撮影の第十三話。

 照明の落ちた廊下で待つこと暫し。


「入って」


 扉を数センチ開けて、月見里さんが顔だけを覗かせる。さっきまでは無かった艶かしい光沢を放つ薄ピンクが唇に乗っていた。多分わざわざ化粧をしてくれたんだろうけど、生憎メイクに詳しくないから口紅の有無以外の判別方法が分からない。けど、きっとファンデやらを顔に塗りたくったのだと思う。


「すまんな、化粧まで」


 風呂上がりなのに、と言外に付け足す。

 だが、彼女は「は?」とでも言いたげな口の形で応じた。


「してないけど。ちょっとグロスだけ」

「ぐ、ぐろす...ポケモン?」

「...リップグロスね。まあ口紅みたいなもの」


 口紅だけなのか。普段、化粧済みの田中さくらとすっぴんの月見里咲耶、ほとんど差がないぞ...。どんだけ肌綺麗なんだよ。きめ細けぇー。


「化粧してくれたのかと思った」

「褒め言葉として受け取っておくわ」


 会話を交わしながら再び彼女の部屋へと招かれて、ようやく月見里さんの全貌が明らかになる。どうやら着替えたらしい。全身の殆どを覆う大きなバスタオルから伸びる素足が、やけに扇情的に映る。


 有り体に言ってしまえば、えっろい。すごく。うん。


「...そんなにジロジロ見られると困るんだけど」

「ん、ああ。ごめん」


 視線をなんとか逸らした。いや、逸らせてない。引きつけられて惹かれる。


「朝、私の身体に興味ないとか言ってなかった?」


 悪戯っぽく笑う月見里さん。


「いやいやそれとこれとは話が違うというか」

「...そう。じゃあ。この格好を見ても同じことが言えるかしら」


 そう言うや否や、彼女は巻き付けていたバスタオルを脱ぎさった。


 露わになったのは───肢体。


 と、水着。白色の。


 暗い部屋にドアの隙間から差し込む光。それが、彼女を照らすスポットライトとなって映えている。白雪のような肌は触れたら解けてしまいそうな危うさがあって、水着とはまた別の純白だった。

 そして何より「室内で水着」というシチュエーションが、得も言えぬ背徳感があって興奮する。


 視線は未だ釘付けだ。


「どう」

「百点」

「ならよかった」


 俺の即答に彼女は僅かに相好を崩し、纏っていた神秘的な雰囲気が緩やかに弛緩する。そのギャップはとても魅力的だった。


「何かポーズとかとろうか?」


 月見里さんは手を後ろで組み、胸元を強調する。グラビアでよくあるやつだ。


「おお...」

「反応が童貞」

「ほっとけ」


 スマートフォンのカメラを向け、パシャリパシャリ。背徳感と興奮が相まってどうにかなってしまいそうだ。


 しかし、ふと不安になる。

 こんな風に男に水着姿を晒してなお平然としている彼女は貞操観念といったのものがおよそ皆無だ。


 まあ、それを撮ってる俺も大分やばい。

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カリスマアイドルが学生寮に引っ越してきて、俺が彼氏になったんだが。 吉田コモレビ @komorebb

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