パーティーリーダーの不幸せな日常 〜「今さら謝ってももう遅い」って、それを言いたいのはこっちの方だ!〜

十重二十重

パーティーリーダーの不幸せな日常 〜「今さら謝ってももう遅い」って、それを言いたいのはこっちの方だ!〜

「ダスト、君にはパーティーから抜けてもらいたい」


 冒険者ギルド内の一室。私は冒険を共にして来た仲間にクビを宣告した。


 ダストは信じられない、という表情で呆然としている。


「どうしてですか?! 理由を聞かせてください!」


「どうしてって……。これまでも1on1ミーティングで繰り返し指摘したよね。鑑定スキルだけじゃ厳しいって」


 私は仲間達との個別面談を定期的に行なっていた。

 パーティーの方向性の調整と、不満の吸い上げが主な目的だ。


 一対一で行うのは、みんなの前では相談しにくいこともあるだろうからだ。

 こちらから苦言を呈す際、相手に恥をかかせたくないという配慮でもある。


 あ、もちろんパーティー揃っての打ち合わせもするぞ。両方が必要なんだ。


 相手の反応を見ながら、私は言葉を続ける。


「戦闘系スキルを伸ばしてくれと頼んでいるのに、君はそれを無視して来たじゃないか」


「いやっ……! それでも、僕はパーティーに貢献してきたつもりです!」


「だからさ、パーティーに貢献する為に、戦闘系スキルを伸ばしてくれと言ってきたんだけど、どうして分からないかな」


「僕は、裏方として様々な雑務をこなしてきました。パーティーの力になる方法は、戦闘だけじゃないでしょう?」


 ダストが教え諭すように主張してきた。したり顔で。腹立つなコイツ。前衛に立ちたくなかっただけじゃないのか?


「それ普通の人にも出来ることだよね。そういうの求めてないから。冒険者にしか出来ないスキルを伸ばそうよ。誰にでも出来る仕事なら他に人を雇うよ」


 パーティーの行動計画や作戦の立案は私が中心に行なっている。リーダーだし。


 武具の手入れ等は使う本人の領分だ。そもそも上級者ほど他人に触らせたがらない。ある意味では最も頼れる相棒だからだ。


 それ以外のアイテム管理はパーティーで相談して行っている。消耗品の類はパーティー全体で負担する為だ。費用を個人持ちにすると、負担に偏り生まれて、どうしても不満の原因になる。

 アイテムの使用をためらう事にもなりかねない。ここぞという場面で高価なポーションをケチるようでは本末転倒なのだ。


 ダンジョンに潜る際に荷物持ちを雇うケースはあるが、そういった役割の人間の分前は減る。


 彼の言う雑務は本当に雑務だ。やらなくても困らないくらいの。


「そ、それでも、パーティー内のトラブル仲裁は僕がやってきた事です。潤滑油ですよ。僕が抜けたら、コミュニケーション不全でみんなバラバラになりますって!」


「コミュニケーションてのはさ、それぞれが互いに向き合ってするものだよ。たしかにトラブルは沢山あった。でも、それを乗り越えてきたのは当事者の努力のおかげじゃないか。君一人の手柄にしないでくれ」


 空回りの方が多かったしな。


「これは言ってきませんでしたが、こっそり支援魔法をかけていました。僕が抜けたら戦力ガタ落ちです」


「それこそコミュとってよ! 出来てないじゃん!!」


 自分に何が出来るか、という事を互いに開示しなければ、作戦立案に支障をきたす。

 強要できる事ではないが、パーティーの信頼関係を構築する第一歩とも言える。


「……まあ、気付いてたけどね。みんなプロだし、自分の能力が変化したら気付くよ。これからはやめてね、もうウチには関係ないけど。いきなり動きが変わると調子狂う人もいるからさ」


 言い返せる事も無くなったのか、ダストは悔しげに俯いている。


 黙って様子を見ていると、バン! という音と共に扉が蹴り開けられた。


「ダストをクビにするってどういうことですか!」


 パーティーの紅一点、ピッチだ。高レベルの回復術師でもある。

 豊かな胸部が印象的な女性で、本人も武器と心得ているのか、やたらと胸を強調する服を着ている。


 ちなみに、パーティー内で発生する人間関係のトラブルは、彼女が原因であることが多い。

 ダストをパーティーに推薦した人物でもある。これまで我慢してきたのは、彼女の顔を立てていた側面もなくはない。


「私は反対です。リーダーだからといって横暴が過ぎるんじゃありませんか?」


 大きな胸を殊更に強調しながら、ピッチは私を見下ろした。


「わかった。不満なら君も抜けてくれ」


「え、ちょっ……。本当にそれで良いんですか? 後から謝っても遅いですよ?」


 彼女の思わせ振りな態度が不和をもたらす事も度々あった。

 野郎どもに問題があると考えて不問にしてきたが、限界がある。このパーティークラッシャーめ。


「君の回復魔術は惜しいけど、仕方ない」


 高レベルの回復術師は貴重だ。だが、まったくいない訳でもない。パーティーが分裂するよりもましである。


 それからピッチからの説得──というか脅迫──が暫く続いたが、私が取り合わないと理解すると、般若の形相で出て行った。ダストを引きずりながら。


★★★


 ダストとピッチがパーティーを抜けた数ヶ月後、酒場で冒険者仲間のグロウに声をかけられた。


 彼とは馴れ合うような関係ではないが、顔を合わせれば情報交換をしている。


 最近は遠征に出ていたらしく、会うのは久しぶりだ。


「よう、また追放者を出したらしいじゃないか」


「『また』というのは人聞きが悪いな。うちを抜けたのは他には君くらいだよ」


 何を隠そう、彼も私のパーティーから出て行った人間である。事情は大きく異なるが。方向性の違いというやつだ。


 彼は優秀な男だが、私から見ると強引すぎるところがあった。私の器量が小さかった、という見方もするべきだろうけど。


「連中、お前に殺されかけたって吹いて回ってるぜ」


 初耳である。パーティーメンバーが定まらず、人の出入りが激しいとは聞いていた。近頃は二人の仲が険悪だとも。


「……辞めてからも手間をかけてくれるなあ」


 話が広まっているようなら冒険者ギルドに仲介を頼むか。虚偽看破の魔法で白黒つけてもらおう。


 嘆息し、改めてグロウを見る。


「君のところは順調そうだな。活躍は聞いているよ」


「まあ、俺も人を使う側になって色々と気付かされたからな。テメーのところを抜けたのは後悔してねえけどよ」


「今の君になら戻って来て欲しいね。なんならリーダー役を譲ろうか」


「ハッ! 今さらだろ。……それに、面倒を見なきゃいけない奴らができたしな。こっちを抜ける訳にもいかねえ」


 私は眩しいものを見る気持ちで目を細めた。


 代わりのきかない人間なんていない。私の役割だってそうだ。

 今は存在しなくとも、人は変化するものだから。それこそが私たち人間の強さだから。


 空いた席は、必ず誰かが埋めるのだ。

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