第3話 ボサボサ頭とイケメン男子

 慌ただしく教室に男子生徒が飛び込んできました。

 寝坊でもしたのか頭がぼさぼさ気味です。


「ちょちょちょちょう~聞いて聞いて!」


 イケメンの賢そうな男性生徒の前にくると前のめりに話を始めた。


「昨日の夜さぁ~すごいものを見ちゃったんだって俺!」


「何々UFOでも見つけて食べたの?」


「ある意味UFOに近いのか? そうそうお腹すいてたんだよ~。って違うよ!」


「だから何なんだよ。美味しかったの?」


「確かにお腹は確かに減ってたし~UFOは家にあったんだけどそうじゃ無くて!」


「あったんだから食べればいいじゃんよ……」


 どんどんイケメン男子の返事が粗雑になって行きます。

 耳の穴をかっぽじって聞きたいわけではないでしょうが、右耳をホジホジと弄りだし何故か他の女子から黄色い声が聞こえます。


「違うんだって! 聞けよ!」


「いや聞いてるじゃん……」


「見たんだって!」


「UFOを?」


「なぁ、ちょっとUFOから離れよう。そうじゃ無くて見たんだよ!」


「だから……何をだよ……」


「でも言っても信じないんだろうな~」


「かもね……だから聞かない」


「信じてくれないだろうけど俺は言いたいんだよ! 聞いてくれよ~」


「じゃあ、勝手にしゃべれば? 耳の穴は開いてるし」


 そう言ったイケメン男子は逆の耳をホジホジと掘り開きます。


「そうか開いてるよね。実はさぁ……」


 ボサボサ頭の彼が言い始めたその時。学校のチャイムが鳴り始めました。


『キーンコーンカーンコーン♪』

『キーンコーンカーンコーン♪』


 そして、鳴りやむ前に〝ガラガラ〟と教室の扉が開くと教師が入ってきます。


「クソー今から良いところだったのに~」


「良いところも何もないだろ、何にも言えてないし聞いてないし……」


「じゃ後でな、絶対聞いてくれよ~」


 そう言いながらボサボサ頭の男子生徒は自分の席にと走って行きました。


「わかったわかった」


「起~立! 礼 着席」


 学級委員長からの号令が掛かり授業前の挨拶が行われます。




 その後、最初の休憩時間がやってきて、ボサボサ頭もバタバタとやって来る。


「さっきの続きなんだけどな」


「おうおう、分かったから好きなだけ話せ。俺はお前の話よりも今週の漫画ひと繋ぎの服が気になる」


 イケメン男子はそう言うと雑誌をペラペラとめくり読み始めた。


「まあいいや、でも聞いてたらきっとビックリするぜ!」


「まじか! まじか!」


「イヤまだ話してない……」


「コイツ男だったのか! 嘘だろ~」


「え? 誰が男だったの?」


「この女剣士が男だったんだよ~! まじか~ショックだわ~もう俺、立ち直れない授業受ける気ゼロ」


「いつもゼロじゃん……驚くのはそこじゃないんだよ! そんなことよりいい加減聞けって!」


「あーもう聞く気もゼロ~」


 イケメン男子はアメーバのように机に突っ伏してしまう。


「実は昨日見たんだよ~」


「……」


「体操服を着たスカートがパジャマの女を担いで歩いてるのを!」


「何? 俺を担いでるの? ……スカートは体操服を着ないだろよ……」


「担がないよ! 体操服を着たスカートだよ!」


「そんなのどっちでもいいよ……何~脱いだ女が体操服とスカートとパジャマを担いで歩いてたの?」


「脱いだんじゃないよ! 着てたの!」


「お前の頭がキテてそうだけどな」


「きてないよまだ……」


 ボサボサ頭が生え際を気にしおでこを両手で揉み始める。


「そこじゃなくて中身だよ?」


 呆れた声でイケメン男子が呟いた。


「そうそう! 中身が無かったの服は着てるのに!」


 それに対してイケメンの男子はハンカチを取り出すと両手でソレを目の前で気怠そうに垂らし同じく気怠そうに呟く。


「服を持った女がこう~前に服を干しながら歩いてたんじゃないの?」


「そんなの見間違えないよ~男か女か分からないけど確かにパジャマの女を担いで……おぶってた」


「そのおぶってた女はなんで女だって分かったんだ?」


「髪も長かったしパジャマがピンクだったから……」


「ふ~ん。で? 担いでた方は男か女か分からなかったの?」


「頭が無かった判別できなかった……」


「えっどういう事? デュラハン!?」


「ちょっとは興味出た?」


「女で別嬪だったらね~。で? ソイツは頭とか持ってなかった?」


「イヤ頭は持ってなかったな~パジャマの女をおぶってたから」


「そうか~頭は無かったのか~じゃあデュラハンでは無いな」


「凄くない!? 頭が無いのにパジャマの女をおぶってたんだよ!」


「手が無くておぶってたら凄いとは思うけど?」


「でも服が女をおぶってたんだよ!? おんぶしてたんだよ?」


「フク? 何? お前の新しい知り合い?」


「フクじゃないよ! 服だよ!! 服」


 必死に自分の制服胸元を前に何回も引っ張るボサボサ頭。


「フクダ? 福田? ふく……だれソレ……」


 つまらなさそうに言葉を返すイケメン男子。


「だから! 違うんだって!」


「何が違うの……? あー福沢先生?」


「もーなんでわかってくれないかなー」


「そりゃ~お前の頭が悪いからだろ……」


「そりゃ~俺はバカだけどさ~分かりやすく言うと透明人間がパジャマの女をおんぶして歩いてた」


「またまた~透明人間は見えないだろうよ~何? 包帯でもグルグル巻いてたの~でもそれじゃ~ミイラ男じゃん。女かもしれないけどさ~」


「だから違うんだって服は着てたの!」


「えっと~服を着た透明人間がパジャマをおんぶしてたって事?」


「ん~そうなるのかな~そうなのかな~ん~」


「ハッキリしないやつだなぁ~」


「でも、足が無かったから幽霊かもしれない!」


「イヤイヤ待てよ。幽霊はパジャマをおんぶ出来ないだろ~」


「そう言われてみればそうか~。そういえば手も無かったんだよね」


「それじゃ~おまえダルマだろ」


「イヤそんなに丸っこくはなかったよ! 体操服におんぶされたパジャマが居たんだ」


「スカートを履いて?」


「うんスカートを履いて」


「体操服なのに?」


「うん体操服なのに」


「またまた~。でもあれか想像するにスカートの下にジャージ履いてる女子ならよく見るよな体育終わりとかに……」


 イケメン男子は教室内をグルリと見渡すが体育終わりでもないので一人も見当たらなかった。


「でしょ! でも……ジャージは履いてなかったけど」


「じゃあさぁ~ジャージ履いてもないのになんで足は無かったって言えるの? 黒いタイツでも履いてたんじゃないの?」


「だって靴も履いてなかったし……」


「それも凄いな。手が無いのにおんぶして、足が無いの歩いて、頭が無いのに考えて」


「いや考えたかどうかは知らないけど……」


「いや考えてもみろよ! そんな非現実的な事ってあるか? 夢でも見てたんじゃないの?」


「そんなわけないよ~だってコンビニに向かってたんだぜ! 腹すかせて~」


「そうか・そうか。で? UFOは見たの買ったの食ったの?」


「見てないし買ってないし食べてない……。違うよ! UFOは家に元からあったんだって……そうじゃ無くて。追いかけて見失っちゃって気が付いたら家の近くまで来てたのでそのまま帰った……」


「じゃあ~コンビニに向かったの無駄足じゃん」


「う、うん。確かに無駄足……でも足が無かったのはホントなんだよ?」


 ボサボサ頭の彼が呟いたその時。二時限目を告げる学校のチャイムが鳴り始めました。


『キーンコーンカーンコーン♪』

『キーンコーンカーンコーン♪』



(ヤ~バイ。私てばクラスメイトに見られてた!)

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ダメな私の〇〇〇〇 た~にぃ @Rosenrtr2007

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