第2話

 「事件です。国立市の住宅街で殺人事件が起こりました。被害者は藤咲あかりさん、21歳。都内の大学に通う女性が昨晩、自宅で遺体として発見されました」

 黒いスーツにメガネを掛けた男性が、マイクを持ってカメラに向かって報じている。


 「はい、すみませんね。通りますよ」

 スーツを着た二人組の男が報道陣の間を通っていく。少しばかり歳のいった男と、いかにも新人らしい若い男は立ち入り禁止のテープの前にいる警官に向かって、胸ポケットから取り出した手帳を見せる。警官は二人に敬礼をして、テープを上げた。二人はテープを潜り、玄関に向かう。


 閑静な住宅街にある二階建ての戸建て。そこが今回の事件現場であった。中に入ると靴箱の上には子供の写真が飾られていた。鑑識の人がそれらの指紋を採取している。

 「この家に住む娘さんが今回の被害者らしいです」

 後ろにいるスーツの男が言った。

 写真に目を向けながら、その話を聞き流していた。廊下を進むとリビングになっていた。リビングの手前にある階段を登り、ドアが空いたままの部屋を訪れる。何人もの人がその部屋を行き来していた。

 白とピンクで統一された、如何にも女の子らしい部屋には似つかない、青いブルーシートがベットの上に掛けられていた。シートの前でしゃがみ込み、手を合わせる。シートをめくれば、先程玄関で見たのと同じ写真の女が目を閉じていた。

 「かわいいのに勿体ないですね。しかもクリスマスの日に殺されるなんて。世の女子大生は彼氏とデートなんかして、高い化粧品とか貰っているのに。可哀想だ」

 若い方の男がそう話す。

 「おい、五十嵐。滅多なことは言うもんじゃない。そんなことよりも、部屋の状況とか聞き込み調査とかやることあるだろう」

 少しばかり強い口調で言った。

 「もう、相澤さん。そんな怒んないでくださいよ。ちゃんとやりますから」

 五十嵐と呼ばれた男は慌てて立ち上がる。そして、そのまま部屋を出ていった。

 「ったく、あいつは。いつまでたっても学生気分で埒が開かない。これだからキャリアの面倒見るのは嫌なんだよ」

 相澤はぶつぶつと独り言を呟きながら、重い腰を上げた。

 部屋を見渡してみるが、如何にも女子大生らしい部屋で、どこにも変わった様子はない。部屋自体は普通の様子であった。ベットの横にある机の上は綺麗に整頓されている。普段からしっかりと片付けをする人だったのだろう。

 しかし、部屋を入ってすぐにあるクローゼットの前には洋服が散乱していた。ここで犯人と揉み合いになったのだろうか。そのままベットの上で殺された、といったところだろう。そんな予測を立てながら、相澤は部屋を後にした。

 「相澤さーん。第一発見者の方がいますけど、何か話しますか」

 五十嵐が階段の踊り場から顔を覗かせる。相澤はそのまま彼の元へと向かった。

 「第一発見者は被害者の実の兄だそうです。昨日はずっと出掛けていて、夜遅くに家に戻ってきたところ、被害者を発見したと言っています」

 五十嵐に連れられリビングに入ると、ソファで蹲っている青年が目に入る。

 「刑事さん。あかりは、あかりは一体誰に殺されたんですか。早く犯人を捕まえてください」

 青年は涙ながらに叫び、相澤のパンツを掴む。今にも壊れてしまいそうなほど、相澤のパンツに必死にしがみつく。

 「落ち着いてください。我々もいち早く犯人を捕まえますので、どうか協力してください」

 青年の肩に両手を置き、視線を合わせる。青年は顔を上げ、相澤の目をしっかりと見つめた。先程ビニールシートの下で見た顔と雰囲気の似た顔が目の前に現れた。

 「当時のこと、教えてもらえますか」

 相澤の質問に対し青年はぽつり、ぽつりと話し出した。


 「昨日はちょうどサークルの打ち上げだったんです。それで僕はそこに参加していて、終電を逃したので明け方、タクシーで家に帰りました。そして家に入ると電気は消えてて、今日は両親がいないからあかりと二人だなって思いながら階段を上がりました。あかりも今日は出掛けるって言っていたし、もう寝てるのかなって、部屋を覗いたら、そ、そしたらあかりがベットにいて....」

 青年は嗚咽を漏らした。 

 「僕が、僕がもっと早く帰っていれば、あかりはこんな目に遭わなくてすんだのに。僕が悪いんだ」

 なんとか声を絞り出したが、青年の口からはそれ以上が語られることはなかった。

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