「円環」

 異様に寒い。身が凍りつくような寒さだ。


 まるで吹雪が吹き荒れる雪原に放置されたような感覚だ。思わず、目を開けるとそこにはどこまでも広い晴天が広がっていた。


 周囲には生ぬるい空気が漂っており、当然、吹雪は起こっていない。


「なんなんだよ」


 体の異常に思わず、愚痴を漏らすと急に視界が湾曲したように歪んだ。それとともに喉が干上がったような渇きに侵された。


「がっ、がっ」

 喉や口内が渇き過ぎて唾液が出ない。


 枯渇感はやがて、喉から肺や臓器にすら感じるようになっていく。


 生命の危機を感じた彼は我が子を抱えて、水を探しに出た。


 森を少し進むと、流れの緩やかな小川が流れていた。



「みっ、水だ」


 藁にもすがるような思いで滝壺に顔を突っ込んだ。

「ああ、うまい」


 心身ともに潤い、満たされていく。水だけは彼の味方をしてくれている。


 心が徐々に落ち着きを取り戻していく。すると当然、突きつけるような臭いがトカゲの鼻腔を駆け巡った。



 彼はこの臭いに覚えがあった。忌まわしい臭いだ。


 牢獄で妻を死に追いやり、自身に力を授けたあの臭いだ。



 トカゲはすぐさま駆け出した。近づけば近づくほど臭いが強くなっていく。臭いの元に黒幕がいる。


「ようやく妻の仇が取れる」


 彼の心の中で興奮、歓喜、憎悪など数多の感情が混じり合っていた。

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