ゴールデンウィークに別荘へ!


 四月も終わりを迎え、今日からはゴールデンウィークの始まりだ。

 そんなわけでわたしたちは伊豆半島にある別荘へとやって来た。


「うわぁー、さすが金持ちだね。こんな大きな別荘があるなんて……」

「ワシまで来てしもうてよかったのかの?」

「うん。人数少ないとやることなくてつまらないから」


 今年は陽菜と未来ちゃんも連れてきた。副産物として勇者とセシリアまで着いてきてるのだが、それはまだ良い。


「でもなんで先生までいるんですか」

「未来ちゃんが豪邸に行くっていうから一人じゃ不安だったからね。それに先生もいた方が楽しいでしょ?」


 ばっちりとウインクを決めてくる美人教師だが、せっかくの旅行に教師がついて来たら子供たちはどう思うだろうか?

 これが普通の小学生なら喜んでいただろう。けれど、中身はこの通り全員成人済みだ。未来ちゃんは老人だし、わたしに至っては三百歳だ。休みのときぐらいはしっかりと息抜きをしたい。夜は早く寝るように言われ、朝はロクでもない時間に起こしてくるに決まってる。

 ……ところでこの美人教師は未来ちゃんとどういう関係なんだ?


「夜ちゃん。先生は未来ちゃんのお姉ちゃんなんだよ」

「…………は?」


 陽菜は知っていたかのように頷いていた。

 なんで陽菜は知ってるの!? 知ってたなら教えてくれてもよくないか!?


「だって朝言われた……って夜は寝てたか」

「うん」


 わたし、実は今さっき起きたばかりなんだよな。朝起きたら知らない天井でビックリしたよ。だれか一人ぐらい起こしてくれても良かっただろうに……。

 幸い荷造りは昨日に済ませてあったので、問題はない。みんなで遊べるトランプやバトミントンのセットも持ってきているから問題なく遊ぶことができる。


「先生、結婚したからね。苗字が変わってるけど、未来ちゃんのお姉ちゃんだから……そういうわけでよろしくね。あっ、クラスのみんなには内緒にしておいてね?」

「べつに話すほど仲良しな人なんて他にいない」

「先生、それはそれで心配なんだけど……」


 というかこの美人教師、結婚してたのか。あのオバサン教師はもうすぐ定年なのに未だに独身だからな……やめてあげよう。さすがに今回のはオーバーキルだ。ちょっとからかう分には問題ないが、これは精神を砕きかねない。


 それから内部に入って部屋を案内する。部屋数は家と同じぐらいしかないため、一部屋に二人ぐらいで眠る形になった。

 部屋割りは身内同士で行った。

 そんなわけで今回わたしと合部屋になったのはもちろん乃愛……ではなく、凪……でもなく、皇太郎だった……。


「お姉ちゃんと一緒が良かったなぁ……」

「しばらくはお兄ちゃんと一緒だからな。一緒の布団で寝ような」

「…………」


 アリスちゃんほどの気持ち悪い視線ではないものの、それは立派なシスコンとしての視線だった。わたしは皇太郎を冷たい目で見る。

 人数関係と男女比の問題で仕方なくこうなってしまったのだが、それは陽菜も一緒だ。多少なら我慢してやろう。

 凪と乃愛の部屋以外にはベッドが一つずつしかない上に、予備の布団がないのだ。そもそもこんなに大人数で来ることなど想定されていないからな。ヴァルター・鈴木がお留守番で良かった。もしアイツも居たら大惨事になる所だった。


「さすがに見ず知らずの他人と同じベッドとかキツいもんね……」


 わたしと陽菜は全員と知り合っているわけだから問題はないが、美人教師と乃愛の場合とか美人教師と凪の場合だとかなりギクシャクしてしまうだろう。……これは全部美人教師が悪いな。


「夜! 遊ぼー!」


 軽く荷解きをしていると陽菜の声が聞こえてきた。荷解きと言っても、遊ぶ物とジャージが入っているだけなので大した物は入ってない。残りは全部、凪が持ってきているからあとは勝手に凪が全部やってくれるだろう。


「仕方ないな、お兄ちゃんもついて行ってやるか」


 いや、別にいらんよ。一人で良い。一人で十分だから手を繋ぐのはやめろ。おい、話を聞けや。

 わたしは皇太郎に無理やり手を繋がされて部屋の扉を開けた。

 するとそこにはわたしと同様に、勇者に手を繋いでいる陽菜の姿があった。陽菜とわたしは目が合うと、互いに苦笑した。


「さすがシスコン勇者」

「そういう夜ちゃんはブラコン魔王様かな」

「…………」


 陽菜に殴っても良いかとジェスチャーを送ってみたが、陽菜は首を横に振った。

 ブラコンなのはお前の妹じゃねーか。


「そっかぁ~! 夜は魔王様なのかぁ~!」

「キモっ」


 皇太郎の言動があまりにも気持ち悪くて思わず口に出てしまったが、この脳ミソお花畑な兄には届いていないようだった。

 まるで魔王様という厨二属性の痛々しい妹が最高だと言わんばかりのような顔でこっちを見てくる。

 事情を知らないだけに何も反論できないのがツラい。


「もういい。陽菜、行こっ」


 わたしは空いている右手で陽菜の手を掴み、未来ちゃんたちがいるであろうリビングに向かった。


「お飲み物は何に致しますか?」

「ワシは何でも良いぞ」

「私は未来ちゃんと同じもので」


 未来ちゃんが一番最初に言った。それに合わせるかのように先生も同じものを頼んだ。

 それを見て二人以外のこの場にいる誰もが「お前ら勇者だな」という視線を送った。

 まあ、本物の勇者もそこにいるんだがな。


「私はアイスティーでガムシロップとミルクは一つずつ」

「わたしもアイスティーでガムシロップ二つとミルク一つ入れておいて」

「俺はコーラでいいや。レモンはいらない」


 乃愛、わたし、皇太郎の順番に注文していく。陽菜と勇者はオレンジジュースとコーラを頼んだ。

 いやぁ~、それにしても美人教師と未来ちゃんは勇者だな~。


「何でそんなに具体的に注文するんじゃ?」

「勇者は言うことが違うね」

「夜ちゃん、アレが本物の勇者というヤツだよ。しっかりとその生き様を見送ってあげようじゃないか」


 魔王わたしと勇者が息を揃えてうんうんと頷く。それと同時に大変なことをしてしまったのではないかと不安を煽られ始めた未来ちゃんと美人教師。

 未来ちゃんはオロオロと慌てているが、美人教師は比較的冷静だった。……首筋辺りに冷や汗が見えたけど。


「いったいなにがワシを待ち受けているんじゃ!?」

「時が来ればわかるよ」



 ◆



「なあ」


 未来ちゃんが目前に置かれた『お飲み物』を見て口を開いた。


「これはなんじゃ?」

「カレーだよ、見ればわかるじゃん」


 未来ちゃんが指をさしながら訊いてきたから、わたしは淡々とそれに答えてアイスティーを口にする。


「そうじゃないんじゃよ! どうしてカレーがカップに注がれて目の前に出されてるんじゃよ!?」


 カレーが入ったカップが二つ、横に並んでいる。具材はジャガイモとニンジンと……たまねぎぐらいだろうか? 味は激辛と見た。


「まあ毒物じゃないし大当たりだと思うよ」

「お主のメイドは粗茶として毒物を出してくるのかッ!?」

「さすがにわたししないよ」


 せいぜい極限まで酸っぱくしたレモンジュースが限界だよ。


「懐かしいな。私のときはメルトリリスのおしっこだったよ……」

「俺のときはカラスの糞だったな……」


 陽菜と勇者が遠い目をしながら自らの過去を語った。二人の言葉を聞いて自分はまだマシな方だったのかと考え、未来ちゃんはカレーを口に含んだ。


「辛ッ!?」



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