異世界にいるお前ら全員、現世に転生させてやる!!

@yoruno-tobari

第1話【完結】俺の能力はおまえらを現世転生できること!

 ゲームオーバー。

 本当にあっけなかった。これで二回目である。

 リセットボタンを押す前にこう尋ねられる。

 「能力の持越しが出来ますよ」

 「マジ!?やったぜ!これで前よりは遥かにイージーだ」…と思ったが、それほど大した能力もなかった。パラメーターは何の変哲もなく、持越しても一からでもほとんど変わらない。

 「気長にまたゼロから始めるのも悪くないか」

 リセットボタンを押した瞬間。

 「おめでとうございます。特殊能力が追加されました」そんなアナウンスが流れる。

 ふと思い出す。

 「そういや、能力の持越しorランダムに特殊能力が追加される神キャンペーンが実施中だっけ」

 「能力の持越しはないが、何かの能力が手に入ったようだ。ラッキー」そう思いながら、意識が遠のいていく。


 またイチからのスタート。

 俺は産声を上げた―――。

 しかもこれで二回目。

 また懲りずに「異世界転生」と言う名のハーレム世界の主人公になれる。前回は本当にあっけなかったのでリベンジに燃えている。

 「俺は絶対に勝つ!目指せハーレム生活!」

 …って、ちょっと待て!

 「なぜだ!?なぜここなんだ」

 この景色。見知った景色。脳が再起動しているような錯覚に陥る。

 「え~と、これはどういう…こと、ここ日本?」

 飾ってあるフィギュアを手に取る。

 「うん、やっぱり。ここは確実に自分の部屋だが!?」

 前回、俺が目を覚ました世界。それは異世界だった。その世界でもあっけなく死んでしまった。だからこそ今回もまたワクワクハーレムが約束された異世界に転生出来るものだと信じ込んでいた。

 「ふっっっっざけんじゃねーよ!ガチのクソゲーじゃねえか」と頭を抱え込む。

 「待て、待て!特殊能力だ!特殊能力が追加されているはずだ。これさえあれば、この日本でも無双できるはず」

 手を地面にかざす。

 異世界で使ってたように呪文を唱える。

 魔法陣が出来、地面が光り出す!

 「うっしゃー!きたぜこれは!激熱!ハーレムコース確定」心の中でガッツポーズをする。

 「なにどたばたしてんの!」

 凄い勢いで扉が開く。

 「…おかん!?」振り返るとそこには仁王立ちの母親。

 「あっ、いや、ま~」と言葉を詰まらせると、急に母親の表情が外行きの顔に変化する。

 「あら~お客さん来ているのね。すみません、あとでお茶とお菓子持って行きます~」

 思考が停止する。

 「??お客さん…だと!?」

 恐る恐る振り返るとそこには…


 召喚魔法。

 俺はやつらをこの現代に召喚し、使役出来る。

 使役と言っても、強制力はゼロだ。しかし、俺の目の届く範であれば、やつらが異世界のときに使っていた能力を再現できる。ちなみにやつらが自分の能力を3回使用すると、異世界に戻ってしまうということも判明した。

 そう、俺のゲットした特殊能力。

 それは「異世界の人間をこの現世へ転生させる」という召喚能力。

 俺が異世界にいたときに、偉そうに先輩面していたくそニートや少し良い能力をゲット出来たと言って、ちやほやされイキがっていた陰キャも現代という荒波の中に転生出来る!

 「ふざけけんじゃねーぞ!」

 何回聞いただろうか。

 一言で言えば、「最高!!!」

 異世界でハーレムを堪能する成功者たちを現世に戻すことが出来るとは。

 ニヤニヤしながら「ざまーねえ、バーカ!」とほくそ笑む。

 俺は人生というゲームの再起を試みる。俺が目指すは一人勝ちが存在しない社会!!ハーレムが存在しない真っ当な社会!!


 だからである―――。

 「俺は逃げる!このまま現世の苦しみを味わいやがれ!くそニート、くそ陰キャどもが!」

 そんなことで、転生魔法を連発しまくり、やつらを現世へ転生させまくった結果、俺は恨みを買い懸賞金を掛けられるはめとなった。

 (ナレーション)

 「富、名声、力、この世の全てを奪い取った男”加藤(あっ、俺の名前は加藤ね!)”彼の逃亡前に際に放った一言が人々を現実へ駆り立てた。お前のハーレムか?欲しけりゃくれてやる…。探せ!この世の全てをそこに置いてきた!男たちは加藤を目指し、夢を追い続ける…!世はまさに戦後最大の大不況!(♪♪~)


 「なんだよ、これは?ここはどこだ!?」

 これで何人目だろうか?

 着実に特殊能力を持った人間をこの現世にぞくぞくと転生させている。

 「炎を扱えるんですね!すごい!これでここでもヒーローですよ!凄過ぎて、ちびりそうっす。ちょっと、トイレに行ってきます!すぐ戻ってきます~!」

 心の中で叫ぶ。「あばよ、くそニート!!!」

 なぜこんな鬼畜な所業を仏の心を持った愛情溢れる俺が出来るのか?

 それはやつらの存在が実際にチートだからである。

 異世界からやってきた(元)人間はお腹は減らないし、キズもたちどころに治るらしい。つまり死ぬことはない!俺の目の届かない場所ではやつらはただの不老不死の一般人なのだ。

 そんな事実を知っていたので、心おきなく逃亡出来る。

 ある時、コピー魔法を操れる魔法使いを引き当てた。あれこれ言い訳をでっち上げ、なんとかお金を複製させることに成功し、俺はとんずらした。だからこそ俺はお金には困っていない。

 懸賞金を掛けられていることもあって、全国を転々と旅しながら、数多くの現世転生を繰り返している。


 俺は開き直っている。正直、一度死んだ。だからこそ、この人生というクソゲーを遊び倒してやると心に誓っている。

 旅に出ると言ったとき、俺の家族の顔は忘れもしない。

 「えっ、何言ってんだこのニートは」そんな顔をしていた。手切れ金のようなお金を渡され、「犯罪だけはするな」と自分の子どもにあるまじき言葉を掛けて送り出された。

 そして、しょっぱすぎる現代社会という荒波の中。元ニートである俺はいろいろな困難に出会った。

 そのときはすかさず、転生魔法を連発して、その場をしのいできた。

 しかし、やはり一人でいると寂しくなる。

 寂しさがマックスの時はかわいい子が転生してこないかと思い、リセマラという大義名分のもと転生魔法を繰り返し「当たり(SSRもしくはUR)」を探したこともあった。

 だが何度やっても、むさくるしい男だけが転生してくる。「最悪だ」と毒づくが、魔法を使うと、俺のような仲間が増えていくという事実が寂しさを紛らわしてくれた。

 こんな自他ともに認めるクソみたいな俺であるが、ひとつだけ気付いたことがあった。

 早い段階で人生に挫折し、部屋に引きこもった俺は、他人が意外と優しいということに今更ながら気付いた。

 ベンチでうだっているときに、「大丈夫か」と声を掛けてくれたおっちゃんや職質されたときに「家出」と勘違いされてやたら優しく接してくる警官、こんな屑にも丁寧な接客をしてくれるコンビニの店員、気さくに話しかけてくれる宿泊施設のスタッフ、ニートにも関わらず無邪気に笑顔を向けてくる子供たち。

 想像していたより世の中は優しいようだ。

 もちろん糞みたいな奴もいるが、比率的には優しい人のほうが圧倒的に多いらしい。「この世は糞みたいな人間の集まり」という色眼鏡は徐々にクリアになっていった。

 少なくとも、ニートで世の中に出ていなかった俺はそう思ってしまったのだ。それが全ての始まりだった―――

 だから、最初はこんなことをやるつもりはなかった。他人なんてどうでもよかった。現世なんてどうでもよかった。「全員死ね」と思っていた。しかし、いつの間にか俺の心にはこんな気持ちが芽生えていた。

 「やるだけやってみるか」

 クソゲーである俺の人生のどんでん返し。このクソゲーの真の起死回生ルートに本気で挑戦してやると。


 もう何百人と召喚魔法でこの現世に異世界人を転生させてきた。

 そして彼が最後の異世界人である。

 時計を見て、呼吸を整える。

 最後の異世界人の能力。それは「テレパシー」

 彼に頼み、俺が出会った全ての異世界人にテレパシーを送ってもらう。

 「近くのテレビかYOUTUBEを今すぐ見ろ!異世界に帰る方法を解禁する!」

 そして、テレパシーの能力を使って、電波ジャックする。

 画面にはブサイクな俺が映っている。どのチャンネルでも、YOUTUBEでも、何から何まで全てをジャックした。

 はじめて客観的に自分の顔を見た。そして驚いた。死んだ魚のような目の中にいつの間にかこんな光が宿っていたなんて。 

 これが真の起死回生ルート。

 「いきなり逃げたりして本当にすまなかった。それには理由がある。俺はこの世界を救いたいんだ。今から5分後にこの地球に隕石が衝突する。異世界に帰る方法。それは君たちが能力を3回使うことだ。俺の目の届く範囲、つまりこの電波が届く範囲であれば君たちの能力が使えるはずなんだ。俺は非力だ。なんの力も持っていない。だから助けてください。本当にお願いします。隕石が落ちて、周りの人間が全員死ぬ。隣を見てくれ!隣にいる人全員があと5分後にみんな死ぬんだ。最後にその能力で地球を、隣にいる人を救ってください」


 俺はあっけなく死んだ。まさに一瞬だ。

 この転生した現世とリンクした俺の最初の人生。

 現代の科学力を持ってさえも、隕石の接近にはほとんど気付けない。たとえ気が付いたとしても残された猶予は24時間もない。ましては、政府が公表を渋ることで、結果あと数分で人生終了、人類滅亡となった。それが俺の現実だった。

 そんな訳で引きこもりのニート含め、大半の人類は滅亡し、俺もその例外に漏れずあっけなく死んだ。

 もしこのクソゲーに起死回生のルートというものが存在するなら、それは現世を守ることに他ならない。

 「では、どうやって??」

 ワンチャンス。

 異世界の住人達をありったけ、この現世に転生させ、その能力で何とかしてもらう。

 成功するか失敗するかは、やってみないとわからない。

 そう、俺は気付いてしまったのだ。

 この世界は俺が思っていたより、優しい奴も多いということを。異世界人も人間である。

 ゴミみたいな人間の周りにはゴミみたいなやつらが集まるが、そいつらは案外少ないことを知っている。7割以上の人間は親切な心を持っていることを、俺は実感した。

 時計を確認する。

 「だから…」

 あと3分で隕石がこの日本めがけて落ちてくる。

 「俺は人間の優しさを信じてみる」


 ここは異世界―――

 激減した人口が戻ってきたことで、町には活況が戻っていた。

 どこもかしこも人々は口々に称え合い、祝杯を挙げ、勝利の余韻を堪能している。

 そして、ここは現世―――

 そんなこととは露知らず、この俺の人生という「神ゲー」は相変わらずこんな言葉が表示されている。

 To be continued...

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