惑星の観察

大橋 知誉

惑星の観察

 この度発見された R-1235 の生命体について報告します。


 1つの恒星と複数の惑星によって構成された、ありふれた惑星系です。その中で、生命が確認された天体は惑星、衛星含め、計4つあります。


 この惑星系の生命はいずれも同様の仕様でできているので、おそらく同一の祖先から進化したものと思われます。その仕組みは大変ユニークでほかに類を見ないものです。我々にとってもこれは今までの常識を覆す大発見であります。


 何といっても彼らの最大の特徴は、その体を構成する基本の部分が、生きているプログラミング言語でできていることです。


 彼らの身体は小さなブロックの集合体になっていて、それらブロックの一つ一つの中には、その身体を作るための設計図の役割を果たすプログラミング言語が収まっています。


 このように書くと、プログラミング言語に似た何かの比喩のように聞こえるかもしれませんが、これは文字通り“プログラミング言語”なのです。


 彼らの持つプログラミング言語は単純なもので、4種類の異なる物質を組み合わせて様々な式を作り出しています。つまり、彼らは4進法でできています。


 その簡単なプログラミング言語によって多様なバリエーションが生み出され、R-1235惑星系の中で最も生命体の多い、R-1235-003においては、数百万種に及ぶ豊かな生命の楽園が築かれています。


 それだけでも驚愕の事態なのですが、さらに驚くべきことに、R-1235-003に限って、この惑星のほとんどの生命が、我々にとって猛毒のVC7を呼吸しエネルギーに替えて生命活動を行っているということです。


 VC7はもとからこの惑星にあったものではなく、惑星全体を覆うほどにはびこった緑色の生命が、大量にVC7を吐き出し、大気を汚染していることがわかりました。


 広い宇宙の中でも、VC7の中にいて平気な生命体はそういないと思われます。この事実は、我々の常識が常識ではないことを改めて考えるよいきっかけとなりました。


※というわけで、この惑星の生命は、我々にとっては猛毒です。決して触れたり食したりしないようにご注意ください。


 この惑星系の生命は、どれも変わっていますが、その中でもひと際注目すべきは、3種類の知的生命体でしょう。我々の概念から、知的生命体と判断できる生命が存在するのは、R-1235-003のみのようです。


 1つは、海の中に生息する、比較的大型の生命体です。彼らは幅広い音域の振動を使って情報伝達をし、そして、どうやら脳波を共有することで、精神的なつながりを持っているようです。


 我々の技術をもってしても、すべてを拾いきることはできなかったのですが、過去現在未来、すべての時空に存在するすべての個体どおして精神を共有しており、体は別々にありながら、時間と空間を超えた大きな一つの生命体もの呼べるものであります。


 これは、我々が今までにこの宇宙で発見したすべての生命体の中でも最も巨大な精神を持つ生命体と言ってよいでしょう。


 我々作った5段階の文明指数では計り知れない規格外の活動を行っているため、今後さらなる研究が必要と思われます。


 もうひとつの知的生命体は、反対にとても小さなものです。こちらの生命もとてもユニークです。


 この惑星では一部の生命体が採用している外側に骨格のあるタイプの生き物で、一つの家族が一つの社会を作って暮らしています。個体の職業は生まれながらにして決まっており、それに合わせて体の形状も大きく異なります。


 完全にシステム化された社会を形成しており、一つの社会が一つの生命体と言ってもよいでしょう。彼らはどうやら香りを使って会話をしているようですが、個々の意識は全体に吸収されて、必要最小限の簡単なやり取りのみが行われているようです。


 畜産農業が行われていて、文明としては、初期段階、我々作った5段階の文明指数では「1」と判断できます。


 ただし、この共同体のような生命は、最初に紹介した未知の精神を持つ生き物と同様の雰囲気を持っているので、さらなる研究が強く望まれます。


 最後のひとつが、この惑星で最も注目すべき知的生命体です。この惑星に接近した際、最初に目につくのは、この生命体が建造したものでしょう。


 幾何学的な形状をした巨大な建造物は、パッと見て自然にできたものではないとわかり、この惑星に知的生命体が存在することを知らしめています。


 また、彼らは好奇心が旺盛で、惑星中のいたるところに足を踏み入れています。まるで、隅から隅まで観察したいといった勢いです。その成果あって、この生き物は進んだ移動手段や通信手段を持っています。


 音声や図形を使って互いの意思を伝えあい、また、さまざまな道具を用いて記録を残すこともできるようです。


 この能力を活かして、この惑星上のすべての生き物、すべての鉱物、すべての現象に名前をつけ、それを全体の共有財産として長年にわたり蓄積しています。


 自分たちがプログラミング言語でできていることも、彼らは既に発見していますが、それ以外の例を見たことがないので、これが生命の基本と考えており、特に疑問は持っていない様子です。むしろ、この宇宙の全ての生命が同様にできていると考えている様子です。


 ここ最近では、惑星上だけでは飽き足らず、他の惑星や天体系へと道具を飛ばして調査を行っているようです。


 とにかくこの生命は何でも知りたいようで、それが文明を発展される原動力となっているようです。


 ただ、不思議なことに、暮らしている地域が離れてしまうと、意思の疎通が難しくなるようで、いざこざも絶えないようです。


 現状のところ、「通貨」の概念に囚われており、そこからなかなか抜け出せない様子です。


 もちろん畜産農業は盛んに行われています。我々の文明指数では「3」と言ったところでしょうか。


 ひとつ重要なことを書き忘れていました。この知的生命体の最もユニークな点です。


 それは、とにかく、いつでもどこでも「歌う」ということです。エネルギーの元になるものを口から接種したり、それをエネルギーに変えるために、大気を呼吸したりするのと同じように、この生命には「歌」が必要なようです。


 もちろん、我々も少しは歌いますし、この惑星の他の生き物も、歌に似た活動は行っていますが、それらと、彼らの「歌」の意味合いは少し異なっているようです。


 この生命は、実に、歌うために産まれて来たではないかと思えるほど歌います。一個体だけでも歌いますし、何万個体が集まって一つの歌をうたうときもあります。


 この惑星から、彼らの歌が聞こえない瞬間はありません。


 私がこの惑星系の調査を志願したきかっけは、まさにこの歌でした。この歌のことをもっと知りたいと思い、調査を続けてきました。しかし、未だになぜ彼らがこんなに歌うのか、理由を見出すことはできていません。


 このように、R-1235惑星系には、ユニークな生命が溢れています。


 忘れてならないのは、冒頭で述べたように、この惑星系の生命は、プログラミング言語でできている点です。これは、明らかに、この惑星系の生命体の一軍が、誰かの手によって作られたということを示しています。


 こんなものを作り出せる文明がこの宇宙にあるということでしょうか?そうだとすると、なぜ我々は未だにその超高度な文明と出会っていないのでしょうか??


 今回の R-1235 の発見により、この世界の成り立ちを一から考え直さないといけないことになってしまったと、感じざるを得ません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

惑星の観察 大橋 知誉 @chiyo_bb

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ