葡萄畑の空

空色えま

第1話 卒業。

笹井愛ささいまな!卒業おめでとー!」

ガバッ!

「うわっ!」


今日は短大の卒業式だ。

                _________


 高校3年の時、特に夢もなくやりたいこともなかった私。

だけど何となく進学はしなくちゃなー、て感じで高校で1番仲のよかった友人の中野沙耶なかのさやと同じ短大に行くことにした。学科は国際文化コミュニティー学科。

フライトアテンダントを目指していた沙耶は留学制度やインターンシップもあるこの学科に入るのが夢だと高校1年の時から言っていた。私はそんな沙耶の言うことを


「ふーん。」


と聞いていただけ。

だけど高校3年になった時、周りのみんなが進路を決めていく中、私は9月になっても何がしたいのか、どこに進学したいのか全くわからないでいた。

そんな時、沙耶が何気ない会話の中でポツリと言った。


「高校が終わったら愛とも離ればなれかー・・・。寂しいなぁ。」


そうか。


沙耶と同じ短大へ進学できるなら、それは私の今したいことになるのかもしれない。子供の頃からの夢に一歩ずつ近づいていく沙耶のそばにいたら、私も何か夢を見つけられるかもしれない。

そう思ったのだ。

成績もそこそこだった私は、そこから何とか受験に間に合わせるため、必死で勉強した。

そして何とか合格。

何を勉強したいかなんてどうでもよかった。親友と同じ短大に通える事は何よりも嬉しかった。

だけど短大に入ってからは、沙耶は留学プログラムに申し込み、1年の秋から1年間、カナダへ留学に行ってしまった。

自分の夢に向かって、英語の勉強も頑張っていた。

私はとゆうと、沙耶と同じ学校に行きたいという単純な理由だけで学校も学科も選んだから、特別学校の授業で興味のあるものがあったわけでもなく、何となく課題をこなして、何となく友達と遊んで、何となくアルバイトをしながら過ごす短大生活だった。

たまに留学中の沙耶とテレビ電話で話して、海外の生活の様子を聞いて少し刺激をもらうくらいだった。


「あ〜、私って何にもやりたいことも夢もないままおばあちゃんになって死んでいくのかなぁ・・・」


なんて、時より虚しく考えた。

そしてあっという間に2年間の短大生活は過ぎていった。

                

               __________ 


後ろからガバッと抱きしめられ、驚いて振り返ると、沙耶だった。

薄ピンク色の振袖に紫の袴を履いて、満面の笑みを浮かべている。


「沙耶!ビックリした。」

「何してたの愛?こんなところで。」


卒業式の後、沙耶は就職先が決まったことをゼミの先生に報告に行くため、先生を探しに行っていた。その間私は学校生活の間一番よく通ったカフェテラスに来ていた。もう1度、大好物だったカフェのミルクパンを食べたかった。

だけど、卒業式の日はカフェはオープンしていないことを知らなくて、少しそこで呆然としたあと、近くの席に腰掛けていた。


「あのミルクパン、もう1回だけ食べとこうと思って。でもカフェオープンしてなかった・・・。」

「あらら、かわいそうに。愛はホントにここのミルクパン好きだったよねー。300個くらいは食べたんじゃない?」

「いや、もっとかも。」

「ははははー。確かに。」


そんな他愛のない会話をしながら、静かになった校舎に二人で別れを告げる。


「沙耶は研修いつから?」

「えっとね、来週末から。まずは羽田で研修受けて、関西か成田に行くか、その後決 まるって。」


沙耶は大手の航空会社に就職が決まり、まずはグランドスタッフとして空港で働くことが決まっている。その後経験を積んで、フライトアテンダントに転職することが可能らしい。


「関西に行っちゃったらあんまり会えなくなるね。」

「確かに。そうなったら愛も関西方面で働きなよ!」

「えー。関西弁こわいもん。」

「なんだそれ。父親関西出身のくせに。とにかく!愛もやりたい事見つけて、頑張り なよ!」


私はと言うと・・・結局やりたい仕事も見つからず、企業でパソコンの前に座って働くのも性に合わない。とかなんとか自分に理由をつけて結局就職はしなかった。

アルバイトをしながらやりたいこと見つけていったらいいか。

という感じ。

結局何も変わっていない。

自分の夢に向かって努力してるじとが輝いて見えて羨ましかった。

だけど、どうしたらいいのかわからなかった。

何となくで20年間ここまで過ごしてきてしまった。

夢を追いかけていく沙耶と、心の距離まで離れてしまうんじゃないかと思うぐらい寂しくなった。

短大を卒業した今、このなんとなく毎日を過ごす生活からも卒業したかった。






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