3. いざ! 観光地へ!


 海に引き続き家族旅行……といいたいところだが、デューク兄さん夫妻は今回はパスした。温泉は興味があったみたいだが、グランドベインはちょっと遠いため仕事に間に合わないだろうということで止めたのだ。


 「わらわに乗って帰ればすぐじゃぞ?」


 能天気ドラゴン娘が首を傾げて言うが、グランドベインでドラゴンに乗るところを見られたらまと話が大きくなる。それは避けたい。そのため俺達は馬車で移動しているわけだが……。


 「この馬車すごいのう! あまりガタガタしないのじゃ!」

 

 「フフフ、この馬車にはクリス兄さんの技術が盛り込まれていますからね!」


 「よく思いつくよねクリス兄さん。僕も大きくなったら何か生み出す仕事をしたいかも」


 サーニャの領から家へ帰るときに馬車を利用したのだが、その時のクロミアがあまりにもお尻が痛いと言うもんだから、そういえばスプリングってどうやるんだっけ? と、ドミンゴと一緒にうんうん唸ってできたのが、このサスペンションだ。タイヤとセットで使うのがいいのだろうが、あいにくゴムが無い。


 それでも乗り心地は改善したようで、クロミアが馬車嫌いから、自分で歩かなくてもいい楽な乗り物へと認識を改めた。


 「そうねえ、もうクリスはお金を持っているし……そろそろ結婚を考える時期じゃない?」


 母さんがにこやかにそう言うと、アモルとクロミアの間に緊張が走る。アイコンタクトが凄い。それはともかく、結婚できる歳とは言え、まだ16だしそれに何より俺は火山で絶命する(予定)なのだ。


 「母さん、俺はまだ16だよ? もう少し遊ばせてくれないと、まだまだ遊び足りないよ」


 「フフフ、そうだな。デュークも18で結婚したのだ、まだ大丈夫だろう。私も若い頃はよく遊んだものだ」


 「それは女遊びじゃないでしょうね……?」


 「ち、違うぞ!?」


 矛先が父さんに変わったことに安堵し、俺は馬車の外を見る。ちなみに御者はメイドのフィアが勤めていて、馬もウチの牧場で飼っている、比較的大人しい二頭を連れて来た。


 「フィア、疲れたら交代するから遠慮なく言ってくれよ」


 「ええ、ありがとうございます(きゃー! さりげなく横に座ってくるなんて! これは脈ありなのかしら? ねえ、そう思わない?)」


 「(相変わらず無口だな、嫌われてはいないと思うが……)」




 そんなこんなで途中村や町を挟みつつ、グランドベインに到着したのはじつに出発から四日後の事であった。帰りは別ルートで帰る予定なので色々見て回れるのが何気に新鮮で楽しい。町が見えてきた頃、アモルが御者台に来て大声を上げた。


 「お兄様! 煙! 煙が上がってますわ!? 火事では!?」


 「ああ、あれは温泉の湯煙だな。こういう地域はどこかしから上がっているもんなんだ」


 「へえ……クリス兄さん詳しいね、来た事あるみたいな……」


 「……とガイドブックに書いてあった」


 危ない……前世で見たとか言えないからな。何とかごまかせただろうか? 俺が額の汗をぬぐっていると、今度はクロミアに袖を引っ張られる。


 「クリスーあれはなんじゃ? 白くてほかほかしておる」


 「あれは……温泉まんじゅうか?  すいません、人数分ください……ほら、熱いから気をつけろ……ほう、餡子じゃなくてクリームか……」


 「毎度! 貴族の方に買って頂けるとは光栄です! 出来たてだから美味いよ!」


 一人一個ずつ渡すと、即座にクロミアがかぶりついた。


 「あふはふ……これは甘くて美味しいのじゃ!! あんこ、とは何じゃ?」


 「気にするな」


 カスタードクリームに似た饅頭を平らげ、店主にお勧めの宿を聞く。地球だとネットとかで予約してポンだが、俺はこういう地域の生の声は大事だと思っている。


 「あー貴族様がお泊りになられる宿だと、リッチマンホテルですかねぇ。500mくらい先で道が四つに分かれているんだけど、そこを左にな。右にも宿はあるんだが……いや、なんでもねぇ」


 へへ、と愛想笑いをしながら店の奥へと引っ込んでいく店主。俺は気になりながらも再度馬車を走らせた。


 「あちこちから湯煙? 出てるわね。 見てアモル! 美人の湯ですって」


 「面白いですわね。薬湯、という健康をイメージしたお風呂もあるみたいですわ」


 「強くなるお風呂は無いのかなー」


 そりゃ流石に無理だ、ウェイクよ……。


 「ぶどう酒風呂……面白そうだな……クリス、これ後で入ろう」


 「そりゃ構わないけど……」


 酒風呂か、それならアモルもクロミアも着いて来れない言い訳ができるな。たまにはゆっくり入りたいし、父さんの案に乗ろう。


 わいわいしながら馬車をゆっくり走らせ、俺達は宿を目指した。



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 <あの世>



 <到着しましたか>


 <みたいね。で、あたしはあの子に何ていえばいいの?>


 <あなたの担当している娘、確か苦しい生活をしているんでしたよね>


 <そうね、ライバルが出来てから売り上げは下がってるし客足も遠いわ。さらに、風評被害もライバルから出されているみたいなのよ。このままだと、一家揃って首を吊るかもってとこまで来てるわ>


 オルコスの疑問に、ハイジアがため息混じりに答える。自殺されれば減給はおろか、しばらく担当が持てなくなるので実入りが乏しくなる事は必然。その為に、啓示として稀に助言をするのだが、ハイジアの力むなしくそろそろマズイところまで来ているらしい。


 <こう言って下さい『今から通る貴族の馬車は宿を探しているから、招き入れるように』と。できれば、色仕掛けでクリスさんを……>


 <それが出来る子ならホテルのバカ息子に言い寄られた時点で受け入れるでしょうが……まあ、お客として引き入れるのはいい案ね>


 カチッ


 自分の担当の娘へと啓示を送るハイジア。それを見ていたオルコスはいやらしくほくそ笑んでいた。


 <(いつの間にやらサスペンションを開発していたとは驚きでしたねぇ……やはり彼を手放すのは惜しい。是非ここは、死ねなくなる状況を作るしかありませんね……)>



 自身の利益のために、人生すらも操ろうとするオルコス。彼のエスカレートは果たしてどこまで続くのか……?



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 温泉の町、ユフーへ到着した一行。


 宿を目指すクリスの前に、オルコスの陰謀が立ちはだかる。


 そして、ハイジアの担当する娘とは?



 次回『この動き、どこかで……?』


 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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