ノー先輩、ノーライフ

 ここは私立平手ひらて女子高校。あおい先輩の通う高校の隣に位置する、名前の通り女子校である。

 基本的にここの生徒はやれ恋愛だ、やれファッションだ、やれ彼氏だ、といった話題ばかり。そんなみんなが眩しく輝いていて、私にはついて行けなかった。


 私は基本、話の合う相手としか仲良く出来ないらしい。

 かと言って私の興味は恋愛だとかファッションじゃない。サッカーとかアニメとか漫画とかラノベとか──あの子たちとは縁遠い話題ばかり。

 昨日先輩と見た映画も、先輩以外に共有できる相手がいない。


 そうやって誰にも近づけないでいて三ヶ月の時が過ぎ──私はひとりぼっちになってしまった。

 だから私はいつも一人。だからいつものように、私は学校の屋上でお弁当を食べた。


 大空見上げ、先輩に会いたいという想いに浸りながら。ゆっくりと、ゆっくりと──。



 〇



 午後7時、待ち遠しかった時間がようやく訪れた。

 公園のベンチに座りながら、今日も先輩の華麗なるボールさばきを独り占めしていた。


「そういや萌絵って、部活入ってなかったよな?」

「そうですけど。それが何か?」

「いや、こんな時間まで何して時間潰してるのかなって」

「ひっ、一人で勉強してるんですよ!図書館で!!」


 まぁ、本当は勉強なんてしてないですけどね。私、勉強は嫌いなんで──。


「嘘つけ。週四日で三時間も勉強してるやつが、一年の段階で赤点を三つも取らんだろ」


 でもやっぱり、先輩にはあっさり見破られてしまった。

 確かに勉強してないから、英語表現と数学ⅠとAで赤点を取ってしまったのは事実。だけど一つ、物申したい。


「そんな事言わないでくださいよ!数学なんて、先輩に教えてもらわなきゃ何時間勉強しても赤点回避なんて無理ですもん!!」

「開き直るなよ」

「あっ、ちなみに今回のテスト、赤点回避しましたよ!!」


 いぇーい!とVサインを作ると、先輩は「そっか」と言ってリフティングを始めた。

 表情は俯いているけど、おそらく先輩は喜んでくれてる。たぶん。


「それで萌絵、改めて聞くけど……」


 ボールにずっと目を向けながら、先輩は問う。


「放課後、何してるんだ?」

「えっと……、図書室で一人、時間潰してます」

「…………」

「もっ、もちろん勉強だってやってますよ!……数学以外」

「……そっか」


 一応勉強していることを付け加えてみたのに、どうも先輩は喜んでくれない。

 むしろどこか、悲しげな声に聞こえたような。

 そんな先輩の質問はまだ続く。


「あと、普段はどうしてる?」

「普段ですか?そりゃ友達とお昼食べたり、おしゃべりしたり。楽しく過ごせてますよ??」


 何故だろう。咄嗟に嘘をついてしまった。

 先輩を心配させたくなかったからかな?それとも『私は先輩とは違う』という馬鹿みたいな見栄っ張りなのかな?

 わからない。わからないけれど。

 それでいいと思ってしまった。


「そっか。ならいいけど」

「けど?」

「……いや、なんでもない」

「いやいや、絶対何かあるやつでしょ!?」


 ウザイやつめ、と言わんばかりの表情を向けてきたが、そんなのは効かない!


「ははーん?さては先輩、私がボッチである可能性を探ってたんですか?」


 ここは敢えてウザい挑発をして、先輩の真意を確かめて……。


「まさか私もボッチだったら、昼休みに電話でもかけてやろうなんて思ってたんですか??」


 って、何を言ってるの私!?

 これじゃあ私が願わくば先輩と繋がりたいとか、退屈なボッチ生活でぽっかり空いた心の穴を埋めて欲しいとか思ってるみたいじゃん!!

 先輩、お願い!今のはウザイ後輩の挑発だと思ってスルーして──。


「……あぁ」


 ……へっ?今先輩、イエスって答えた??


「…………」


 そしてリフティングをやめて黙り込むと、先輩はどこか恥ずかしげな感じで口を開いた。


「……今から言うこと、笑わず聞いてくれるか?」

「えっ?あぁ、はい」

「……今日初めて学校生活が退屈だって、お前のいない時間が退屈だって思ったんだ」


 これはいつもクールな一匹狼の弱い一面。そして私が抱いているのと同じ、先輩の本音だった。


「……だから」


 そして先輩は、恥ずかしそうにもしながらも言葉を続ける。


「……その、たまにでいいんだ。たまにでいいから、ひっ、昼休みに電話かけたり、メッセージのやり取りとかできたらいいなと思って……」

「……ぷっ!あっはははははは!!!」


 先輩が笑うなって言ったのに、つい吹き出してしまった。


「わ、笑うなって言っただろ!!」

「だっ、だって先輩ガチガチになってて面白かったもん!!!あははははは!!!!」


 それはホント。忘れた頃にモノマネでもして揶揄からかいたいくらい。


「……でも、嬉しいです。先輩がそういうこと、素直に言ってくれて」


 そして嬉しい気持ちもホント。先輩が無理に強がらずにいてくれるし、何より学校で会えない時間でも先輩と繋がれる時間が増えたから。


 ……あぁ。やっぱり私、先輩がいなくちゃ生きていけないかも。


「ということで先輩、明日から毎日お願いしますね!!」

「毎日って。キミ、たまには友達とも過ごせよ」

「私としては先輩との時間の方が大事だからいいんですよー」

「いや、ダメだ。だから30分だけでいい」

「え〜、ホントは30分じゃ足りないくせに〜」


 だけど事実もその本音も、私は隠したまま。先輩と違って、強がってばかり。


 その強がりを、いつまで続けるのだろうか──。

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『彼女いない率99%』の男子校でボッチの僕ですが、最高に気の合う可愛い彼女ができました 緒方 桃 @suou_chemical

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