第二話 

「みんな揃いましたわね。これから部活動を始めますわ!」


 ホワイトボードの前に立ち、黒ペンをサラサラと走らせ始めた。その生徒は我が部の部長こと、四方城よもしろ 美桜みお先輩だ。


 金髪をハーフアップにし、右の髪の上には扇の髪飾りを付けている。口調がとても丁寧で、そこからも育ちの良さが伝わってくる。

実際に家にお邪魔したことがあるが、文句無しの本物のお嬢様だった。


 親しい者はみな下の名前で呼んでいる。もちろん僕も美桜先輩と呼ばせてもらっている。


 美桜先輩はホワイトボードに何かを書き終えると、バンッとホワイトボードを叩いて注目を集める。


「皆さん、注目してくださいまし。今日の部活の内容はこれですわ!」


 僕は美桜先輩が書いた文字を順に目で追っていく。


「え〜っと、なになに。『夏休みの計画決め』?」


 あいりがホワイトボードに書いてある文字を口に出して読み、何故今それを決めるんだ?みたいな表情をしながら美桜先輩を見ている。


「ふっふっふ、あいりさんの言いたいこともわかりますわ。何故今それを決めるのかってことですわよね?それはですね、早ければ早い方がいいと思ったからですわ!」


 みんなの頭にハテナマークが大量に出現する。


 するとここで、1人の生徒から手が上がる。


「なんでしょう、椿さん」


 当てられたその少女は、スッと立ち上がる。その立ち姿はまるでお手本のように綺麗で、見惚れてしまう。


 立ち上がったその少女の名は菊咲きくさき 椿つばき。正真正銘、僕の妹だ。義理とかではない。


 椿は僕の一個下、つまり今年入学したばかりの一年生だ。ストレートの黒髪を腰ほどまで伸ばし、スレンダーな体型をしている。平日はこの部室に来ているが、休日は近くの道場に通っており、そこで剣道をやっている。剣道の腕前は、全国でもトップレベルの実力を保持している。また、妹の椿はしっかりと芯の通った性格をしており、ダメなことはダメとはっきり言える。僕とは真逆の性格だ。

椿のトレンドマークと言えるのは、なんといってもいつも肌身離さず持っている竹刀だろう。僕が「なんで学校に必要ないのに持っていってるの?」と聞いてみたところ、「いつ何があるか分からないからよ。だから常備しているの」とのことだった。妹の椿には僕に見えない何かが見えているらしい。


 そんな椿はピシッと起立の姿勢をとってから、美桜先輩に尋ねる。


「今は六月です。まだ夏休みまでに約二ヶ月あります。そんなに焦って決めることではないんじゃないですか?」


 椿の言葉を聞いた美桜先輩は、チッチッチと指を振る。


「甘い、実に甘いですわ!おそらく他の方々に聞いてもみんなそんな反応をするでしょう。しかし!だからといって直前に決めようとしても、なかなか出てこないのです。それならば、いっその事早めに決めた方がいいと思ったのですわ!」


 僕は部員一人一人を見てみるが、みんなまだ納得いく表情をしていなかった。


「はいはーい」


 また手を挙げる者がいた。


「はい、あいりさん。どうかなさいまして?」


 あいりは元気よく立ち上がると、そのままのテンションで質問する。


「いつも思ってたんですけど、ここって文芸部ですよね?それなのにそれっぽい活動してないからなんでだろうな〜って思ってたんですけど。なんでなんです?」


 元気はいいが、頭の上にはこれでもかというくらいハテナマークが飛びっている。


「ネタ切れ」


「え?」


 みんなが声のした方向を一斉に見る。すると、そこには黒髪ボブカットで眼鏡をかけた少女がいた。


 彼女の名前は上霜うえしも しずくという。僕と同じ二年生で、この文芸部と図書委員の両方を兼業している。


 雫はいつもグレーのパーカーを羽織っている。本人に聞いてみたところ、『男子の視線がうざい』とのこと。どこがとは言わないが、確かに大きい。何を食べたらそんなんになるのか逆に聞いてみたいくらいだ。


 そもそも雫の性格は、とてもめんどくさがり屋なのだ。さっきの発言も最低限しか話していない。じゃあ何故図書委員会なんかに所属しているんだ?と思った方も多いことだろう。これも本人から聞いたことなんだけど『1人で落ち着けるスペースが欲しかった』とのことだった。なので、昼休みに図書室に行けば大体会える。校内では『図書室のぬし』なんて呼ばれるくらいだ。


 では、またまた疑問に思った人もいると思う。じゃあなんでめんどくさがり屋な雫が、文芸部に所属しているの?って。それは雫が美桜先輩のことをとても慕っているからだ。入学当初、何やら美桜先輩にお世話になったことがあったらしく、そこから美桜先輩のことを慕っているんだとか。


 まあ今回の紹介はこれくらいでいいだろう。え、まだあるの?って。


 まあない事もないかな。


 僕たちが雫を見ていると、静かに話し始めた。


「多分文芸部としてのやる活動がない。だから美桜先輩は毎日こういうことをしている」


「あー、だから最近はなんかトランプやったり人生ゲームしてたりしたんだね。納得納得!」


 あいりが1人納得したのかうんうんと頷いていた。椿はそっと目を閉じて俯いている。


(椿は眠いのかな?そっとしておいてあげよう)


 みんながみんなで納得している中、美桜先輩はわたわたとしていた。


「み、皆さん!確かに最近ネタ切れなところはありますが、別に苦し紛れで言ってるわけではなくってよ。ちゃんと計画を立てることによってスムーズに動くことができる。そう、だから必要なことなのですわ!」


 何やら美桜先輩も自分に言い聞かせるように言い出した。


「桜玖さんは先ほどから何も話しませんが、どうお考えなんですの?」


「え?」


 僕は話を振られるなんて一ミリも思っていなかったから油断していた。当てられたことにより、僕の肩はビクリと跳ね上がった。


「え、えっと。何を言えばいいんですか?」


「今夏休みの予定を決める必要があるかないかですわ!」


 美桜先輩の言葉を聞いた椿は、目をゆっくり開けてから誰に対してもなく呟く。


「なんか趣旨が変わってる気がするんだけど、これでいいのかしら?」


「うーん、いいんじゃない?考えても面倒くさいしさ!」


 そう言ったあいりは机にぐでーっとうつ伏せの状態で体を預けた。


「さぁ!さぁ!桜玖さん、あなたの回答で世界が動きますわよ!」


「僕の回答はそこまでの影響力はありませんよ。まあ必要か必要でないかでいったらやってもいいんじゃないですか?」


 僕の回答にお気に召したのか、ものすごくキラキラとした瞳でみんなを見回す。


「聞きました、皆さん!桜玖さんが必要とおっしゃいましたわ!」


「え、僕は必要とは「桜玖さんが必要と言ったのだから今決めましょう!」


 もうこうなってしまっては、先輩を止めることができる人はいない。僕は早々に諦めて口を閉じた。


「それじゃあこれから夏休みの計画を決めますわよ!」


 ハイテンションな美桜先輩がみんなを見回しながら言う。


「ここって文芸部だよね?」 


 僕の発した言葉は誰も反応することなく、虚空へと消えていったのだった。


 なんか僕への扱い雑じゃない?






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