耳元や足元を唸りを上げて弾が通過する。立ち止まらずにあて図っぽうに応射しながら走りに走るとやっと村の中に飛び込むことが出来た。

 中隊本部が潜んでいる石組小屋の物陰を見つけ、携帯無線機に向かって指示を怒鳴るリを見つけその横に身を隠す。

 モレンに村長をふん縛るよう命じると、リの肩を叩き。「状況は!?」


「こっちの損害は死亡二、戦闘不能三、負傷五、流れ弾を喰らった村人にも五人ほど死人が出てます。生き残りの村人は三つの小屋に分けて閉じ込めました。第二第三は効果的に応戦中、敵はこちらの迫撃砲と機関銃、それに噴進砲を恐れて突撃の機会を掴めないようです。ただ数が大隊規模のようで数でこっちが押し負けてます。はやく『流星』が来てくれないとヤバイかもしれません。そっちは?」

「タレムがど頭を打ち抜かれてやられた。墓の中は死体の代わりに武器弾薬、それに七十五 ミリ砲弾まで埋まってた。ここは土匪の」


 と言った所で俺の頬のすぐ横の石壁が弾を受けはじけ飛び、破片が飛び散る。口の中に入った砂粒を吐き出し続けた。


「土匪の拠点だ。たぶん今ここに弾をぶち込んでる奴等はチレジ村をやった奴らだ。賭けてもいいぜ」

「同胞の女子供年寄り係無しって訳ですか?薄情な奴らだ。その内山砲をぶち込んできますよ」


 ふと、辺りを見回す。あちこちの小屋に身を潜め撃ち返す味方の兵、森の中ではこちらの第二第三小隊が押し寄せて来る敵を撃ちに撃って撃ちまくり押しとどめている。

 迫撃砲分隊は各個に目標を定め迫撃弾を撃ち込み、その度に森の中に爆炎が上がり木が倒れる。

 軽機関銃が金切り声を上げて大量の弾を森の中に送り込む。

 ぶっ放された噴進砲の後方爆風が土煙を上げ射手を覆い隠す。

 何か強烈な違和感を感じる。 

 ふと、リ・ウォン吐いたセリフを頭の中で再生してみた『その内山砲をぶち込んできますよ』

 なぜ、その内なんだ?なぜ今撃たない、いや何でそもそもいきなり砲弾を撃ち込んでこない?

 村の中の同胞を気遣って?冗談じゃねぇ、今でも遠慮なしにバンバン弾を叩き込んで来てるじゃねぇか。

 バチャン族への積年の恨みを晴らすためなら、女子供年寄りなんでどうでいいって具合に。

 無線手が叫ぶ。


「『流星』到着まであと三十分!」


 もうじき『流星』が来る。二連装十二.七 センチ砲四基の一斉射撃を喰らえば大隊規模だろうとイチコロ、木っ端みじんだ。

『流星』?そうか!

 俺は無線手に向かって怒鳴る。


「『流星』にこっちへ来るなと言え!艦砲の有効射程内ぎりぎりに滞空するように要請しろ!」

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