第八幕 ~♀×♀~
37.「アンタの胸、揉み潰すことにしたから」
――シャーッ(※カーテンがめくられる音)
「――く、紅さん! この水着……、どうでしょうかっ!?」
「……ああ、うん、いいんじゃない」
――シャーッ(※カーテンがめくられる音)
「……こ、こっちは、どうでしょうか!? ちょっと色が派手でしょうか!?」
「……ああ、うん、そうかもね」
――シャーッ(※カーテンがめくられる音)
「……こ、これは、どうでしょうか!? ……だ、大胆すぎるかしら」
「……ああ、うん、もう裸で行けよ」
――はぁ~~~っ。
……メ・ン・ド・ク・セ・ェ――
マジで、なんで、どうして、こうなった。
アタシは、今一体、何を見せられてるんだ――
新宿なんて、久しぶりに来た。……っていうか、休みの日に外に出ること自体久しぶりだ。アタシ――、紅ホタルの眼前で、面積の少ない布地をまといながら、無駄にでかい胸を揺らしているのは柳アゲハ。……あー、揉み潰してやりたい。
駅直結のショッピングセンター、ゴミみてーな人込みの一員に混ざったアタシらは、ノロノロと進みの遅い隊列移動を強要され、イライラが爆発する寸前のところでようやく四階の水着売り場に到達した。目が痛くなるくらいカラフルな売り場にアタシはその場でゲロを吐きそうになっていたが、アゲハはキラキラと目を輝かせていて――、気づけば、ベージュ色のカーテンが開幕されるのはコレで『十五回目』だ。
「アゲハ、もうそれでいいよ、それで決定」
「――えっ!? ダ、ダメですよこんな大胆な水着……、人前に出られないです」
「……じゃあなんで試着したんだよっ!?」
「そ、それは、せっかくだからいろんなの着てみたいなと……」
――あ~~っ、女ってめんどくせぇなホント……、いや、アタシも一応女ではあるんだけど……。
アタシのイライラを流石に察したのか、アゲハは巨乳お披露目ショーにようやく終止符を打ち、結局最初に選んだ無難な柄の水着を手に取ってこっちに近づいてきた。
「お、お待たせしました……、紅さんは、もう決めたんですか?」
「……えっ? ああ、なんでもいいよ、もうコレでいいや」
チラッと横を向いたアタシは、手の届く範囲にかけてあったヒラヒラの布が腰まわりについたデザインの水着を手にとり――
「――ダ、ダメですよ! そんな適当に選んだら……、ちょっと、待っててくださいね」
――何故か私の手からその水着を奪ったアゲハが、ニッコリ笑って、スキップまじりに水着売り場を闊歩し始める。ポカンと大口を開けているのは『私』で――
待たされること三十分。大量の水着を持ってきたアゲハが、それらをアタシに押し付け、ドスコイドスコイとつっぱり張り手をかましながら、アタシのことを試着室に追いやった。シャーッと、ベージュ色のカーテンが閉じられ――
「――お、オイッ! アタシ、別に試着なんてしなくていいよ、着られりゃなんでもいいだろ」
「ダメです! サイズだって合ってるかちゃんと見ないと、大事なものがポロリしちゃいますよ!」
「――とりあえずココ出たら、アンタの胸、揉み潰すことにしたから」
「……ど、どうしてッ!?」
――はぁっと、タメ息を吐いて……
「――紅さーん! 着替え、終わりましたかー?」
「終わったけど、っていうかサイズ別に問題なかったから、コレでいいよ」
「――み、見せて下さい! 見たいです!」
「えっ、ヤダよ、恥ずいし」
「――ど、どうしてッ!? アタシのはいっぱい見たじゃないですか!?」
「……イヤ、アゲハが勝手に見せてきたんだろ……」
「――そ、ソレハ……、と、とにかく! 今から恥ずかしがってたらとても海になんて行けませんよ! いや実は私もすごく恥ずかしいのですけどッ!?」
……なんなんだよ、コノオンナ――
――はぁっと、タメ息を吐いて……
――シャーッ(※カーテンがめくられる音)
「…………」
「…………」
「…………」
「…………オイッ」
「――ハッ」
――ポカンと、大口を開けてマヌケ面を晒してるのは『アゲハ』で、
両腕で上半身を隠しながら、地面に目を落としているのは『アタシ』で――
「……だ、黙ってんじゃねぇよ、大体、アタシは最初から――」
「――かっ、かっ……」
――かっ……?
ぶっ壊れたゼンマイ人形みたいに、柳の身体がカクカクと震えはじめる。相変わらずバグりやすい女だなと、思わず途中で言葉を止めたアタシの眼前――
「――かっ……、可愛すぎるぅぅぅぅぅぅっ!?」
ぶーーっ。
――アタシの視界を染めゆくは、『紅蓮』。
目が痛くなるくらいカラフルな水着売り場が、
レッドオーシャンの海に沈む。
……要約するとだな、
アゲハが、鼻血出して、ぶっ倒れやがった。
マジで、なんなの、コノオンナ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます