エピローグ
「おじいちゃん元気だったね」
千草とカスミは民宿の二階の窓から海を眺めている。
「お姉ちゃん、いつこっちに来るの」
「もう少し先かな。いろいろ整理することがあるし」
「そうなんだ」
「どうしたの」千草がカスミの顔を見る。
「捨てられる」
「ユキっていう名前は向こうに置いてくるよ」
「置いてくるだけ」
「あたしもヒロ君も、また拾いに行っちゃったんだよ」
「それでいいのよ」
「カオルさんもタカシ君も捨てられたと思っているみたいだけど」
「そうじゃないよ」
「そうだとしても、きっとお姉ちゃんがこっちに連れて来る」
海沿いの道路を一台の車が通り過ぎる。千草にははっきり見えた。ここからは道路は見えないのに。
「子どもたちはもう吾郎さんのことは言わないの」
「特にはね」
「でも、もう前のあいつらじゃないよ」
「エミさんは」
「前と同じかな」
「多分変わったのは吾郎さんのほうじゃないかな」
ヒロとカスミはここで再会したときにトウモロコシを食べた堤防の上にすわっている。
「お姉さんは帰ったの」
「連休も終わりだから」
「でもまた戻ってくる。千草になって」
「ユキさんは消えちゃうの」
「置いてくるだけだって」
二人は黙って水平線を見ていた。海から吹いてくる風が心地よい。しばらくして二人の後ろから走ってくる足音が聞こえた。
「ヒロ兄ちゃん、カスミお姉ちゃん、パパが来たの」
サキの明るい声がひびく。
「前に来たお兄ちゃんとお姉ちゃんもいっしょ」
「これからバーベキューやるんだ」
ケンタがうれしそうに言う。ヒロとカスミは子どもたちの後を追った。
「ユキさん帰っちゃたのか」タカシが残念そうにヒロに言う。
カスミとヒロはおたがいの顔を見た。
「なんかおかしいか」
「ユキさんはいろいろやることがあるの」カオルがタカシに言う。
コンビニの入口ではエミと吾郎が笑顔で子どもたちを見ていた。
街色の海と海色の街Ⅱ 阿紋 @amon-1968
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