第6話 動機 成人

 いじめも人間関係が一新し、人との正しい距離感を覚えられる高校生にもなると、自然となくなった。

 だからといって青春を謳歌できるかと言えば、そうではない。

 いじめによって歪みに歪んだ精神は、友人関係を形成するには邪魔でしかなかった。

 それでもなんとか自分を偽って、友達を作り、恋人を作ってみたりもした。

 けれど僕は、その友達も恋人も、それを好きになろうとする自分の心さえも、全く信じられなかった。

 疑心暗鬼な自分には、結局薄っぺらい肩書きだけの交遊しかできなかった。

 そのせいなのか、義務教育を終えるまでに、楽しいと思えるようなことを見つけられずにいた。

 周囲の人は、あれが楽しい、これがしたいと笑顔で語らっていたが、僕はなにをしても心の高揚を感じられなかった。

 楽しさの本質もわからないまま、未来へのステップを進めと言われても困る。

 大人はそういうことを、なにも教えてくれなかった。だから大人を信用しなくなった。

 その括りには、当然両親も含まれている。父も母もそれぞれに楽しいことを持っていたけれど、それは僕にとっての楽しいことではなかったし、二人とも、自分たちの楽しいことを僕が共感してくれると、勘違いしていた。

 僕は家の中でも自分を偽るようになった。

 親兄妹の機嫌を伺いながら、問題が起こらないよう、自分の立ち位置を変えた。

 父や母は、家族に無関心な兄を放置するようになり、自分のやりたいことにだけ邁進する妹には手がつけられなくなっていた。

 だから僕は両親の言うことを一番に聞いてやったし、家のことは率先してやった。いつも親の手の届く場所を意識した。

 それが家に居場所を許してもらう手段だったから。

 それが余計、自分のやりたいことを見えなくしていった。 

 大学に行けるような学力のなかった僕は、自分にできることはなにかと考えたとき、文字の読み書きはできると思い、ライターの専門学校へ進路を決めたものの、そこでも将来の夢は定まらない。

 学校のツテでゲーム会社に入社したものの、長くは続かず、すぐにフリーターになった。

 幸いと言っていいのか、母方の祖父が暮らしていた家が、誰も管理できないからと、僕が暮らしていいことになった為、家賃のいらない独り暮らしをしていた。だからフリーターでも生きていられた。

 いろいろなバイトを転々としながら、いつ死のうかということばかりが頭の中にあった。

 血の繋がりはあれど、深く関わることを避けていた家族に頼ることもせず、僕の生活はだんだんと荒んでいった。

 アルバイトの給与では贅沢なんてできず、食事の回数も減っていった。

 体重は減り、肌は荒れ、髪はギシギシになっていく。不健康なその体では、労働もうまくいかない。働けなければまた給与は減る。悪循環を繰り返した。


 なぜ僕は生まれてしまったのだろうか。


 そんな疑問を浮かべた時、自殺願望は恨みへと変貌した。

 僕が生まれたのは父と母のせいだ。普通に成長できなかったのは兄妹のせいだ。僕が生きる希望を持てなかったのは家族のせいだ。

 僕は僕を変えたかった。それには行動が必要だった。それも、人間1人の人生をひっくり返すだけの行動だ。

 僕には『殺人』という選択肢しか、思い浮かばなかった。

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家族(殺害)計画 鳳つなし @chestnut1010

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