第2話 駄菓子屋

 一時間ぐらいで山から降りた僕たちは駄菓子屋に寄った。駄菓子屋なんて絶滅危惧種に近い存在だったが、ここの店はずっと続いている。ここが田舎っていうのもあるが、コンビニやスーパー、ネットでもお菓子を買えるご時世に生きていけるのはここにいるおばあちゃんがいい人だからだろう。ふと駄菓子屋のおばあちゃんと話したくなる時がある。そう思ったら駄菓子屋に来ている。これがおばあちゃん独特の包容間のおかげなのかもしれない。

 「おはよーございまーす!!」

 玄関前で打ち水をしていたおばあちゃんにエリカは元気よく挨拶をする。

 「あらエリカちゃんねぇ。毎日ありがとうね〜」

 「いいってことよー」

 エリカはドヤ顔で胸を張る。

 「マコトくんもいらっしゃい」

 「おはようございます」

 エリカの二分の一以上に小さな声で挨拶する。疲れたのに大きな声で挨拶する気にはならなかった。ヘトヘトになった僕とは対照的にエリカは元気だ。

 エリカは駄菓子屋に入りお菓子を選ぶ。メジャーなお菓子もあれば、知らないお菓子もある。毎日来ているエリカだが、いつもどれを買おうか迷っていた。それに対して僕はアイス一本取ってレジに行った。

 五十二円を払って僕はエリカを置いて外にあるベンチに座る。

 そうか。

 ここでエリカと会ったのか。アイスを食べながらエリカと会った時を思い出す。



 夏休みが始まって数日経ったぐらいに僕はアイスを買いに駄菓子屋に来ていた。いつものソーダ味のアイスを買い外にあるベンチに向かう。ベンチに座る時熱くて飛び上がりそうになったが、周りに少し人がいたので我慢してアイスを食べ始める。この日はいつも通りの炎天下。何も考えずにアイスを食べていた。

 「ねぇねぇ」

 駄菓子屋の玄関から声が聞こえた。多分だが僕に向かって言っているのだろう。

 「なに?」

 左を見て僕に話しかけてきた女性に返事をする。

 「右見てみ?水着姿の美人さんいるよ?」

 ある人が言っていた。『男には脳が二つある一つは頭に。もう一つは股間だ』この言葉に僕は今日初めて納得することになった。

 汗が飛び散るぐらいのスピードで右を向く。そこには誰もいなかった。あれ?

 「いただき🎵」

 横目でしか見えなかったが僕のアイスに話しかけてきた女性がかぶりついていた。そして残してあったアイスを一口で全て食べてしまっていた。

 「いやおい!」

 僕は盗人に目を向ける。盗人はわざと口を大きくもぐもぐして飲み込んだ。そして口を大きく開けて全て食べたと顔で言った。

 「ごめんねぴーや♡」 

 「いや弁償しろよ。そうしたら僕は何も言わない」

 「こんな可愛い子と間接キスができたんだから安いもんでしょ。ね?」

 同意を求めてくる盗人の顔を見る。お前みたいな盗人が可愛いわけねぇー、、、

 意外と可愛かった。てかすごく可愛かった。

 肩まで伸びた髪に整った顔立ち。身長は僕の少し低いくらいか。だが整った顔立ちで可愛いと思ったのでは無い。まるで今咲いた花のような生き生きした顔だった。人間ってこんな顔ができるんだと思ってしまうぐらいに顔立ちよりも表情に目線がいった。

 僕は照れた。だが僕は今からデレデレするような性格では無い。

 「いや、弁償して」

 僕は自分の意見を貫いた。

 「頑固だねー君」

 目を細めて僕を睨んできた。

 「わかった!アイスの代わりに私が遊んであげるよ」

 「え?」

 「ほら行くよ!!」

 なんだこのコミニケーション能力の高さ。

 びっくりした僕は間抜けな顔でベンチで固まっていた。そんな動かない僕の襟を掴み僕を引きずりながら公園に連れて行かれた。ブランコやキャッチボール、雑談とか色々な事をした。だが時間は全く足りなく明日も会う事になった。

 夕方蝉の鳴き声は小さくなり次はカラスが鳴き始めた。夕日は街に飲み込まれるように消えていった。公園を出て出会った駄菓子屋へ向かう。僕たちは駄菓子屋に向かう間あまり会話はしなかった。だからといって気まずい空気になったわけでもなく、話す会話がなくなったわけではない。少し夕方の世界を噛み締めたかったのかもしれない。そして駄菓子屋で僕たちは別れた。名前も年齢、通ってる学校なども全然聞いていなかった。だが、ここでまた集合する事になり僕は少し一日の楽しみが増えた。気がする。

 

 

 

 

 

 

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君に会えない僕は夏休み君と出会う 名無しのポチ @taku62560

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