第十六話
「お邪魔しまーす」
何も声をかけないではいるのは何か違う気がしたので、とりあえずあいさつはしておく。
「ほんとになんの気配もないわね」
「ええ、とりあえず手分けして探してみますわよ」
僕たちはコクリと頷く。
「それはやめたほうがいい」
さて、探索開始!というところで待ったの声がかかる。
「どうしてやめたほうがいいんですか?雫先輩」
椿がみんなの意見を代弁して言ってくれる。
「何があるかわからない。それこそ、美桜先輩がいったように異常事態が起きているのなら尚更」
美桜先輩は何度も頷く。
「そうですわね、少し考えが甘かったわ。それじゃあ、みんなでこのまま移動しますわよ」
美桜先輩の言葉を合図に、今度こそ僕たちは移動を開始した。
まず入ってすぐの左手に、扉が見えた。そこに向かってみんなで突き進む。
「開けますわよ」
ガチャリと、なんの抵抗もなく開いたその先は、当然の如く人などいなかった。
「これは、何かあったと考えたほうが良さそうですわね」
「はい、これは...」
心拍数が急激に上昇し始める。僕たちの前に広がっていた光景。それは何者かに荒らされたであろう凄惨な光景だった。
「あいりさんに何かがあったのかもしれませんわね」
「はい、これをみてあいり先輩が無事だという保証もありません。なるべく早くここを出たほうがいいかもしれませんね。それでも、ここまで来たからには簡単に引き下がれないけど」
二人は会話をしながら辺りを探索する。僕も何か手がかりがないか見て回る。
「ん」
「どうしたの、雫」
「ここ」
そう言って指さした先には、赤黒く、乾いた何かが僅かについていた。
「これは、血?」
「おそらく。誰かがここで被害にあった、と思う」
雫は至って冷静に自分の考えを述べる。
「誰かって、まさかあいりじゃ...」
「それもわからない。今の現状、これが本当に血なのか、それとも汚れなのか。結局私たちができることといえば、あいりがいるかいないかを探すことだけ」
「どうかしまして?」
そこでリビングの他を探索していた美桜先輩と椿がこちらに戻ってきた。
「これなんですけど」
僕がそういって、これが血なのではないかと説明する。
「あ、そういえば兄さん。兄さんの手紙の文字もこんな感じじゃなかった?」
「あ、そういえば...」
思い出すのは僕に届いた狂った手紙。あれもこんな感じの色で字が綴られていた。
「じゃああれもまさか血なの?」
僕はブルっと体を振るわせる。寒さから来るものじゃないのは言わなくてもわかるだろう。
「まだ血だと決めつけるには早いけど、その可能性が高いですわ。もしかすると今回の件にその人物が関わっている可能性もありますわね」
そこでふぅ、と一息ついてからまた口を開く。
「これはあくまで私の想像ですわ。もし、今回の件に手紙の差し出し人が関わっていて、その人があいりさんに危害を加えていたとしましょう。そうなってくると私たちも安全とは言い切れませんわ。今以上に警戒をする必要が出てきますわ。なるべく一人では行動をしない。それを守っていきますわよ。これは部長命令ですわ!」
ズビシッと指をこちらに向ける。少しだけ場の雰囲気が和んだ気がするが、気を抜いてはいけない。今いる場所はとても安全とはいえない場所なのだから。
それから僕たちは一通りを探索し終えて、あいりの家を出た。
「あいりはいなかったな」
「そうね。それに、あいり先輩の部屋だけは荒らされていなかった。一体どういうことなのかしら」
そうなのだ。リビングや他のところは派手に荒らされていた。しかし、あいりの部屋は荒らされていなかった。むしろ物凄く綺麗に整理されていた。この家の中で唯一の異常と言っても過言ではないだろう。そう僕は捉えた。
「あいりの部屋以外荒らされていたけど、何か意味があるのかな」
「うーん、なんというか、今回ここに来れば解決できるものと考えていたのだけれど、ますます意味がわからなくなったわ」
「そうですわね、とりあえず警察には私から連絡をしておきますわ。ここからは各自帰宅ということにしますわ。みなさん、気をつけて帰ってくださいまし」
美桜先輩が真剣な表情でみんなを見る。とても心配していることが伝わってくる。
「先輩こそ、気をつけてください」
「ええ、気をつけますわ。それではみなさんまた明日」
先輩は僕たちに背を向けて、スタスタと帰路についてしまった。
「それじゃあ僕たちも帰ろうか」
「そうね、そうしましょ。って、あれ?雫先輩は?」
言われてキョロキョロと辺りを見ても、姿は見当たらない。
「とりあえず連絡入れてみるか」
連絡してからすぐ、返信が来た。
ピロリン♪
『ごめんなさい、少し体調が優れないから先に帰らせてもらった。特に攫われたとかじゃないから安心して』
僕はスマホを椿にも見せる。
「まああれを見たら無理もないわ。ちょっと場の空気も悪かったし。それに、もしかしたら今日が女の子の日なのかもしれないしね」
「そっか、まあ明日にでも声かけてみればいいかな」
「ええ、そうね。今日はもう帰りましょ」
僕たちはそれから、二人だけで家に帰った。
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