 猫屋 寝子 @kotoraneko

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