第21話 藩陽


 蟹型の機体を破壊し、蟹光線の発射部である蟹ハサミを入手した俺たちは、一路藩陽を目指す。アレルギーなどがなければ生体組織によっては食えそうだが、今のところはまだ手を出したくはない。カニも相当死体とか喰ってるに違いない。人間の死体を食う生物食いたくはないが、そういう生物がうまいという説もあるらしい。


 戻ってきて貴重な淡水を浪費したムシコロンは、またコイルを巻いている。キンジョウにもコイルガンと火砲の組み合わせについて説いている。キンジョウもうなづきながら、パーツにコイルを巻き始めた。あれ結構重いんだが、トレーニングらしい……。


「なんていうか、呆れるわね」

「ムシコロンか」

「両方よ」


 ミコトもそう言いたくなるのはわかる。何やってんだよこいつら感はある。


「そんなことしなくても、金属元素析出させるように電解処理して形成すればいいじゃない」

『こういうのは気持ちのものもあるだろうが』


 突っ込むところそこか!ロボットに気持ちとか言われてもな。そんなことを言い合っていると、ムラサメがやってきた。


「ミコト、例の機体はできそうか?すぐにとは言わないが」

「……できるかできないかで言うとできるけど、本気?ムラサメくんの言ってること全部やると、人間が死ぬ機体できるわよ?」

「ムラサメさんなら死なないと思いますぅ……」


 討伐数第二位ユウナが小声でいっている。ミコトが半ば引くように言っているところからすると、ムラサメの機体はおそらく常軌を逸脱してるんだろうなぁ。もっともそこでコイル巻いてる奴が一番常軌を逸してるからなんも言えねぇ。


『ん?タケル、我の顔に何かついているか?』

「さっき貴重な真水で洗っただろ!ついてねぇよ!」

『藩陽近くにも川や湖普通にありそうだから、真水のことでそこまで心配せずとも……』


 そんなに洗えないと気になるのかよお前。潔癖症きれいずきすぎだろうが戦闘兵器。


 蟹の後は特に襲ってくる機体もなく、俺たちは命名好きなことをしながらも交代で船の上で見張っている。今のところはまったく襲い来る機体はない。来ても下位蟲機ならたぶん秒殺だろうし、上位蟲機でも複数の機動騎兵モビルドラグーン相手となるとおそらくそう簡単には船を沈めることもできまい。


「タケル」

「ミナ、どうしたんだ」

「マキナさんがミコトさん呼んでたんで呼びに来たの」

「マキナさんが?何の用かしら」

「おそらく蟲化病のことじゃないかな?」

「そうね、診てもらったほうがいいわね」


 ミコトはそういうと、ムラサメと一緒に船の医務室に向かっていく。やっぱりあの二人……。


「いいなぁ……私も誰かとお付き合いしたいですぅ」

「ユウナは自分より強い相手がいいんだっけ?それほぼ無理だよね?」

「アリサさん酷いですぅ。いるじゃないですか強い人は」

「だってムラサメさんはミコトさんと付き合ってるっぽいでしょ?ほかに誰かいる?」

「これから成長してもらえば……」


 おいユウナさん俺見てるんじゃないよ、ミナの目つきが怖いことになってるんですけど。アリサも震えている。


『頼むからほかで探してほしい』

「えぇ……何でですかぁ……」


 コイルを巻き終わったムシコロンがミナのフォローに入ってきた。こいつはすっかりミナの家来げぼくだからな前の一件から。


「ぼくもそのほうがいいと思う。あと強さ以外にも目を配ってほしいかな」

『全くだアリサ』

「はぁい、わかりましたぁ……」


 やれやれだぜ。それにしても気がたるんでいるような気もするな。俺も上にもどるか。上ではククルカンとノジマが何かを話し合っている。どうやらこれからのことについてのようだが。


「藩陽がどうなっているかは確認したいですね。場合によってはここが終着点になるかもしれません」

「そんなうまくいくとは思えないんだが、先生」

「かつての藩陽には大型のデータセンターが存在し、膨大な生物の遺伝情報が格納されていました。日々数戦もの生物の解析が行われていたとも言います。三極にもないデータが存在する可能性もありますし、うまくすればここですべて決着がつくやもしれません」


 つまり何か?ここでミナの病気のことがわかるということか?そうなるとワシントンD.C.まで行く必要もなくなるだろうが。


「タケルくん。もしここでミナさんの病気が治るとしたら、どうします?」

「どうって……」


 そう、俺はミナの治療のためにワシントンに向かうのだ。それが治るんだったらワシントンに行く必要もない。だが。


「どうって言われても、ミナを仮に直せたとしても、俺たち行くところないぞ。保安部の連中をどんだけ締めたと思ってるんだよ」

「ムラサメと同じか……あいつも『やってしまった……もう逃げ場がない……』ってなったからな」


 ノジマの言う通りで、俺もムラサメも犯罪者には違いない。もっとも腐りきったセントラルなんぞ、こちらから願い下げではあるが。大体なんだよあの飯。あんなもん食わせる時点でもうな。出て行けて好都合である。


「というわけだ。俺たちもついていくぞ」

「それを聞いて安心しました。バァ……ムシコロンにもついてきていただけないとこれからの旅が不安ですし。タケルくん自体もお強いですからね。中級の蟲機を仕留めていますしね」

「……たく、タケルがそこまで強いんじゃ、俺の機体も早く強化してもらわないとな」


 ノジマが蟹のハサミ(爪というらしいが)を肩に背負って光線を発射できる改造をしたいらしい。機体名をキャンサリオンに改名する、と言い出しているが。あの光線は船にもダメージを与えられる威力だったし、確かにこれから使えるかもしれない。


 そんなことをいっているうちに、俺たちは藩陽の上空と思しきところにたどり着いた。だが……


「なんだよ……これ……」


 そこにあったのは巨大なクレーターであった。あまりのことに、誰も言葉が出なかった。一体ここで何があったのか。かつて戦場であったことは間違いない。巨大なクレーターのほかに無数の小さなクレーターができている。何かの爆発があったに違いない。無数のがれきがその間に存在している。


『まさか、こんなことになっているとは……』


 ムシコロンも言葉をなくしている。少しでも何かの情報が手に入る、そう期待していたのにこれである。遺伝学研究所より藩陽のほうが連中にとっては脅威だったのだろうか?かつては数万もの遺伝情報解析機器がうなりをあげていた、とククルカンはいっている。だから狙われたのだろうな。


 俺たちは、藩陽の遺伝情報解析の会社があったあたりを飛行している。やはりここにも何もなさそうである。跡形もなく破壊されている。敵がいないと思ったが、廃墟には敵はいないだろう、そりゃ。


「ムシコロン、降りてみるぞ」

『本気か?何もないと思うが』

「データメディアの残骸くらい残ってるんじゃねぇか?それを採取したら少しは近づけるんじゃないかと思うんだが」

『現実的とは思えぬが、かといってここに来るのが無駄足ってのもなぁ。わかった。我らで降りよう』


 こうして俺たちは、かつて遺伝情報解析で栄えていたその場所に降り立った。本当に何もない……ように見える。だが、違和感がある。


「ムシコロン。破壊されている地面の下だが、どうもおかしくないか?」

『何かがあるな。まさかと思うがセントラル同様生きているのか?』

「木質組織も石灰化した組織もないんだが……」


 そうである。バイオニクスを用いての地下構造物を作るのに木質も石灰(貝やサンゴ)もなしに構造物を作るなどありえない。しかし、何かがいるような気がする。なんだろうな。


 突然、空の上から何かが飛んでくるのを感じた。


「よけろぉ!!」

『いわれなくとも!!』


 巨大な鉄の輪のようなものが、俺たちの方に飛んで来ようとしている。初撃を躱すが、輪はこちらに向かってくる。


「こいつは、どうも蟲機じゃないぞ!?」

『なら何なんだ!?』


 飛んでくる鉄の輪を腕で受ける。通信が入ってくる。だが何と言っているのかわからん。


「おい、ムシコロン、あいつなんて言ってるんだ!?」

『驚いたぞ。どうやら藩陽で、我と同様の機体が生きていたぞ!あれは、哪吒だ』






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