&α ENDmarker3.

「みつけた」


「あ」


「みつけた。みつけたあ」


 よれよれと、倒れ込む彼女。とっさに支えた。


「メールもお問い合わせ欄も変わってるし。どこ行ったかわかんないし。ねえ。なんで。わたし。探したのに」


「いや、殺せそうにないなと思ったから、契約破棄を」


「なにそれ」


「お金は置いといたでしょ。それで勘弁してくれ。俺にあなたは殺せない。殺せなかった」


「なんのはなし」


「最初から、しんでいたあなたを。一度生き返らせて、その上で、殺そうと思った。でも、生き返らせたら、なんか。殺すのが惜しくなっちゃって」


「わたし。そんな昔のこと覚えてない」


「都合がいいな」


「いかないでよ。わたし。あなたがいないと」


「俺がいなくても、あなたは前の生活に戻るだけだよ。携行保存食と、シャワーと、アイドル。それがあなたの生きるカタチだ」


「しらない」


「駄々をこねない。終わったんだから。終わり。俺のことは忘れて、アイドルでもやってなさい」


「むり」


「なぜ」


「みんなが。わたしの声に、何を重ねていたか。わかっちゃった。わたし。もう。人のための歌を、歌えない。アイドルとしての商品価値が。ない」


「そんなことないでしょ」


「わたし。あなたしか。見えない」


「あっそ」


「ねえ」


「俺は、別にあなたでなくともいい。もともと、人を好きになりやすいタイプなんだ」


「じゃあ、何で殺し屋なんてやってるの」


「それは」


「殺してほしいんじゃ、ないの。自分を」


「ちがう。いや、違わないか。俺の心は鋼で出来てて、しねないんだ。だから、他の人間を殺して生きてる。それだけ」


「うそ」


「うそじゃない」


「わたし。たくさんいやなことがあって。もう、思い出せないけど。気付いたらアイドルやってた。そんな人生だった。昔のことが思い出せないの。記憶がないの。なくなっちゃうの。すべて。あなたのこと。忘れたくない」


「俺には好都合だ。忘れてくれれば嬉しいよ。そろそろ離れてくれ」


 腕を。振り払った。


「わたしの、こと。好きじゃ、なかっ、た?」


 泣きはじめる。


「嫌いだよ。殺せなかったし。顔も見たくない」


「そっ、か」


「じゃあな」


「うん。ごめんなさい」


 彼女は。

 いずれ、死ぬのだろう。

 人には、それぞれ、カタチがある。生きるカタチ。死ぬカタチ。そのどれもが、いびつで、不揃いだった。自分もその一つ。

 だからこそ、寄り集まって、足りないカタチを埋めようとする。彼女と自分のカタチは。交わらない。

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