2. サンクサンドルの町 ②

 

翌日!


 日常系アニメを彷彿とさせる一日を終えてしまった俺は、今度こそ情報を得るために再び町へと足を運ぼうと原玄関へ向かう。


 今日は母さんにもフィアにも声をかけず、ささっと家を出ようと思ったが出がけにフィアに見つかってしまう。


 「……」


 「……」


 相変わらず何を考えているか分からない。クールビューティとはこのことか!

 しばらく見つめ合っていたが、ようやく口を開いてくれた。


 「ケーキ……(昨日買ってきてくれたケーキ! もうホント美味しかったんですよー? 私が切り分けてクリス様へ差し出す……そしてニコッと笑い『ありがとう』……優しい上にかっこいいなんて反則ですよね? ね?」


 「あ、ああ昨日のやつか? 並んでやっと買えるくらいだから、買えたらおみやげにするよ。じゃあ行ってくる!」


 こくんと頷き、手を振るフィア。うーむ、美人だ……。

 そんな事を考えつつ玄関を開ける。


 「ふう、昨日はあの馬鹿が出なかったから穏やかだったな(主に心が)今日もそうだといいんだが……」


 カチッ


 <ところがどすこい、呼ばれて飛び出て私、参上!>


 声に出したのはまずかったか……!


 「チッ、出て来たか。何か用か?」


 <九日、十日……いえ、寂しがっているのではないかと思いまして>


 「んなわけねぇだろ! むしろ居なくてゆっくり過ごせたわ! 自殺するのは誰のせいだと思ってんだ!」


 こいつさえ出しゃばらなければ俺は平穏に過ごせるのだが……。


 <はは、手違いとはいえあなたの体は死ににくいんですよ? 無駄な努力はやめて開発に専念したらどうです?>


 俺が気に入らないのはもう一つ、これだ。事あるごとに何かを作らせようと言ってくるが、好きにさせて欲しい。何か思いついた時に造るのは良いが、これじゃ何の為に転生したのか分からないからだ。


 少なくとも俺はこいつの言いなりになるためにこの世界に来たわけじゃ……いや、待てよ。逆らえないような記述があったがまさかこれが……?


 <どうしたんですか? もしもーし! チッ……>


 カチッ


 「お、切ったか。なるほど聞こえないフリも効果はあるって事か……」

 

 俺のことはモニターして見ているに違いないので、ニヤリと笑ってやった。


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 【あの世】



 モニターを見ていたオルコスは歯ぎしりをしてクリスの様子を見ていた。

 

 <ぐぬぬ……文句を言いたいですが、どうもキナ臭い雰囲気があるからスイッチは使えないですし……>


 通常、神託や危機状況でのみ喋ることを許されるスイッチだがオルコスはどういうわけか何度も交信をしているようだった。


 <まあ、ボーナスも入ったししばらくはいいでしょう。あまり派手に動くのもアレですしね、彼が成人して動けるようになったからとはしゃぎすぎましたかね?>


 貴族、それも領主の息子なので発展させるには都合がいいという事で執着しているオルコス。前述の通りボーナスや、果ては昇進にも関わってくる可能性があるとなればこうもなろう。


 <しかし自殺とは厄介ですね……結婚相手でもいれば回避できるでしょうか……? 少し当たってみますか>


 またも何かを企むオルコス。


 クリスは回避することができるのか?



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 「おう、クリスぼっちゃん! 今日はどうしたんだ?」


 「クリス様が学校以外で町に居るのは珍しいですね?」


 俺が外に居るのはそんなに珍しいか……肉屋、魚屋、八百屋と薬屋を探しながらウロウロしていると、色んな人に声をかけられていた。


 領主の息子相手にと思うかもしれないが、俺にはそういった意識が無く、みんなもそれを知っているので気さくに話しかけられるのだそうだ。まあ父さんも気さくだしな。




 「薬屋、薬屋……」

 

 で、俺は目的の店を探す。


 ぶっちゃけ丈夫な体なので薬の世話になったことは無い。だから薬屋に行ったことは無かった。

 大通りにあるのかと思えば見当たらず、人に聞いてみると少し奥まった場所にそれはあった。


 「ボロい……大丈夫か? ごめんくださーい」


 「はい、いらっしゃいませ」


 奥に居るのか声だけが聞こえてくる。

 

 可愛い声だ……声優ボイスとも言うべき声で、人によっては耳が幸せになるに違いない。ちなみに前世で俺が気に入っていた声優は……


 「どういったご用件でしょうか?」


 俺が考えを巡らせていると早々と奥から出てきたが……。


 「目つき悪っ!?」


 「いきなり酷いですね!?」


 俺が面食らったのも無理はない、声はめちゃくちゃ可愛いのに、目の前にいる子は、髪はボサっとしていて、目はツリ目がち。さらに目の下にはクマがある。そして着ている白衣? か? は、しわしわなのだ。


 こういうのは見覚えがある、超忙しくて二徹お疲れ様でしたという感じだ。

 俺が髪や服を見ていると、気付いたようで恥ずかしそうに(声だけは)弁解を始めた。


 「こ、これはですね、ちょっと緊急の案件が入ってですね! 寝る間も無かったと言うか惜しんでというか……」


 「あー、やっぱそういうのだよな……。まあ君の見た目で商品の品質が変わる訳じゃないから別にいいんだけどな」


 「そう言ってもらえると助かります! それで今日はどういった品をお探しで?」


 「自殺するために適した毒薬ってないかな?」


 「どストレート!? 自殺するって聞いて『はい、これです♪』なんて出す薬屋はいませんからね!?」


 ああ、目を瞑って聞くと声はホント可愛いな……と、少し正直すぎたか。


 「ごめんごめん、自殺したいって友人がいてさ、代わりに探してあげてるんだよ」


 「それはそれで、お友達を止めてあげないあなたの人格に疑問を持つんですけど……。ま、まあそれはともかくそういう目的でお売りすることはできませんからね!」


 ふう、だいぶ癒された。


 「あるにはある、ってところか。どういった目的なら売れるんだ?」


 「うーん、そもそも毒薬は売ってないんですよ。接種しすぎると危ないとかせいぜいそういったものですね。実験するような施設ならあるとは思いますが、立ち入り禁止ですからねどこも」


 「なるほどな、手間を考えると毒キノコとかを食った方が早いくらいだな……」


 「すごく前向きな自殺への意欲!? ……見たところうつ病とかでもなさそうですし、どうして自殺なんか?」


 「まあ、人には色々あるんだよ」


 俺の目から光彩が消えたのを見て、何かを察してくれた。


 「そうですか、これ以上は闇が深そうなので止めておきますね。お役に立てなくて申し訳ありませんが……」


 「いや、いいよ。よく考えれば薬屋が自殺ほう助はマズイもんな。仕事の邪魔して悪かった、今度はちゃんと薬を買いに来るよ」


 「はい! それなら大歓迎ですよ!」


 ああ、可愛い。(声)


 「今度はきちんとした格好で頼むよ!」


 「な、何を言ってるんですかもう! あ、そういえば最近、ドラゴンがグレイス山に降り立ったという話を聞きましたよ? ドラゴンさんなら何かいい知恵があるかもしれませんよ?」


 ほほう、ファンタジーの王道ドラゴン様か。だったら丈夫な体でも吹き飛ばしてくれるかもしれないな?


 「サンキュー、死ねなかったらまたくるよー」


 「できれば、また来てほしいですけどね!」


 そう言って俺は薬屋を後にした。


 グレイス山は先日行った海とは逆方向だ。

 海の次は山……夏休みを満喫する学生のようだな。前世じゃできなかったから中々悪くないけど。

 

 少し冒険者ギルドで情報を集めてみるか?


 キャンプ用品も必要だろうか……樹海で餓死ってのも悪くないな。


 大通りに出た俺は冒険者ギルドを目指す。


 





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 章タイトルのフラグを回収したクリス。


 海の次は山という夏休みの王道パターンを満喫するクリスを待ち受けるイベントとは何か?


 そして、呼ばれても居ないのに出てくる新キャラ……。



 次回『山登り』



 ご期待ください。



 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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