第二十三話

 時は変わり放課後。僕は部室に向かっていた。久しぶりの部室だ。なんせ、妹の椿が自殺した時以来なのだから。


 僕は少し重い足を精一杯動かして部室に向かう。もう先輩や雫はいるのだろうか?なんの話をするのだろうか?


 僕の頭の中では、別に考える必要のないことがぐるぐると回っていた。そうでもしないとまたあの時のことを思い出してしまいそうだからだ。どうやら僕はあの日がきっかけで、少し部室がトラウマになってしまっているらしい。部室に行くと、あいりや椿のことをどうしても思い出してしまう。あぁ、早くあいりに帰って来てほしい。


 僕の脳内でくだらない思考がぐるぐると回っている間に、気がつけば部室の前についていた。


「よし、入ろう」


 僕は扉の前で一度深呼吸をする。覚悟は決まった。


 僕は扉に手をかけ、ガラガラっと少し強めに開ける。すると、中にはすでに二人がいた。


「すみません、少し遅れてしまいました」


「いいえ、大丈夫ですわ。私も雫も今来たばかりだから」


「ん、大丈夫。だから席について」


 僕は静かに頷く。スタスタと自分の席に向かう。二人が何も声を発さないせいか、嫌に自分の足音が部室内に反響する。


 美桜先輩が僕が席についたことを確認すると、席を立ち上がり、ホワイトボードの前に移動する。


「今日集まってもらったのは、他でもないここにはいない二人のことですわ」


 僕はその言葉を聞いて、顔を歪める。


「桜玖さん、辛い気持ちはわかりますわ。私だって辛い。お二人に会えないのは辛いのですわ。でも、あいりさんは帰ってくる。私はそう信じています。だから、そんな顔をしないでください。私たちがこんな顔でお出迎えしたら、あいりさんに叱られてしまいますわ」


 確かにそうだ。でも、やはりここに来てしまうと二人のことばかりが頭によぎる。


「そこで、次の休みを利用して三人でBBQ《バーベキュー》にでも行きませんか?桜玖さんと雫さん、それから私には心休まる時が必要だと感じましたわ」


 僕と雫は一度顔を見合わせる。それから雫は先輩に視線を移して、ガタッと音を立てて立ち上がった。


「美桜先輩、場所はどうするの?」


 先輩はいつもの調子で、『ふっふっふっ』と笑ってみせる。


「この話をすると決めてから、場所はもう決めてありますわ。私の家が所有する土地が使えますわ。雄大な自然に囲まれた山ですの。そこならのびのびと羽を伸ばすことができますわ。あ、当日はお二人を私の家の車で迎えに行きますからそのあたりの心配はありません。なんせ、これを計画したのは私なのですから!」


 先輩は胸を張って『ふんすっ』と、鼻を鳴らす。どうやら相当張り切っているようだ。僕たちのメンタルをケアしようと必死に動いていることがとても伝わってくる。


「わかりました、美桜先輩。それではそのBBQ《バーベキュー》に参加させてください」


「えぇ、もちろんですわ!雫さんは大丈夫でしょうか?何か予定とかあったりは?」


「具体的な日時を決めてもらわないと何とも言えない」


 美桜先輩はしまった!という表情をする。


「すみません、肝心なそこを決めたませんでしたわ。それなら今日が木曜日とのことなので、明後日の土曜日に行くのはどうですか?」


 美桜先輩はまず、僕の方に視線をよこす。僕は首を縦に振って首肯する。すると、今度は雫に視線を向ける。


「ん、わかった。その日なら大丈夫、日曜日だと約束があったから無理だったけど」


 それを聞いた美桜先輩はパァッと表情を輝かせる。


「それじゃあ決まりですわ!明後日の土曜日、その日にお二人を迎えに行きますわ!」


「はい!よろしくお願いします」


「ん、よろしく」


 僕たちは美桜先輩に頭を下げる。


「こちらこそよろしくですわ!私は準備することが多いので、今日は解散にしましょう!」


雫は一つ頷くと、カバンを肩にかけて部室を出て行ってしまった。僕もそれに倣って肩にカバンをかけ、先輩に一礼してから部室を後にする。部室の扉が閉まる瞬間とき、『日曜日の約束、しっかりと果たせるといいですね』という言葉が聞こえた。美桜先輩は一体なんの話をしていたのだろうか。


 僕は少し不安に思いながらその場を後にした。

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