7


「うへえぇぇ、コーヒー苦かった…」



…見栄張らずにミルクと砂糖入れろよ。とマイルに心の中で突っ込みつつ、電車の窓に目を向ける。景色が早送りのように流れていく。



『くれぐれも、外ではニューワールドの話はしないでくださいね。メールやチャット等でも禁止ですよ』



別れ際に念を押すように冴木に言われた言葉を思い出す。だが頭の中はあのゲームの事でいっぱいだった。普通に考えるならあり得ない話だ…根拠はない、だがなぜだか俺にはあの冴木という男の話は嘘ではないという確信があった。



「明日、集まる…よね?その…結果報告?も兼ねて」


「そうだね、13時に部室に集合しよう」



ミレ姉と九ノ原先輩のやり取りを聞きながら、電車に揺られていく。皆口数が少ない。まぁ一番話したい内容を話せないという制限を受けているから、当然と言えば当然なのだが。冴木との口約束を皆律義に守っているのは、やはり皆あの男の話が嘘ではないと何となく感じ取り、ある種の期待をしているのかもしれない。


この日常に、変化をもたらすものに出逢ったのかもしれない…そんな、淡い期待を。






夜も更け、ベッドに入った俺はなかなか寝付けずにいた。時計を見ると1時32分を指示している。もう冴木の言っていた時間まで30分を切っている。早く寝てしまわないと…。そう思う程、目は冴え、睡魔を感じることができない。



「……」



左手の中指につけている何の変哲もない銀の指輪を見つめる。こんなもので…本当に…



「…はは」



俺は何をこんなに期待しているんだ。流石にそんなことがあるわけがない。冴木の雰囲気に呑まれて何となく信じ込んでいたが、改めて考えると馬鹿馬鹿しい。


俺は自嘲し、天井を見つめる。


変人のいたずらに引っ掛かっただけだよな…


そんなことを考えていた時だった。



《――――――ナギ―――――》


「!?…」



不意に頭の中に響くように聞こえた声。


なんだ今の?…それに、今の声は…




《――ナギ…早く、おいでよ――》



やっぱり!…この声は…


《―――世界を…て…見せて……ナギ―――》



「ま…し…」



その瞬間俺は強烈な睡魔に襲われ、夢の中へと落ちていった。


いや…俺はあの時、”世界”へと落ちていったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る