呪われた勇者

りこ

第1話 プロローグ

「......」

「魔王...。貴様、最後に言い残したいことはあるか...?」

 

 魔王は不敵に笑い、勇者を睨み付ける


「言い残すことはない...。我の負けだ。」


 戦いの末、立ち上がる力もなく荒野に仰向けに倒れている魔王。すぐ側では、数多の傷でボロボロになった鎧を纏う"無傷"の勇者が魔王に剣を向けている。


「貴様は強すぎだ...。たかが人間一人。我の力を持ってしても傷ひとつ付けられんとは...もはや勝てる道理などあるわけがない。」

「...我も疲れた...トドメを刺せ...。」


 勇者は剣を振り下ろす。


 ーーー


 勇者は誰に聞いてもらうわけでもなく、どこか遠くを見てつぶやく...


「誰か、俺を殺してくれ...」


 ーーー


 魔王を倒した勇者は荒野を歩き続ける。魔族の手から救った命の数を数えるために。


 どこに行っても人の気配はない。


 勇者は知っていたのだ。この世界が既に滅んでいることに。救う命さえ残っていないことに。

 勇者は歩き続ける。魔族が蔓延るこの世界を。


 自分を殺してくれる者を探しに。


 勇者という"呪い"を絶ってくれる者を。

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呪われた勇者 りこ @Lycorit

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