第20話 蟹光線



 襲撃らしい襲撃が無いおかげで、ムシコロンの修理や機動騎兵モビルドラグーンの改修も順調に進み、アメノトリフネは一路藩陽を目指すことになった。ここまで蟲機がいないのも不気味だ。セントラルには異常に蟲がたかっていたのに、何にも来ないじゃねぇか。


 これまでとは違いアメノトリフネも船速を早めることになった。時速数百キロで空を進む船は、蟲機とはいえやすやすとは追いつけない、はずである。いずれにせよどこまでも緑の山や川が続いている、ただそれだけである。かつては地上に多くの人間が住んでいたというが、どこにも人の気配はない。もう人類は地上では滅亡しているのだ、そのことを再確認させられる。


「それにしてもなんで蟲機は襲ってこないんだ?」

「今は地上で文明の活動が、ほとんど行われていないから、ですね」


 俺の疑問にククルカンが答えてくれた。


「蟲機は人間の文明活動、例えば赤外線、二酸化炭素といったものに反応します。多くの人間がいるところでは、ひっそりと暮らしていたとしてもそれなりの排出量になってしまいます」


 それでセントラルに蟲機が襲いかかってくるのか。人間の数を増やさない施策は、蟲機対策でもあるのか。


「待てよ?アメノトリフネはどうなんだ?こんな大型の船の排熱や二酸化炭素はかなりのものなんじゃないのか?」

「はい。ですので今は最低限の出力で飛んでいます。速度は犠牲になりますが蟲機には発見されにくいはずです」


 そういうことか。慎重に進むしかないからな今は。俺は格納庫へと降りていく。機動騎兵モビルドラグーンが並んでいる。今は素体の状態だが、

 今後は騎将キャリバーごとにカスタマイズを行なっていくとのことだ。最終的にには機動騎兵モビルドラグーン数体で特級蟲機と戦えるようにしたいとのことだ。特級蟲機とはわずかにしか遭遇していないが、その戦闘力はなめてかかっていいものではない、それは痛感した。準備はいくらしてもしたりない。


 格納庫の奥の方から何か音がする。俺はそちらに向かっていくと、奥の格納庫で、ムシコロンが何かの装備をいじっていた。


「何やってるんだ?」

『タケルか。いやな、GAU-8ガトリングガンだが、威力はともかく反動が凄すぎて、長距離だと当たらなかっただろ』

「確かにな。当たらなかった」

『そこでだ。反動を抑えるために別の方法で大口径弾を乱射できる方法を記憶データの中から漁ってたのだが、コイルガンを用いようと思う』

「コイルガン?」

『電磁石だ』


 電磁石でそんな大口径弾を発射できるのか?


『発射時の火薬量を減らし、弾を鉄外装フルメタルジャケットにする。そうすれば威力は落とさず反動がなくなる』

「なるほど。一理あるな。それでお前は何をしてるんだ?」

『コイル作ってる』


 手で巻いてるのか!なんだかなぁ……みみちいというか工業用ロボットならありうるというか……ていうかお前軍用じゃないのか?


『コイルとセンサーで磁力を段階的に操作して、加速していくことになる。加速のために砲身を伸ばした』

「使い物になるのかこれ?」

『悪くはないはずだ』


 それならいいのだが、とにかくそんな悠長なことしていられるものかは不安しかない。そんな雑談をしていると。


 警報が鳴りひびく。


「なんだよ何が起きたんだよ!?」

『非常事態です!海中から何者かが攻撃をしています。アメノトリフネの外装に着弾しました!損害軽微!』


 マキナの叫び声だ。海中からの攻撃?外を見ると、確かに海中から光の線が発射されるのが見える。あれはなんだ?


『バウスラスター機動!水平移動で回避して下さい!間に合わないなら垂直移動もします!』


 ククルカンが指示を出してゆく。水中からの攻撃が何かわからないが、とにかく避けていくしかない。


機動騎兵モビルドラグーンは出せないのか!?」

「キリュウやめろ!水中ではまともに動けないぞ!」

「そうです。今はまだ水中戦闘すら不可能です!」


 ノジマとキリュウが叫んでいる。ミコトが後からやってきた。


「どうすればいい!?」

「ムシコロンなら水中でも多少は戦えるでしょう。いいですね?」

『応。なら任せておけ!行くぞタケル!』


 こうして俺はムシコロンに飛び乗った。水中に向かって降下していく間も光の筋が空を舞う。一体何が攻撃してきているのか。着水するかしないかでその影がわかった。足が複数ある。これも蟲機か?色は赤茶色で、長細い脚が多数、そして2本の……


「ムシコロンよけろ!その蟲機の腕から光が出る!」

『こいつは蟲機ではない!だが、その腕は……ハサミか!タケル、こいつは、蟹だ。蟹機と言ったところか』

「カニ機?」


 ムシコロンによるとかつての地球にいた、蟹という生物によく似ているという。だが、腕からは光が出る。


『生体レーザーだ。あの腕からだしているようだ』

「どうすればいい?」

『へし折るぞ、あの鋏!蟹光線かにこうせんで船が沈むとか笑い事ではないからな!』


 の笑い事というが笑いどころがわからないが、蟹から出る光線をどうにかしない限り日本から脱出できないのも確かだ。


「行くぞムシコロン!水中戦は大丈夫か!?」

『ケラ蟲機のおかげでな!潜るぞ!』


 いうが早いか、ムシコロンは水中に潜ってゆく。蟹はどんどんアメノトリフネに光を放つ。ククルカンの指示でかろうじてかわしているが、そう長くはもつまい。


 ……気がついていないようだ。ムシコロンは蟹の真下に潜り込み、背後に回り込んだ。一気に両方の腕を掴んだ。蟹も力で振り解こうとするが、ムシコロンの握力には敵わない。蟹の腕の光線は変なところに飛んでゆく。


「握敵滅殺!ムシコロン・アイアンクロォ!!!」

『へし折れろ甲殻類いいいぃぃぃ!!!』


 蟹型の機体の両腕が、ムシコロンの力技でへし折れる。そのままムシコロンが頭部を砕き足もへし折る。無茶苦茶に破壊した後、蟹の手脚を奪い、ムシコロンはアメノトリフネに帰投した。


『なんとか勝てたな。あ、整備士の皆さん真水下さい』

「錆びるのやだからな」

「無事勝てた?よかった……また直すのも大変なのよ」


 ミコトにそんなふうに言われて、ムシコロンが若干ムッとしているようだ。


『それよりこの手脚何かに使えぬか?』

「ビーム砲か。俺の機体につけて欲しいんだが」


 ノジマがそんなことを言う。なるほど、支援機にしたいと言うわけだ。ノジマらしいが、ビーム砲を上手く付けれれば強化はできるか。


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