勇者と魔王、地獄の超会議


 円卓に集いし勇者たちと魔王による緊急会議が始まった。


「まあ円卓ないんだけどね!」

「陽菜、茶化すでない」


 確かに円卓テーブルは長方形なので陽菜の言う通りなのだが、今はそういう問題じゃない。


「さっき、学校でシャドウウルフと戦闘をした」

「夜様! お怪我はッ!?」


 わたしと未来ちゃん以外、全員が目を見開いたが、一人だけ異なる思考をした執事がいた。

 執事として心配するべきことではあるんだろうけど、論点が違う。


「隠し持っていた手裏剣に魔力を込めて投げつけたらあっさりと消えたから大丈夫だよ」


 勇者たちは何故手裏剣を常備しているのかという顔をしていたが、ヴァルター・鈴木は安堵の息を洩らしていた。


「かなり弱かったけど、闇の魔石の欠片を拾ったからまだこれは始まりに過ぎないのかもしれない。だから、なるべく手短にあるもので武器になりそうな物を常備しておいて」


 わたしが真面目な話をするとヴァルター・鈴木はもちろん、勇者たちも頷いた。


「なあ、その魔石。こっちで預かってもいいか? セシリアなら何かわかるかもしれないしさ」

「ふんっ、好きにすれば」


 わたしは勇者にそう言われてちょっとムカついた。面倒だったのでセシリアに魔石の欠片を投げ渡した。


「なんでそんなに不機嫌なんだよ」

「お主とこっちで再開して六年。夜もそれなりに打ち解けてきたつもりなんじゃよ。それなのにどっかの誰かさんは疑い続けて……踏みにじったんじゃよ。夜という少女の気持ちをな」


 未来ちゃんが勇者に説明していた。

 勇者は説明しないとわからないのか。どうしようもないな。あと未来ちゃん、少女言うな。魔王としての威厳がなくなるだろ。いや、もう無いにも等しいけど。

 でも一応ヴァルター・鈴木に対してならあるし! 部下に指示できるぐらいの威厳ならあるもん!


「お兄ちゃんサイテー」

「うぐっ!」

「もう魔王じゃないのに信頼しないとは、勇者がそんな人だと思いませんでした」

「グフッ!?」


 陽菜とセシリアからの追い打ち。珍しく勇者の仲間たちが勇者に攻撃してる。

 ……セシリアって最初の頃はわたしのことを「魔王死すべし慈悲はない」とか言って噛みついてきたよな?

 勇者も大概だが、お前も十分ひどいぞ。


「夜ちゃん。えっと、その……痛っ。……疑ってすみませんでした!」


 途中、言い訳を言おうとしたのだろうか。言葉を選んでるように見えたが、陽菜が勇者の腹を殴ると勇者は考えるのをやめて素直に謝ってきた。

 変な言い訳をされるよりかは素直に謝ってくれた方が嬉しい。……まあ、強要されて謝るのはどうかと思うけど。


「今度から気をつけてくれればいいよ」


 それ以外にかける言葉がなかった。

 ヴァルター・鈴木は「チッ、夜様の恩情に感謝するがいい」などと小言を宣っていた。

 そして会議も終わったので解散とし、わたしは「陽菜と宿題を終わらせてから帰る」とヴァルター・鈴木に伝えて先に帰らせた。

 わたしと陽菜は陽菜の部屋に場所を移し、早速今日の宿題である『算数ドリル』と『漢字ドリル』に手をつけた。


「漢字ってなかなか覚えられないよね」

「そうだね。でも夜はそれだけでしょ? 私なんて算数すらも難しいと思うんだけど」

「……まあ、予算の会計とか全部一人でやってたし」


 魔王って実は忙しかったりするんだよ。いつまでも玉座で「フハハハハハハ」とか言ってられないんだよ。


「鈴木とかにやらせてなかったの?」

「アイツらに任せるぐらいならおつかい係のメイドに任せた方が百万倍マシだよ」

「えぇー……」


 陽菜が「魔王軍ってそんな感じなの?」と言わんばかり目でこっちを見てくる。だが、実際に陽菜の思った通りだったりする。

 ヴァルター・鈴木もそうだが、アイツらって基本的に強ければ偉い人になれる思考で動いている。

 ……簡単に言えば魔王の配下たちは揃いも揃って脳筋だということだ。


「一番偉い人なのに、一番仕事が多いだったよ……」

「魔王って書類に目を通してサインしたらあとは奴隷のように部下たちを扱ってるイメージあったんだけど、全然違ったんだね……」

「わたし、悪魔じゃないんだけど」


 これに限った話じゃないけど、勇者たちの中の魔王のイメージって大抵部下たちを捨て駒のように扱っている殺戮者的なイメージが多いよな。

 どうして人間はそういう変なところだけを切り抜いて度合いを飛躍させるのだろうか?

 むしろその才能がスゴいと思えてくる。


 それから宿題を終えるとわたしは陽菜に帰ることを伝えて高橋宅を出た。わたしの家はすぐそこなので、一直線に帰る。


「ただいまー!」


 玄関を開けると『匂い』が漂ってきた。

 この匂いは間違えなくだ。

 そう――――


「カレーだッ!!」


 みんな大好きカレーだ。

 カレーは素晴らしい。食べやすくて美味しい。何よりこういった庶民料理は家では滅多に食べられない。

 わたしが食べられる肉系の料理はステーキがメインであり、以前陽菜が自力で作ったと自慢していた『豚のしょうが焼き』という食べ物すら食べたことがない。

 以前、凪に「庶民料理を食べてみたい」と伝えてみたところ、その日の夕食は『卵かけご飯』だった。

 『ご飯』に『キャビア』を乗せただけの虚しい料理だった。庶民はこんな料理を普段食べているのかと、度肝を抜かされた。


 ――――が、翌日、陽菜に確認してみたら全く違うとのことだった。

 その日の放課後、家に帰るなり凪に文句を言ってみて出てきたのがこの『カレー』というわけだ。

 そのとき皇太郎や乃愛の反応が良かったためか、それ以降一ヶ月に一度だけカレーが夕食のメニューに組み込まれることになった。


 給食でたまに見かけたカレー……もしかしたら給食というのは本来の庶民料理を言及したものなのかもしれない。


「お嬢様、先に手を洗ってきてください」

「はーい」


 手を洗うと、わたしは体操着が入った袋を洗濯かごに入れてリビングに向かった。

 時間が時間だったので、そのまま夕食を食べることになった。

 ランドセルはヴァルター・鈴木に預けて部屋まで運ぶように言った。


「今日はカレーか。良い匂いがするな」

「あっ、夜。帰ってきてたんだね。おかえりなさい」

「ただいま、お姉ちゃん」


 皇太郎と乃愛がリビングに入ってきて席に座った。いつも通りわたしの右隣に乃愛が座って、乃愛の正面に皇太郎が座る。

 わたしの左隣には凪が、凪の正面にはヴァルター・鈴木が座る。両親がいるときは凪たちとは別々で食べるが、基本は一緒に食べている。


「じゃあ……いただきまーす!」


 わたしがそう言うと、乃愛と皇太郎も「いただきます」と言ってカレーを食べ始めた。

 凪とヴァルター・鈴木もわたしたちが食べたのを見てから食べ始めた。

 やっぱりカレーは最高だね!


 カレーを食べ終えると、わたしは部屋に戻って明日の準備をする。


「明日は音楽かぁー……」


 またリコーダーだろうな。全然上手く吹けないというのに、それでもこのわたしに無理矢理リコーダーをやらせようとするとか、この国の教育も頭がおかしいな。


「あとは算数と理科と社会……かな?」


 一時間目に『道徳』という授業があるのだが、今のところ何の授業なのかよくわからない。どちらかというとドッチボールなどで楽しむ遊びの時間である。

 まあ、それはそれで楽しいから良いが。


「夜、一緒にお風呂入らない?」

「うん! 入る!」


 乃愛がお風呂に誘ってくれたので、わたしは今日も乃愛と一緒にお風呂へと向かった。



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