第九幕 ~ラブ・レボリューション・オンザビーチ~ -昼の部-
40.「お笑い芸人みたいなノリ強要されるのを、僕らは最も嫌うからね」
――ざぷーんっ
「……うおおおおっ……、波の音、煌めく太陽、踊る水着美女……、これが海、これが……、『青春』ってやつか……ッ!」
――ブルブルと身を震わせながら、キラキラと目を輝かせているのは、コトラくん。
「……暑い、人多い、狭い、うるさい」
――ジトッとした目つきで、ハァッとため息を吐いたのは、紅さん。
「……なんか、家族連れかカップルばっかりだね、あとはナンパ目的の同性同士とか。……今思ったけど、海ってあんまり男女グループで来るようなとこじゃないんじゃないかな……」
――いつも通りの無表情で、ボソッと呟いたのは、葵くん。
――私……、柳アゲハはと言うと――
「あ、あの……、気のせいでしょうか。なんだか、周りの方々から刺すような視線を感じるのですが……」
「……いや、そりゃ柳が巨乳だからダロ……、ってか間近で見るとマジででけぇなっ!? それ何入ってるの?」
「……ふぇぇぇっ!? お、お肉しか入っておりませぇぇぇんっ!?」
ビクッと私の肩が震えて、思わず上半身を腕で隠して――
「……やっぱりあの時、揉み潰しておけばよかった」
「――く、紅さんッ……、だから揉み潰さないでくださいぃぃぃっ!?」
「……えっ、紅、柳の胸さわったことあるの? ……なんだよずりぃな、今度俺にも触らせてくれよ」
「……ふぇぇぇっ!? い、一日一回十秒だけでお願いしますぅぅぅっ!?」
「……柳さん、そこは一秒でも許しちゃダメだから」
――葵くんが、無表情のまま再びボソッと呟いたところで――
「――とりあえず、ビーチバレー対決しようぜッ!?」
興奮気味のコトラくんが、そんな提案をしました。
「……いきなり? 雷が遅刻したせいで到着が遅れてもうお昼だから、僕お腹すいてるんだけど……」
やけに説明口調の葵くんが、無表情ながらも少しだけ眉毛を八の字に曲げています。
「――そこでだッ!」
――ビシッと、コトラくんが私たちに向けて人差し指を突き出しました。
「……いまから、男女二人組のペアになって、対決するんだよッ! ――で、負けた方のペアが海の家から昼飯を調達してくる……、どうだッ!? エンターテインメントと食事を組み合わせたサイコーのアイディアだろっ!?」
得意げに、フフンと鼻を鳴らすのは『コトラくん』で――、でも、私以外のお二人の顔は、愉しそうなコトラくんとは対照的――
「……さすがリア充、発想がいちいち合コンじみてるね……、合コンしたことないけど」
「うぜぇテンションだな、後で砂浜に埋めてやるよ」
「……いやいやいや!? お前らノリ悪すぎだろッ!? 海なんて何やっても楽しくなるもんだって! なぁ、やろうぜ――」
――そんなこんなで、気づけば私はグーパーじゃんけんに参加しておりました。
「――いくぞっ! さーいしょーはっ……、グーッ! ……と見せかけてパーッ!」
「――ハイ、雷の一人チームに、決定~」
「……じょ、冗談だって!? こんな小ボケもお前らには通用しねぇのかよっ!?」
「雷、僕たち陰キャを舐めない方がいいよ。お笑い芸人みたいなノリ強要されるのを、僕らは最も嫌うからね」
「……どうでもいいけど、僕『ら』って、アタシをネクラのカテゴリに勝手に入れるんじゃねぇよ」
「何言ってるのさ、僕以上にひきこもりなくせに」
「……クジラも、この金髪猿と一緒に砂浜に埋まることが、今決定したから」
「……く、紅の中で、俺ってもう人扱いすらされてないのッ!?」
悲鳴にも近いコトラ君の声が青空に響いて、「いいから真面目にやるよ」と、葵くんが呆れたように漏らして――
――じゃんけん一つやるのに、この騒ぎ……、ホント、愉快な人たちです。
私が知らなかった世界。
同年代の友達同士で、冗談言いあって、無邪気にはしゃいで――
――他の人に言ったら、そんな当たり前のコトって、笑われちゃいそうですけど。……でも、「そんな当たり前のコト」が、私には、キラキラ輝いて見えてしまって――
「……あっ」
私の視界に映ったのは、二つの握りこぶしと、二つの掌。
「――決まりだなッ、俺と柳のペアと、葵と紅のペア……、どっちが負けても恨みっこナシだぜ!」
……わ、私とコトラくんが、ペア――
トクンと、心臓の動く音が聴こえて、隣りのコトラくんが、ニカッと白い歯を見せて――
「――異議アリ」
スッと、淡々とした声を差し込んだのは、葵くんでした。
「戦力差ありすぎるでしょ、僕、ビーチバレーなんてやったことないし、ホタルだって力はすごいけど背は低いわけだし……」
「――何言ってんだよッ!? そこを愛の力でカバーするのがビーチバレーだろうがッ!? ……それに、安心しろ、俺は一見運動できる風に見えるが、実は球技はてんでダメだ。カッコ悪いところ見られないように基本的に体育はサボってる」
「……確かに雷、体育の時間いつもどっか居なくなってると思ったら……、ってかそれ単位大丈夫なの?」
……あ、愛の力……
ぐわんぐわんと私の頭の中が回って、後半の彼らの会話がおよそ耳の中に入ってきません。コトラくんの単位は心配ですが、私にはどうすることもできません。
――久しぶりの登場……、『恋の触手』が私にささやきます。
『雷コトラと二人きりになるチャンスじゃねぇか。この勝負に勝って、アイツらが買い出し行っている間に、その自慢の胸を使って、奴と既成事実でも作っちまえば――』
――き、既成事実!? ……なんてハレンチな響きなんでしょう!? 恋の触手には道徳教育と性教育が必要なようです。
……で、でも……、二人きりになれるチャンスなのは、間違いないワケで――
「――もうなんでもいいよ、アタシとしてはどっちとペアだろうが、どっちも運動音痴なワケだし、腹減ったし、さっさとやろうぜ」
イライラしたように声をこぼしたのは『紅さん』で――、ハァッとため息を吐いた葵くんが、「まぁ、いいけど」と諦めたように頭を掻いています。
「――よしッ! 『満場一致』だな! ……柳、ゼッテー勝って、俺らはノホホンと日光浴でもしながら優雅に――」
「――こ、コトラくんッ!?」
――『遮断』。急に大声をあげた私に、コトラ君の方がビクッと震えました。
「……絶対、絶対勝ちましょうね……ッ!」
「……お、オウ――」
メラメラと私の目には炎が宿っており、
ふしゅーっと蒸気のような鼻息を鳴らして――
私は、コトラ君の何か怯えるような目つきに、てんで気づくことはできませんでした。
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