2-裏-6

「はあぁ、生き返るうぅ」

 一度目と同じように山道を歩き、たどり着いた川辺で、俺と少女は温泉につかっていた。

 崖下に降りるなり、少女が地面に手をついて、俺と彼女が十分にゆったりと入れるくらいのサイズに、地面を陥没させた。そこに川から水を引いて、少女が水に手を入れると、さっきまで冷水だった水から、ぼうぼうと湯気が立ち上る。そうして温泉ができるなり、少女は、俺の目を全く気にせずに全裸になって、お湯に飛び込んだのだった。

 温泉に肩までつかりながら、気にせず入れと言ってくる少女に俺はためらいながらも恐る恐るお湯に身を投じて、少女の斜め前で一緒に温泉に入っていた。

「いやぁ、やっぱり旅の醍醐味はお風呂ですよねぇ。疲れて凝り固まった体に染み渡りますぅ」

 口元が緩み切った少女を横目で見つつ、どうにも話しかけづらくて、俺もぼーっと空を眺めながら、しばらく、二人とも放心状態でお湯に身を任せていた。

「さて、そろそろお話ししましょうか。なぜ、どうして、あなたが魔法を使えるようにならないと、私が温泉に入れないのかを」

 さっきまでの筋肉が弛緩しきった顔とは対照的に真面目な顔で俺の方に少女は顔を向けた。

「まあ正直、どこから話すのが正解なのか、難しいのですが、そもそもです。そもそも、君は、

「それは……、水とか、火とか、光線?とかを、操ったりするするのが、魔法、なんじゃないですか?」

「ざっくりと言えばそうですが、重要なのは、なぜ水を、火を、光線を、思うがままに操れるのか、もしくは、どうやって魔法を使うのか、です。というわけで、とりあえず目をつぶってみてください」

 脈絡もなく目をつぶれと言われて目をぱちくりさせていると、早く目を閉じてくださいと言いながら、お湯を掬ってこちらにぶつけて来て、思わず目を閉じてしまった。

「一度目の私が君を殺したとき、自分の魂がこの世界よりも高次元に存在していることに君は気づきましたよね?目を閉じながら注意深く自分の精神を探ってみてください。どうですか感じませんか?死んだときに感じたこの世界の外側にある自分の魂に」

 少女に言われるがままに精神を研ぎ澄ますと、どこがとは言えないが、ここではないところに自分の一部があるという、得も言われぬ感覚があった。

「それを感じることが出来たら、あとはそれの周りに神経を伸ばしていってみてください」

 少女が魂と呼ぶものからその周りに意識を広げていくと、突然、それまで何も感じなかった、多種多様の色とりどりの情報が一気に周りに広がっていた。それは、水だったり土だったり、石や木、空気もしくは空間そのものに宿る、俺に宿っているのと同じような魂であることが、すぐに分かった。そして、そのなかでひときわ大きく、周りの魂を取り込んでいる、俺と同じように精神の宿った魂が、すぐ隣にあることを感じて目を開けた。

「よしよし、第一段階は終了だね」

 いつの間にか、すぐ隣に来ていた全裸の少女は、そう言いながら、俺の頭をなでなでしていた。

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