序章

序章

遡ること約1000年。たかが1000年、されど1000年。今の『和候国』がかつて二つの国に分かれていた時のお話。


この国が二つに分かれる更に前、『候国』と呼ばれる国があった。その国は非常に身分格差が大きく、今では考えられない程子供が路頭に迷っていたと言われている。まだまだ未発達の国ではあったが、一部の層が下の者を搾取する図がほとんど完成されていたのだ。しかし、その中でも一発逆転の下剋上を狙うことが出来る職業が存在していた。


それが、『陰陽師』。


『陰陽師』と聞くと今の時代では“伝説”とされている中の一つだが、実際に存在したのだ。摩訶不思議な現象が証明されていなかったその時代では、陰陽師と言う職業はそれはそれは重宝されたと言う。きっと、分からない現象に対処してくれるのが彼らしかいなかったからだろう。


では、何故彼らの職業が一発逆転を狙うことが出来るのか?


それは、候国がずっと前から政府の指針としていた身分の中でも、陰陽師は貴族と同等の身分を持っていたからである。しかも、その陰陽師の中でも特に優秀な人間は貴族よりも上の身分を貰うことが約束されていたからだった。


しかし、そんな陰陽師になるのには条件があった。


それは『霊力』である。


彼らの職業は必ずと言っていい程、『式神』を扱うのだ。その式神は、霊力がない限り見えない、使えない、聞こえないのである。その為、この霊力を持ち合わせてない限り陰陽師になるのは厳しいと言われている。


だが、この時代では見えない物を信じるからなのか、そこら中に霊力が漂っていた。その為、大抵の人は微かに見えることは出来るのだ。もちろん、訓練することにより霊力を高めることは可能ではあるが、それは並大抵の努力では得ることは出来ない。


生き延びる為、はたまた自分の幸せの為、その陰陽師になる為に修行する輩が多いのであった。




しかし、その候国の天皇、所謂その国のリーダーが病死したと言う訃報が入った。




突如、空いてしまったトップのポジション。まだ後継者を決めていないこともあり、次の天皇を決めるための後継者争いが勃発してしまったのだ。故・天皇には2人の息子がいたのだが、これが異母兄弟であり、更にその仲が最悪であったのは周知の事実であった。彼らの争いは宮廷だけでなく、周囲をも巻き込む程の規模へと変わって行った。



そんな争いが続く中、更に拍車をかけるように訃報が知れ渡った。




『安倍晴明の病死』だった。




『安倍晴明』はその名を知らない人はいないと言われる有名な陰陽師。もとい、陰陽師のトップだったのだ。彼の逸話は数知れず。それが全て真なのかは定かではない。しかし、その実力は自他共に認めるものである。


そんな彼が亡くなったと言う話が出回った。それをいち早く知ったのは、もちろんあの兄弟。ここで、兄派閥と弟派閥で元々別れていた陰陽師が表立って争うことに発展したのだ。


既に身内の皇族や貴族も派閥に別れており、悲しきかな、暗殺を企てている内容までも耳に入るようになった。そこで、仕掛けたのは弟派閥の貴族だった。敵対している兄派閥に兄を暗殺するように陰陽師に依頼したのだ。


しかし、それは失敗した。それにより、宣戦布告と受け取った兄派閥は弟派閥へと戦争することを知らせる文を書いた。



そこから始まったのが「第一次陰陽師戦争」。


その争いは何年にも渡って続いたと言われている。文字通り、陰陽師による代理戦争だった為、皇族や貴族たちは実質的には被害は全くなかった。もちろん、彼らによる戦争は普通の人間では太刀打ち出来ない。その為、彼らの霊力が尽きるまで、兄と弟の気が済むまで続くのだろうと予想されていた。



だが、その争いに終止符を打ったモノがいた。



それは、安倍晴明が扱っていたと言われる『十二天将』。



彼らが現れた時に皆驚いた。何故なら、既に主人を失った式神は自身で召喚することは出来ない。つまり、誰かの力を借りないとこの場にいることが出来ないからだ。そんな彼らを目の前にしてほとんどの陰陽師達は恐れをなして動けなかったと言う。



そこで、彼らの中でも中心人物である「貴人」がこう言った。



「これは、我らが主人であった安倍晴明様の遺言である。『我が死んだ後、陰陽師による代理戦争が起こるであろう。その時には、お前ら十二天将が止めるんだ。その時の手段は問わぬ。どんな形でも良い。一時的な平和でも良い。平和で、安全な世の中にする為に。』……以上だ。今からお前らに選択を与えよう。ここで我らに殺されるか、今すぐ戦争を止めるか。」



彼の一言により、全員が武器と言う名の式神達を置いた。次々に消えていく式神。それを遠くから見ていた兄派閥と弟派閥は怒り狂ったと言われている。


しかし、ここで全員を滅ぼされても困る。これから、誰に頼って争いをさせればいいのか、そう考えたのだ。自分たちは決して犠牲になりたくない、彼らの考えは丸見えだった。


結果的に、彼らは仕方なしに協定を結ぶことになった。お互いのことに関して干渉しない、不可侵条約だ。この内容には、このようなことが書かれている。



『この戦争は一旦、休戦するものにする。また、相互の立場を考えて一時的に国を二つに分けること。兄の国は『和国(やまとのくに)』と名乗り、弟の国は『華国(はなのくに)』と名乗るとする。和国と華国の武力である陰陽師は平等の力関係になるように分けるモノとする。また、安倍晴明が扱っていた十二天将も同じく平等に分けるものとする。』



まだまだ内容は多いし深いところまで書いてあるのだが、これが全国民が知る内容となった。


いきなり国を二つに分けると言われて戸惑う者がほとんどであった。親族と別れることになった者もいた。親と離れ離れになってしまう子供もいた。それでも、戦争をしないよりかは良いだろうと考えた両派閥がこれに合意して、一つの国が二つの国へと変わってしまう風変わりな国が完成した。



そして----


休戦から約90年ほどが経った和国で、ある1人の奴隷少年がいた。


長い長い年月をかけて、やっとの事で二つの国の基盤を築くことが出来ていた。しかし、それと同時に両親を亡くした又は身寄りのない子供が多く発生し、犯罪の温床になっている場所も多くあった。

その少年もその中の1人。身寄りがなく、自分が何者かも知らない彼はただの10歳の少年。しかし、産んだ親が付けたと思われる名前が辛うじて彼の存在意義を示していたのだった――――

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