トアル工場

あの街を離れて、草原の真ん中を一筆で書かれたような黒いアスファルトでできた二車線道路をひたすらに歩いていた。


何もないだだ、青々とした広い草原がまわりにあるだけで、他にはなにもない。生温い風が吹きつけるたびに、波を打っていた。


殺伐とした雰囲気に慣れてしまった私にとって、こんなに穏やかな雰囲気の場所を見つけたのは久しぶりで新鮮な気分だった。


足の疲労を抱えながら、蒸し暑い炎天下の中、あの体育館で手に入れたペットボトルに入った水を飲みながら、歩いていた。


「車とか、バイクとかあったらいいのだけどなぁ、歩くのは、やっぱり疲れる......」


疲れを交えたため息を吐きだしながら、ペットボトルにあるわずかな水を飲み干してしまった。


「水もなくなってしまったか... 」


ペットボトルをくしゃくしゃにしてその辺に捨てた。


「また、食料と水を探さないとなぁ... 」


そんなことを考えながら草原をひたすら歩き続けていると、古びた煙突が建立している工場が見え始めた。


私は、双眼鏡を手にして、人がいるのかを確認するために廃工場へとレンズを向けて工場の煙突に双眼鏡を焦点をあて、上から下へと順番に見ていた。


煙突は5本のうち2つは、折れてしまっており、苔むして、屋根が赤色に錆びていた。


煙突の梯子に沿って、双眼鏡を下へと順番にみていった。


工場の通路場があり、換気設備、ファン、梯子、見張り台、検問所と見たが、見る限りでは、人が無さそうな雰囲気の場所だった。


「人はいないみたい…だ…が?」


そう思っていたが、検問所のすぐそばにある車高の高さ制限の標識の場所に数人くらいが首をつるされているミイラがいた。


「……」


こうゆう大きな廃墟の場所には大抵、凶悪な人間が屯ろしていることが多い。


「まぁ…、居たら居たで殺してしまえばいいじゃないか、この世界に法律なんてないのだし...、それに食料と水があるかもしれないしね。」


そう、思い立ち、廃工場へ向かった。


廃工場の高さ制限が書かれている看板のすぐそばまで行き、吊るされているミイラを見上げた。


ミイラは風が吹くたびに踊るようにゆれている。


死臭を感じ鼻を抑えてしまった。


左から古いものが順になっており、一番右側のはまだミイラ化していなく、一番新しいもので、腐食が進んでいる状態のものだった。


一羽の大きなハゲタカが、空から飛び降りてきて一番右側の新鮮な死体の頭に乗っかかり、貪り始めていた。死体の腐った肉がそこら中に散らばっていた。貪り食べはじめると死体の腐りかけた目玉がポロッと地面に落ちてきた。


落ちた目と私は目が合ってしまった。


存外、綺麗な目玉をしていた。


ハゲタカは気持ちの悪い声で私を威嚇してきた。


「…獲らないよ」


少し後ずさりすると、ハゲタカはすぐに地面まで降りてきて、その目玉を咥えたまま、また、高さ制限の看板へと戻った。


どうやら、このハゲタカは人間の目玉がお好きなようだった。


「お目が高い…なんて」


私は、ガスマスクを取り付けて、散弾銃を構え、体育館で手に入れた旧式のマシガンを背中につけた。


「さて、参りますか…」


工場へと続く道路を歩いていくと鋼鉄の扉が半開きとなっており、中へと入れた。中は、苔と植物が工場内部を侵して、ただ、暗い廊下が延々と続いている。所々老朽化しているところから、わずかに太陽の光が差し込んでいた。


「ギャアアアアアア――――‼」


「!」


奥から叫び声が聞こえてきた時、驚いて、鳥肌が立った。


「 ...やはり、人はいるのか?それとも、前みたいな巨虫の類か?」


私は、暗い工場内に使えそうな物がないか、探索し始めた。


しばらく暗い廊下を歩いていくと、廊下の空中や地面など所々工場の穴から太陽光がはみ出しチラチラと白く光っていることに気づいた。


( なんだ...?この白く光る物は...?埃か?)


私は別段と気にせずに奥へと進んでいくと途中で、中枢システム室と書かれた部屋で人の気配がありドアノブを回して中に入った。


中枢システム室に入ると、ボロボロの白衣を着た一人の男がうづくまって何やら、部屋の暗がり独り言のようにボソボソとしゃべって怯えている男がいた。


( さっきの悲鳴はコイツか...?)


「おい。」


「ひぃぃ、く、く、なぁぁ...」


「ここの住人か?」


「あぁ?ああぁ.......ふふ...」


虚ろな目をした男は俯きかげんにそう言った瞬間、小さく笑う声が聞こえた。


「?」


( なんだ、こいつ。なんでいきなり笑ったんだ?)


私は、この男に違和感を抱いた瞬間、彼はそばにあった木材を手にして、私の顔めがけて殴りかかってきた


「クッ‼︎なんだ、こいつ!」


「あぁ‼︎ああぁえぉぉーーー‼︎‼︎」


白衣の男は、眼球が白目を剥いており、口からは溢れんばかりの彼の涎がドバドバと出していた。


「ヒャハハハハハハハハ!!」


そいつは高笑いをするとまたしても私に襲ってきた。


(なんなんだ、こいつ、狂っているのか!?まともじゃない…)


私は、散弾銃の銃口を持ち、バットのようにしてフルスイングして、相手の顔面を殴りつけると、男は、宙に浮き、地面に叩きつけられて気絶してしまった。


近くにあった縄と椅子にこの男を縛り上げた。


「まったく…何か使えそうなものはあるのらかな」


私は、そう思い、この部屋を探してみたが、中枢システム室には、ただ壊れたモニターが沢山あるのと、この男のだろうか糞尿、動物の骨があるだけで、何もなかった。


一枚の落ちている紙に目がいった。


pv-lol drug


「ドラッグ... ここは、薬物精製場所だったのか?なら、さっきのあの白い埃は全て麻薬なのか...」


どうやら、さっきの薄汚い白衣男は、重度の薬物中毒者のようだった。


「ガスマスクをしていなかったら、あいつみたいに狂人と化すかもな...」


あたりを見回すと備品倉庫と書かれている部屋を見つけた中枢システム室には、何も無かったため、隣の備品倉庫に私は入ってみた。


備品倉庫の天井が老朽化してなくなっており、太陽光が直にさらされて、この部屋だけ異様に明るく、緑化も進んでいた。


その場所は白衣が散乱しており、大量の白骨化した骨と肉が所々に散乱しており、無数の体長30㎝くらいのドブネズミたちにしゃぶられていた。


そして、一際目立つように椅子に縛りつけられて、顔と頭の皮を剥がされてしまい、口を叫ぶようにぱっくり開けて死んでいる人間がいた。人間の皮と髪の毛がそのあたりにバラバラと散乱してある。


ここに散乱している白衣を見るところ、カニバリズム的なことが妥当なところだろう。


所々、人間の歯型らしきものがあり、食べている形跡も見れるので、おそらくあの男の仕業だろう。


近くには、この人の持ち物らしきものと思われるバックがあったため、この人も、私と同じ放浪者のようだ。そして、運悪く、あいつに襲われてしまったんだ。


放浪者の手のひらのチップがあることに気づいた。どうやら記憶媒体は録画されているみたいだった。私は、それに触って、この男の死ぬ間際の約5分前の記憶ログにアクセスして、再生してみた。


「やめてくれ‼︎やめてくれ!やめてくれ‼︎‼︎もうやめてくれ‼︎‼︎」


「ヒャーハハハハハハ‼︎」


「ギャアアアアアア――――......カッ...クッ.....フ....」


あの薬物中毒者が男を拷問している記憶映像が残っていた。どうやら、さきほど聞いた悲鳴はあいつのではなく、この男の断末魔だったようだ。


「やはりか...」


私は、男の見開いた目をそっと閉じさせた。


「...もう少し、早く来てれば助かったのか、或いは……、すみません、あなたの荷物、私が生きるためにもらっていきます。」


拷問されて亡くなった男の前に立ってそう言い、殺された男の荷物とチップをとり、あの縛った狂人を椅子ごと引きずって外に運び出し、ハゲタカがいたあの場所へと向かった。


「キミに、あげるよ、好きにするといい」


私は、そう言って、椅子に縛った狂人をその場に残した。


しばらくすると、ハゲタカが舞い降りてきて、男を啄みだした。最初に食べ始めたのはやはり目だった。狂人は苦悶の表情と叫び声をあげていた。この男の声だけが廃工場内を超えて、青々とした草原へとこだましていた。


「ままならないな...」


私は、男を放置してまた、そのまま旅にまた出かけた。生きる為に。

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新・世界より 東洲斎 零 @YAGETU1

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