第三話 

 次の日の朝、僕はカーテンから差し込む陽の光で目が覚めた。枕元に置いてあるスマホを手に取り、時刻を確認する。5:56


「なんか思ったよりも早く目が覚めた。いつもはタイマーを7:30にセットしてるのに。と言ってもいつも椿に起こしてもらってるから目覚ましで起きてるわけじゃないんだけどね」


 僕は誰もいない部屋で乾いた笑いを見せる。


「よし!せっかく早く起きたんだし、早めに学校に行こうかな」


 僕はまず、制服に着替えた。それから妹の部屋へと行く。この時間だと妹はまだ寝ている。いつも大体6:30頃に起床するらしい。


 僕はなるべく足音を立てないようにして、妹の部屋へと向かう。そして、ドアもこれでもかというくらい慎重に開ける。


「お邪魔しまーす」


 近くにいても聞こえるか聞こえないかくらいの声で、一応入ったことを伝えておく。気分はさながら寝起きドッキリの仕掛け人だ。


 僕はそーっと妹の寝ているところに向かう。


 はたからみればただの変態でしかないだろう。だが、これからやろうとしていることはとても重要なことなのだ。


 僕は妹がスヤスヤと寝ている枕元まで忍足で歩いていく。


「お、あった」


 僕は目当てのそれを手にする。


「えーっと、目覚ましを消してっと」


 そう、僕が今やっているのは妹の目覚まし時計のアラームを消すということだった。


 何故そんなことするかって?それはだね、いつも家のことを朝早くに起きてやってくれているからせめて今日くらいは寝かせてあげようと思ってやっているんだよ。僕は案外こう見えても優しいからね。


 僕は目覚まし時計のアラームを消すとまた静かに妹の部屋を後にした。


 もちろん階段を降りる時も慎重に降りた。



☆☆☆



 それから僕は適当にパンを焼いて、それにジャムを塗って朝食を済ませた。


「椿の分はどうしよう。あったかい方が美味しいだろうし焼かなくてもいいかな」


 僕は自分の食べたお皿を下げて、洗い物をする。


「あ、一応書置きしておこうかな。起きて僕がいなかったら少し慌てちゃうだろうし」


 僕は洗い物を終えてから適当に手を拭いて、紙とペンを取り出す。


「えーっと、なんて書こうかな」


 そう言いながらも僕は迷いなくペンを進めていく。


「よし!できた。これで椿も焦ることないだろう」


 書いた紙を一番わかりやすいようにテーブルに置いておく。


 2階から持ってきておいた鞄を持って玄関に向かう。


 外へ出る前、玄関のところに飾ってある家族写真が目に入った。そこには、元気に笑う少年少女と大人2人がいた。正真正銘僕の家族だ。現在父は仕事の関係で海外にに行っており、それについて行く形で母も海外に行ってしまった。母曰く『もう高校生にもなるんだから2人でも大丈夫でしょ?』とのこと。


 僕は写真から目を外すと、指定の革靴を履いてから外へと出た。


「う、だんだん暑くなってきたな」


 外へ出ると、まだ早朝だというのに強い陽の光が肌に突き刺さる。


 僕の家から学校までは徒歩で大体二十分かからないくらいのところにある。近くでいい学校ないかなと思って探してみたところ、ちょうど今の学校があったって感じだ。


 僕は意気揚々と足を進める。



☆☆☆



 約二十分後


 僕は校門の前に着いていた。ここまで特に誰とも会うことなく学校までの道のりを歩いてきた。


 ポケットに入っているスマホを見てみると、時刻は7:12を指していた。


「結構早く着いちゃったな。まだ朝のホームルーム始まるまで一時間以上あるや」


 僕は自分の下駄箱に向かうため、歩き始める。


 そして下駄箱に着くと、僕は上履きを取り出すために扉を開ける。今時扉を開ける式の下駄箱ってのは珍しいと言われているが、私立の学校だとそうでもないらしい。どこかのネットに書いてあった。


 僕は優しく扉を開ける。


「ん?」


 その時、中から一枚の紙がひらりと落ちてきた。


「なんだ?」


 僕はそれに手を伸ばして拾い上げる。四つ折りにされたその紙を丁寧に開いていく。それはまるで高価なダイヤモンドを磨き上げるかのように。


「!?な、なにこれ」


 僕が開いたその紙にはこう書いてあった。


『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』


 その手紙には宛名もなく送り主の名前もない。所々が掠れており、字の色は赤黒い色をしていた。僕はそれを見てゾッとした。


「こ、これは、何かの嫌がらせなのかな?なんていうかこれが嫌がらせじゃないとしたら相当ヤバい人なんじゃないかな?」


 自らに迫る危険に僕の体は六月だというのに微かに震えていた。


「おっはよー!」


 そこで背後から大きな声で挨拶をしてきた人物がいた。僕は咄嗟に持っていた手紙を乱雑にカバンの中に押し込む。


「あ、あいりか。おはよう」


「うん、おはよー」


 あいりは僕に一歩近づいて、顔を覗き込んでくる。


「ねぇ、何かあった?」


「!?」


 僕はあいりの言葉を聞いて、心臓を握りつぶされたんじゃないかっていうくらいビクリとした。


「え、いや、何にもないよ?どうかした?」


「え?んー、なんか桜玖、困ってるっぽかったから。それになんか無理してるような、そんな感じ?」


 自分に違うと思わせるために大きく首を振る。


「僕は大丈夫だよ」


 僕はそう言って教室に向かうために歩き始める。


「ちょ、待ってよー。置いてかないでー」


 後ろからあいりの声が聞こえてくるが、今はそれどころじゃなかった。


(誰かに相談したいな。誰にすればいいんだろう)


 僕は歩きながらうーんと唸りながら悩んでいた。悩んでいると、後ろから誰かが走ってくる足音が耳に届いた。


「桜玖ー、待ってくれないなんてひどいじゃん!」


 僕はジーッとあいりの顔を見る。


(うーん、あいりに相談するかな?でもなんか頼りない気がする。それならいっそのこと昼休みにでもあそこに行ってみようかな)


 僕は大きく頷いた。


「なーに、人の顔見て頷いてるの?」


 ジトーっとした目で僕を睨んでくる。


「いや、なんとか解決できそうだなってね」


「えー、なにがー?」


「内緒だよ」


 僕は笑いながら教室へと走っていく。


「ちょっとまた置いてくの!?だから待ってってー!」


 あいりはその後ろを慌ててついてくる。


 朝の学校は人気がなく、のびのびと校内を走ることができた。


 だが、僕たちは気がつかなかった。この時僕たちを見ている人影があったことを...


『...』

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