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 話は三日前に遡る。

 この年の植月二十三日に始まった一大反攻作戦『鬼雨』は、その名の通り集中豪雨の勢いで帝国新領内に侵入した同盟軍を叩きまわし、一時の劣勢を覆し失地をドシドシ奪い返し、十重二十重の包囲下にある二つの要衝、海岸部の都市『泰明』と内陸部の都市『叢林』の解放まであと一歩という所にまで迫った。

 そんな中、我が軍が叢林奪還作戦の拠点にしていた幾つかの原住民の村の内、最大の物資集積地として使っていたバチャン族のチレジという村が、同盟軍側についたオレコ族出身の土匪どひ(ゲリラ)の襲撃を受け、壊滅的な打撃を被った。

 当然、その村を守備していた連中は昼寝していたわけじゃねぇ。それでもコテンパンやられたのは敵が攻撃になんと野砲を投入したからだ。

 守備側は前線の後方に浸透した敵部隊の攻撃を警戒していた訳だが、浸透部隊だからまさか野砲まで持ち込んでいるとは普通考えねぇ、ところがドッコイ。奴さんらは根性で村を望む高地に野砲三門を持ち込み砲弾をドカスカ叩き込んで来やがった。

 砲撃に耐えられるような援兵豪や塹壕なんて作ってないもんだから被害は相当なもんで、守備に就いていた一個中隊は砲撃とその後の突撃でほぼ壊滅、非戦闘員である住民も女子供年寄りから犬猫豚山羊鶏に至るまで悉く皆殺しの憂き目に遭い、チレジ村は文字通り貴重な物資と共に灰燼に帰すって羽目になった。

 当然、今後の作戦遂行に大きな支障を来すことに成っちまった帝国陸軍第六方面軍司令部は激怒。オレコ族土匪とそれを指揮した同盟軍特殊部隊を一匹残らず狩り立てよと、二百人以上の同胞を叩き殺され復讐に燃え滾るバチャン族愛郷遊撃中隊に命令を下した。


『土匪どもは野砲と言うお荷物を持っている以上、どこかに拠点を設けているはず。そこを見つけ出し叩き潰せ』


 と、言う訳で俺たち十四人の将校団は『鬼雨』作戦でヘトヘトになった体を癒す間もなく戦場に引き戻され、怒れる百八十三人のバチャン戦士を引き連れ、暗みに沈む森に降り立ったという次第だ。

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