ケース2:ドラゴン

1. サンクサンドルの町 ①

 「うーん……どうしたものか」


 海で死ぬことには失敗し、水中では死ねないという体になってしまったので次の手を考えていたがまるでアイデアが浮かばない。

 そりゃそうだ、前世はもちろん転生してからも自殺など考えたことは無かったから、方法を思いつくはずが無いのだ。

 ちなみにオーソドックス(と言っていいのか?)である飛び降りはやってみたけど、マンガみたいに地面に穴が開いただけで効果は無かった。後、人を巻き込む可能性があるので、ダメ、絶対。


 んで、次は首つりだが、これもダメ。自分で締めるには理性が働いてある一定以上に力が入らず、踏み台を蹴飛ばしてぷらーんとなったが『外部からの攻撃』とみなされるのか、首が超強靭になって締まるどころか……という結末だった。


 毒は色々試したいが、簡単に手に入るわけじゃないしな……あ!

 

 「そうだ、久しぶりに町へ行くか!」


 海での足こぎボートで荒稼ぎした俺には金がある。たまには買い物でもしよう。お金は使って回さないといけないのだ。何か面白い情報があるかもしれないしな。


 ここ何日かオルコスの馬鹿は出てきていないので、このままだったらいいのにと思いつつ外出することにした。


 「ちょっと出かけてくるよ、何か必要なものがあったら買ってくるけどー?」


 リビングに居た母さんとフィアに声をかけると、こんな答えが返ってきた。


 「最近美味しいスイーツの店が出来たらしいから、それをお願いしてもいいかしら? 種類は任せるわ」


 「オッケー! じゃあ行ってくる」


 俺の家……ルーベイン家から町へは、歩いて15分程度で到着する。アニメとかで貴族の家ってちょっと丘の上みたいな所に建ってるじゃない? ちょうどそんな感じなんだよ。


 魔物避けの外壁はあるけど、この辺は大して強い魔物が居ない。戦闘経験の無い俺でもその辺にある角材で撃退できるくらいなのだ。

 後は、前にも言った山があるけど、ゴブリン達が守っているので山から魔物が降りてくることは滅多にない。


 「ウェイクとアモルはまだ学校か、おやつがてら迎えにいってやろうかな?」


 何となく驚く二人の顔を想像して楽しくなってきた。

 ま、たまにはいいよなこういうのも。



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 しばらく歩き、俺は馴染の店へと足を運ぶ。

 ウォード商会という店なんだけど、ここは前世で言うコンビニみたいな店で色々とかゆい所に手が届く品々を置いている。


 学生時代は帰りに良く利用してたなあ……学校帰りの買い食いって何か魅力的だよな。


 「いらっしゃいませ! あ、クリス様、久しぶりですね」


 「こんちはポルタさん。串焼きを一本、それとオレンジジュースを」


 「かしこまりました。好きですねえ串焼き」


 「ここの串焼きは肉が美味いからね」


 今はポルタさん……先代の息子さんがきりもりしているが、先代が家事を取っている時大変な目にあったらしい。

 当時、ディアナという女性店員を雇っていたらしく、良く働き笑顔の可愛い人だったそうだ。

 ポルタさんと結婚するんじゃないか、そう噂された事もあったし、ポルタさんも先代のウォードさんもノリノリだったとか。

 

 だが、そんな中で事件は起きた。

 ディアナが店の売り上げを根こそぎ奪って行方をくらましたのだ。そう、油断させてお金を盗む悪党だった。


 ウォードさんはショックで寝込み、そこから仕入れるお金も無く、何とか日を繋ぐ生活の繰り返し。

 悩んだポルタさんは、金貸しからお金を借り、安く仕入れる事ができる鶏肉を使って串焼きを始めたのだ。タレにはこだわったらしい。


 素人の作った串焼き……不安なスタートだったがこれが大当たりし、串焼きと飲み物がセットで売れ、ちょっとした雑貨もその当時売っていたのでついでに、と雑貨を買っていく人のおかげで何とか立て直したとか。立地も大通りで通学路ということもあり俺を含む学生のおやつ代わりに丁度いいのだ。


 なのでこの串焼きは魂のこもった串焼きなのである。ちなみにまだその女は捕まっていないらしい……。


 「ポルタさん、こんなこと聞くのも何だけど毒薬って仕入れられないかな?」

 何でも屋のイメージがあるのでそれとなく聞いてみた。 


 「どストレート!? だ、ダメですよクリス様……何に使うか分かりませんけど、きちんと資格を持った人でないと扱えませんからね。ウチのような店には仕入れられません。薬屋とかなら……ああ、忘れてください」


 「ふむ、薬屋ね? 行ってみるか……もぐもぐ……」


 「しまった余計な情報を!? そして何の臆面もなく店の中でもぐもぐしている!?」


 「はは、ポルタさんに聞いたってのは内緒にしとくよ! また来るよー」


 青い顔をしたポルタさんを背に俺は腹ごしらえを済ませ、尚も町を歩く。


 「(まあ薬屋に行ったところで売ってくれるとは思えないけど、金を積めば? いやいや、そんな悪い事はできんな……)」


 作戦を考えながらしばらく歩いていると、行列を発見する。


 「甘い匂い……これが新しいスィーツの店か?」


 行列の先頭を見てみるとケーキやクッキーなどのお菓子がずらりと並んでいた。職人さんがバタバタと商品を並べていた。

 

 さて、諸君。並ぶ、という行為についてどうお考えだろうか? 時間が勿体ない、いつでも買えると言った意見もチラホラ聞くことがあるが、俺は嫌いじゃない。そして新商品という響きも好きだし、限定品という言葉にも弱い現代の日本人気質なのだ。


 「つい並んじゃうよね……」


 きっとこれが母さんに頼まれていない列だったとしても俺は並んだであろう。どうも今日から「新商品」とやらがあるらしいからだ。

 

 「すいすい進むな、ここのお店はきっと優秀に違いない……」


 そして俺の番。


 「いらっしゃいませー! おみやげですか?」


 「ああ、やっぱ男一人で買いに来るのは珍しいか?」

 開口一番おみやげと断定されたので聞いてみた。確かに周りには女の子が多い。

 

 「そうですね、カップルとかですと近くの公園とかで食べたりするので、男性お一人の場合は家族や帰ってから食べる方が多いみたいですから! カップル……なんであたしには……」


 何かカップルに恨みでもあるのか、急に目から光彩が無くなり、ぶつぶつと指を噛んで呟きはじめた。


 「え、ええっと。このモモのケーキとベリーかな? この二つをホールで。それとそっちのクッキーを二袋いいかな?」

 ヤバい雰囲気を感じ取った俺は、急いで商品を選び包んでもらう。その間も目の光彩は帰ってこなかった。


 「ありがとうございましたー!」

 別の店員に見送られ、店を後にする。手首を掴まれて「……あなたもリア充なんですか?」と言われた時には死ぬかと思った。あ、それでも良かったのか。


 次はどこへ行くか、ケーキを買ったから長居は出来ないなと思っていると見知った顔が向こうから歩いて来た。


 「あ! お兄様!」


 「ホントだ、家から出てるなんて珍しいね!」

 ウェイクが俺の心に傷を負わせるが悪気はない。無いが痛い。


 「おう、後から迎えに行こうかと思ったんだが早かったんだな?」


 「今日は早く終わる日だったんですの。あら、お菓子ですか?」


 アモルがいち早くお菓子に気付き俺の周りをウロウロする。やはり女の子だなあ。


 「ああ、母さんに頼まれてオープンしたばかりの店で買ってきたんだ。今日のおやつはこれだな」


 「やったぁ! あそこ、いつも並んでて買えないって友達が言ってましたの! 明日自慢できますわね!」


 「ベリーのケーキが美味しそう、早く帰って食べよう!」


 「おいおい、引っ張るなよ」

 そのまま、ウェイクとアモルに引っ張られて俺は町を後にした。

 ケーキは本当に美味しく、フルーツは生のモノを使っているので日持ちはしないが風味と味は絶品だった。


 「また買ってくるかな」


 俺が呟くと、家族みんなが大喜びだった。


 夕飯では双子の学校での話に耳を傾け、お風呂に入り、歯を磨いた俺は早々にベッドへ潜る。


 「今日はオルコスのヤツが出てこなかったな……いつもこうなら自殺なんてしなくて済むんだけど……」


 ん? 自殺?


 俺はガバッと布団を跳ね除け、あることを思いだした。


 「そうだ! 毒薬!」


 しかし、とっくに店は閉まっている時間だった。




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 町に出かけたクリスは流されるまま家へと帰ってしまった。


 予定されていたイベントは次回でちゃんと消化されるのだろうか?


 そして、お菓子屋の店員に一体何があったというのか?


 次回『サンクサンドルの町 ②』


 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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