9. オーク村の襲撃

 さて、今日の”死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~は、ここ、グレイス山の頂上から始まる。


 何だかんだと朝から夜まで俺とサーニャは夜まで山頂で過ごした。サーニャは目的を果たしたので、下山したそうだったが、俺は俺の目的を果たす為に残った。


 必然的にサーニャも残り……夜、クロミアをテントから遠いところに呼び出した。


 「話とはなんじゃ? ……ま、まさか!?」


 「ああ、お前の思っている通りだ」


 「こ、子作りじゃな!? わらわを獣のように襲うんじゃろ!」


 俺はガクッと膝を崩す。


 「んなわけあるか!? 昼間の話からどうしてそうなる! あれだ、聖水の原液とやら。それを飲ませてくれ」


 「むう、あれは危ないからダメじゃと言ったろうが……死にたいのか?」


 「ああ!」


 「即答!? ちょっとわらわに話してみるのじゃ、いい案が浮かぶかもしれん……」


 ということで満足いただけるのならと、カクカクシカジカして見た結果……。


 「うう、ぐす……難儀じゃのう、難儀じゃのう……」


 泣かれた。涙もろいドラゴン様だ。

 

 「まあそういう訳で、俺を物理的か毒殺かで殺してくれる人を募集しているんだ」


 「ぐす……物理的はちょっとグロイ気がするが、そんなに丈夫なのかや? わらわの一撃を受けてみるか?」


 「お、いいのか? もしそれで死んだら、サーニャの事は頼む。何とか親父さんと、サーニャを助けてやってくれるとありがたい」


 「うむ、というかお主は優しいのう。別にそこまで気にしなくてもいいんじゃろ?」


 「身の上話で号泣したお前に言われたくはないが……まあ、成り行きってやつだ。最近オルコスのヤツは大人しいから、今は快適だけどな」


 実際ここ何日かはちょっかいを出してこない。何か企んでいるのか分からないが、もう出てこないという事はあるまい。子供の頃も1週間くらい出てこなくてホッとしていたら、突然現れたからな……。


 「それでは、一旦お主を埋めてから必殺の蹴りをお見舞いしよう」


 「分かった」


 クロミアはドラゴンに変身し、俺が入れる穴を掘った。

 だいたい胸くらいまで埋まったところで土を入れ、固定する。これで俺の体よりクロミアの攻撃が強ければ首が飛ぶに違いない! ワクワクしながらその時を待つ。……俺の思考もだいぶおかしなことになってんな……。



 『それじゃいくぞ!』


 でかい声が響き、かなりうるさい。サーニャが起きそうだが、あいつは寝起きが悪いのできっと大丈夫だろう。

 勢いよく足が上がり、蹴りの体勢にはいるクロミア。

 そして一気に加速し俺の体に向かってきたのだ!



 ガイン!


 目を瞑って待っていたが、軽い接触音だけが響き、俺はまったくダメージが無かった。

 上を見ると、クロミアがしおしおと人化して小さくなっている途中だった。


 「固ったぁ……」


 デジャヴというやつだろうか? 俺はこの光景を見たことがある気がする……。

 涙目で足の小指をおさえている。小指は痛いな……。


 「だ、大丈夫か!?」


 「う、うむ……へっちゃらじゃ!」


 強がるドラゴン様かわいい。涙目ですよ?


 「それにしてもドラゴンでもダメだったか……」


 「わらわもそれなりに強いから、これ以上の物理攻撃は存在せんぞ? これは直接攻撃で死ぬのは諦めた方がいいのう」


 立ち上がり、再びドラゴン化して俺を穴から掘り起こしてくれる。丈夫すぎる……。


 「それじゃあ最初のアレを頼む」


 「う、やっぱり飲むのか?」


 「ああ、頼む」


 「……仕方ないのう……少し待っておれ……」

 俺の強気な言葉に折れたクロミアはコップを持ってそそくさと離れる。


 ……あ! そうか!


 最初は分からなかったが、離れる意味を思い出し俺も気まずくなる。

 しばらくすると、戻ってきた。


 「こ、これじゃ……わらわが見てない所で……頼む!」


 ダッ! と走ってテントへと向かうクロミア。まあ、恥ずかしいだろうな……。お礼を何か考えておきたいが、ここで死ねばそれもできない。恥ずかし損だなクロミア……すまん!


 そして一気に飲み干すと……!






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 「おはよう」


 「お、おはよう。どうしたの?」


 俺が朝の挨拶をすると、サーニャも返してくれる。しかしどことなくぎこちない。





 ……それもそうだろう、今の俺の顔は疲れ切っているに違いない。

 昨日の夜アレを飲み干した後、頭が痛くなった。


 これはいける! このまま昏倒すれば絶対……! と思っていたがやがて痛みは引いたが今度は眠れなくなってしまった。


 で、寝ようとしても寝付けないのでずっと起きているという訳だ。

 クロミア曰く……


 「体組織が変わろうとしておるな……こんなことは初めてじゃ。恐らくドラゴンに近い耐性を得そうな気がする……な、なあクリスとかいったか? ここでわらわと暮らさん?」


 後半は無視したが、このどんよりとした気持ちの後はスッキリするかもしれないとか。


 「はあ……どうしてこう……」


 「? 大丈夫? はい、コーヒー」


 サーニャがコーヒーを作ってくれ、それを飲みまたため息をつく。

 あーあ、もう死ぬの止めようかなあ、面倒くさくなってきたなあ……オルコスは無視すればいいかー。


 と、寝不足のせいか、聖水(原液)のせいか分からないが俺が腐ってゴロゴロしていると、遠くを見ていたサーニャが何かに気付いて声をあげる。


 「あれ? 何か煙が上がってるよ?」


 「ホントじゃ、山火事か? どれ……」


 ドラゴン化して空から状況を確認するクロミア。

 


 『何かオークの村が焼けておるぞ? 焼豚……?』


 「やめろよそういうのは!?」


 クロミアを叱ってから考えるが、彼らが間違えて火事を起こすとは考えにくかった。


 「よく分からんが、嫌な予感がする! ちょっと見に行ってくる!」


 「あ、じゃああたしも! あの人達にはお世話になったし!」

 サーニャも剣を持ってきて連れて行けときかない。ええい、仕方ない!


 「また帰ってくる、クロミアはここで……」


 『わらわも行くぞ。背に乗った方が早かろう』


 待っているかと思えば、乗せて行ってくれるらしい。しゃがんでもらい俺達が背に乗ると、クロミアはふわりと浮いてオークの集落を目指した。


 「ふおおお!? こりゃいいな! あ! 気球とか作ってみようかな? あ、でもガスが……」


 何となくアイデアが浮かんだが、今はそれどころじゃない。しかし一体何があったんだ……?



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 <オーク達の村>



 「ヒャッハー! リャクダツダー!」


 「コノヤマニオナジシュルイノブゾクハフタツモイラナイ、アア、デモオンナハツカエルカラトッテオケ……グフフ」


 「こいつら!」


 ニックが槍で応戦するがまるで歯が立たなかった!

 

 「ワレラ、ワーボアハ、ブタトチガイセントウニタケテイルノダ! オマエラゴトキガアイテニナルトデモオモッテイタカ、バカメ!」


 リーダー格のモヒカンがついた兜をつけた、自らをワーボアと呼んだ男がニックに剣を叩きつけていた。


 「き、貴様等の目的は……」


 ニックを庇いながら村長がワーボア達を睨むと、さもおかしいと言わんばかりに笑い、村長へ言葉を返す。


 「モチロン、キサマラノゼツメツダヨ! コノムラモワレワレガユウコウニカツヨウサセテモオウ……ソシテツギハ、ニンゲンノマチヘムカウノダ!」


 なんと、ワーボアは人間の町を占拠しようと企んでいたのだ!

 そしてオーク達と違い、好戦的で性欲も強い。異種だろが関係なく襲うのだ、まだワーボアの数は少ないが、町を襲われたらたちまち彼らであふれかえってしまうのは想像に難しくなかった。


 「くっ……そうはさせるか!」


 「ナニ!? グア! オマエラ、コイツヲトラエロ!」


 「うわああああ!?」


 サッドが奇襲をかけたが、多勢に無勢。あっという間に縛り首にされてしまった!

 

 「サッドー!! くそ……離せ!」

 

 抵抗虚しく、ニックを始めとしたオーク達は捕えられ、ニックの首元には剣が突きたてられている、絶体絶命とはこのことだった。


 「グフフフ、サア、マズハミセシメニコイツカラダ! ジブンノブキデシヌノモイッキョウダロウ!」


 リーダー格がサッズの首を落とそうと斧を振り降ろした!


 

 その時である!




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 聖水の原液はクロミアを辱めただけで、クリスに死をもたらすものではなかった。


 そんな中、オークの村に戦慄が走る。


 そして、ワーボア達の運命はいかに?(敵です)


 次回『ボタン鍋』


 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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