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「夢の…中?」


「はい、ニューワールドは皆様の夢へとアクセスし広大なオープンワールドへと投影させるオンラインゲームなのです」



皆理解が追い付かず、ぽかんとした表情を見せる。



「フフ…そうですよね。とにかく一度プレイして頂く方が早いでしょう。どうでしょう?一度プレイしていただいて、続けるかどうかはその後判断していただくというのは。もちろん、ゲームをプレイすることによる人体への影響はないと保証いたします」



今まで消えていた疑念がぶり返してきた。この話…大丈夫か?夢の中で行うゲーム…そんなもの聞いたこともないぞ。



「あの…つまり睡眠時に見る夢を強制的に操作するってことになるんですかね?それって悪影響が出ないとも限らないと思うんですが…」



我慢できずに俺は口を開いた。今までの話が本当なら、眠っている状態の脳に膨大なデータを流し込むようなものだ。というか、フルダイブ技術との決定的な違いはなんなんだ。それほどのことをするには相応の設備が必要だろうし、それをネタにこのままどこかに誘導されて痛い目に遭う…なんてのは避けたい。



「わかりました。では今回は製品をお渡し致しますので、お持ち帰りください。お帰り頂いた後、プレイするもしないもご判断にお任せ致します。そして明日続けるかどうかのお返事をいただければと」


「!?」


予想外な返答に困惑する。持ち帰る!?仮想現実の中にダイブするような技術が、持ち運びできるようなサイズのゲーム機になってるというのか?そんな技術が現代に?…


だが、冴木が取り出したものは俺の想像を凌駕するものだった。



「皆様はこちらをつけて御就寝いただくだけでゲームに参加できます」


「え?…」



それは手のひらにも軽く収まる程の小さな黒い箱。その中には…



「…指輪?」


「はい、このリングを中指に装着していただき深夜2時までに床についていただく。それだけです」



いやいやこれは…流石に…



「えー…お兄さん、俺達騙してる?」



マイル、直球すぎ。



「そう思われても仕方ありませんが…では、私に何のメリットがあるのでしょう?仮にこの話が嘘だとしましょう。私の提案はこのリングを皆様に持って帰って頂き、コレをつけてご自宅で眠って頂くこと。私はわざわざこのリングを準備して渡す…私の話が嘘かどうかは今日試してみれば分かることです。嘘だと分かれば皆様は今後一切私とコンタクトをとることもないでしょう…さて、ここまでで、どこに私の得になることがございましたか?」


「……」



たし…かに。状況だけみれば、この男は俺達にコーヒーをご馳走し、何の変哲もないシルバーのリングをプレゼントしたようなものだ。なんの得もしていない。


例えば、指輪に発信機がしこまれていて自宅を特定…いや、俺達みたいな普通の高校生の自宅を調べてなんになる?それに調べたければ、他にいくらでもやりようはある…わざわざ俺達に接触する意味がない。


何かのドッキリ?…だとしても、企画としては面白くなさすぎる、よな。



「うぬー…どうする?皆?」


「…」



ミレ姉の言葉に、俺達は顔を見合わせる。



「わかりました。引き受けましょう」



少し間をおいて九ノ原先輩がこたえた。



「そうですか!良かった、ありがとうございます!後悔はしないと思いますよ…それでは皆様にゲームのスタート地点を選んでいただきます」


「スタート地点?」



冴木は鞄から羊皮紙のようなものを取り出し、広げた。世界地図…か?



「ニューワールドには五つの大陸があり、100以上の国があります。皆様にお選び頂けるのはそのうち二つの国のどちらかですが…」



冴木の話を聞きつつ、地図に目を落とす。冴木の言う通り、地図には5つの大陸が描かれており、冴木はその中では小さい、地図の中央の大陸を指さした。



「アルバ大陸。豊かな自然があり、中央に高い山脈が連なり、東と西で分断された大陸です。この大陸には4つの国が存在しますが、皆様にお選びいただけるのはアルバ大陸北西に位置する美しい街を持つ水の国レラディア、もしくは北東にある港貿易が盛んな商業の国クランツ…この二つの国です」


「所属する国を選べるということですか?」


「いえ、基本的には冒険者は世界を旅してまわるものですので、あくまでもスタート地点としてお考え下さい。まあ当面の間は最初の国を旅してまわるだけでも一苦労でしょうがね、なにせ、アルバ大陸はこの世界のアフリカ大陸と変わらない大きさですから」



スケールがデカすぎて…これはホントにゲームの話なのか?



「どう…する?」


「…最初の国は全員同じでなくても良いんですか?」


「ええ、もちろん。個人の判断でお選びください」



そうか、それなら…。



「先輩…」



俺は九ノ原先輩へと視線を向ける。



「…うん、たぶん俺も同じことを考えているよ」



九ノ原先輩も視線を返してくる。俺が言いたいことを理解したようだ。



「俺は…クランツでいいですか?」


「うん、じゃあ俺はレラディアだね」


「え!?皆同じにしないのか!?」



俺達はこれまでafter schoolとして色んなゲームに挑戦してきた。その度にハイスコアを叩き出してきた。その中でも九ノ原 冬夜…先輩。この人ほど頼りになるプレイヤーはいなかった。そしてそれはいつしか…この人とゲームで競ってみたいと思うようになっていた。



「なーるほどねぇ、戦ってみたいんだ?」



ミレ姉がニヤニヤとした笑みを浮かべる。



「いいっすね!じゃあ二年生チーム対三年生チームってのはどうっすか?」



と、マイル。



「いいねぇ!ノった!!」


「異議なしっ…」


「問題、ない」



こうして、俺とマイル、ノノはクランツ。九ノ原先輩、ミレ姉、一条先輩がレラディアからスタートすることとなった。俺達はそれぞれ冴木から指輪を受け取る。



「あ、そういえば俺達もう一人メンバーがいるんですけど…」


「ああ、申し訳ないが今回は君達6人で定員とさせてもらっています」


「そうかー、なんか由衣に悪いなー」


「それと一つだけ、このゲームのことは一切口外しないで下さい。破るとペナルティーもありますので…」


「え?…なんかこわ」


「なにせ企業秘密ですから…お願いしますね」



笑顔のままだが、そこはかとなく冴木から威圧感を感じる。まあ、これが本当ならゲーム業界に革命を起こす一大事だからな…。



「ではそろそろ、解散といたしましょうか」



そういうと冴木は荷物をまとめ始めた。

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