泣きたい僕は空を睨んだ

小鞠

第1話

 クリスマスの夜、あかりが死んだ。


 家の二階にある自分の部屋で。

 腹部には果物ナイフが刺さり、真っ赤に染まる。薄い桃色のベットカバーも、お気に入りのクマのぬいぐるみも赤く染まっていた。


 あかりをこんなふうにしたやつらを、絶対に許さない。あいつらの人生をめちゃくちゃにしてやる。



 塾の帰り道、梨花はスマホを片手に歩いていた。耳にはBluetoothの完全ワイヤレスイヤホンを付けて、お気に入りの韓国アイドルの新曲を聴いていた。

 12月の夜は寒い。マフラーにうずくまりながらスマホを操作する。

 「これから帰るね」

 ママと表示されたトーク画面に送られた文字。

 「寒いから風邪引かないように気をつけてね。スカートも折らないで伸ばしなさい。今日はクリスマスだからごちそうが待っているわよ」

 「りょーかい」

 クマが両手で大きくマルを作ったスタンプが押された。

 梨花はスカートを伸ばすことなく、スマホをブレザーポッケにしまった。


 高校生2年生の梨花は受験に向けて塾に通っている。周りが通っているから、そんな理由だけでクリスマスの日も塾で勉強をしていた。


 カンカンカン。赤いライトが点滅すると、踏切が少しずつ降りてきた。黒いカーデガンに黒いスキニーを履いた人が正面から駆けてくる。踏切が閉まり切る前に渡り終え、梨花とすれ違った。梨花よりも背の高いその人を見上げた。170センチくらいあるのだろうか。梨花は一瞬、視線が交わった気がした。ブラックライトの影になって、顔は識別できなかった。ただその佇まいが、梨花の好きな男性アイドルのようで、思わず目が離せなかった。

 電車の通過する音で我に帰る。気づけばその姿はもうなかった。踏切が上がり、歩みを進める。

 住宅街の中にある小さな踏切。朝の通勤、通学ラッシュには多くの人で賑わうこの場所も、クリスマスの夜にはほとんど人影が見れなかった。


 帰宅した梨花は暖かい家で家族と食卓を囲んだ。クリスマスだからとみんな先に食べずに、梨花を待っていた。父と母、そして中学生の妹、どこにでもいる普通の家族。食卓にはチキンやスープ、ケーキが所狭しと置かれ、いつものようにクリスマスのごちそうを食べた。当たり前のように。


 その日の真夜中、いや明け方の4時頃、赤いライトを点滅させた車が住宅街を駆け抜けた。

 深い眠りに入っている梨花はそんなことに気付くことなく、眠り続けた。

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